第9.5話「特別」
ハーレンス王国下のとある町。
他国との境界線一歩手前に俺はいた。
「くっくっく、本当のチート的存在は巻き込まれた奴なんだよなあ」
俺はリア充たち、もとい勇者とされるクラスメイトの転移に巻き添えを喰らった。
そして案の定、特殊な機械でステータス的なのを見た際、俺には特別なものは何も表示されなかった。
恥じることはない。
それは普通の人間が創りだした魔道具だったからこそ。
(俺の異能は何も1つじゃない)
計測の時点で俺の情報は狂わした。
そもそも魔道具で調べるまでに猶予を与え過ぎだ、何百冊という異世界ラノベを読んできた俺からすれば自分の力や状況を把握するのは朝飯前。
その上で、自身の手で周りにわざと俺が平凡だと思わせたのだ。
だって拘束されるのは嫌だ、誰かに指示されて動くのなんてまっぴら御免。
モブキャラだった前世界を鑑みる。
(せっかく力を手に入れたんだ。今度こそ好き勝手にやるぞ)
自分は特別だ。
聞くところによると魔法適性は兎も角、異能を持つのは極わずかな存在だけ。
そして持っていたとしても1つが限度だろう。
複数の異能を所持する者は俺以外にはいないはずだ。
「いやいや、本当に異世界小説のまんまだよ」
落ちこぼれだと思われていた奴が実は一番強い、群を抜いたチートで無双して成り上がり。
予想では魔王討伐も余裕、遠くない内にハーレムだって作れるはずなんだ。
その中には春風さんも加えてやる、剣崎の悔しがる表情を想像するだけで心が躍ってしまう。
「まずはこの国を出ないと……」
テンプレ通りに物事が進んでいるとはいえ、用意周到に行動する。
調子に乗ってすぐ潰れるキャラになるつもりはない。
既に腰には創り出した『拳銃』も、しかも魔弾を発射する特別仕様、どんな敵が来てもすぐに対処できる。
(だけど、まだ足りない)
俺はもっと強くなれる。
リア充は絶対に知らないであろう、異世界系ライトノベルで培ってきた知識を駆使し、更なる高みへ。
そのためにはある程度は自由に振舞える他国へと移動し、それなりの修練に励む。
ここを頑張れば自分の天下、どうせ魔王の中には女もいるだろうし、屈服させてハーレムに加えてやるつもり。
「とりあえずは獣人国の方だな」
進路は別大陸である、モノ―ル大陸へ。
調べた限りだとそこには獣的特徴を持つ人型生物の国があるらしい。
つまるところケモ耳美少女たちがいるというわけ。
更には精霊とかエルフも多く住まうらしいし、修練以外にも楽しみが幾つもある大陸だ。
「テンプレ的に考えれば冒険者になるのもありだな」
冒険者も異世界での鉄板ネタ。
おそらくランク認定試験があるはず。
そこで新参者でありながら無双、一気に高いランクに認定されて周りから驚かれる。
なんて優越感を感じられるシチュエーションだろうか。
受付嬢との出会いにも、それから金を稼ぐ起点にも————
「ん?」
愉快な空想の最中、壁に貼り付けられた紙に目が留まる。
転移に際して備わった言語自動翻訳が仕事をしてくれる。
つまるところこの紙、内容はいわゆる指名手配書だった。
枚数にして9枚、なんとなく興味が湧いたので一通り目を通す。
「災厄の、数字?」
通称ナンバーズ、世間を脅かす集団のようだ。
ただ情報は個々によって、顔がある者もない者もいる。
しかしその懸賞金に驚く、転移してきた自分でも分かるレベル。
ゼロが何個も並ぶ、おそらくだが国王の身代金と同等の額、もしくはそれ以上か。
(というか二つ名カッコよすぎだろ)
『太陽殺し』『究極生命体』『黄金の錬金術師』
例で3つ挙げたが、それ以外もド派手な二つ名が並んでいく。
彼らは1から9までの数字をそれぞれ持つ。
ただ年齢や性別は様々で年寄りもいれば若い人もいるってかんじ。
勿論まったく情報が明らかでない者もいる。
「……氷魔法を究めし者」
なんとなく目についたのが『Ⅸ』
別名は『絶氷』らしい。
曰く全てのものを凍らすそうだ。
「全てってどれぐらいの範囲なんだろう……」
流石にそこまでは載っていない。
というか一番情報が少ない、顔どころか性別、見た目に関する一切のことが不明、年齢も分からないとのこと。
数字を鑑みるに、この中で絶氷が一番弱いと踏んだが、見つけられないのなら話にならないだろう。
ただ正直勝てるとは思っている、こいつらは俺の成り上がりストーリーの弊害には為りえない。
だって俺は異能を複数持っているんだ。
災厄の数字がどんな奴等かは知らないけど、ちょっと強い集団が良い気になって暴れているだけだろうさ。
(俺が真面目にやれば楽勝に決まってる)
もう虐げられることもない、此処は俺が主人公の世界だ。
私欲は止まらない、必ず天下をとって華やかな生活を送ってみせる。
むしろ確定事項、あらゆる富と女、名誉を手中に収めてウハウハするんだ。
強くなった俺、きっと春風さんも喜んで俺の傍に来るだろう。
「ふっふっふっふっふっふっふ」
周りに人もいないし、気配も感じない。
思い切って腰から拳銃を抜く。
狙いを定め一発、鳴り響く轟音、撃鉄が火花を生む。
懸賞金だけ書かれた絶氷の手配書に大きな風穴を開けた。
災厄の数字? 関係ないね。
「————俺の方が絶対に強い」





