第100話「役決2」
正。正。正。正。正――
直線に並ぶ『正』の文字。
これがなにかと言うと、つまるところ今回の結果である。
俺が、クレス・アリシアがどちらの役をやるかという――
「じゃ、満場一致でクレス君はヒロインで」
「ちょっと待ったぁ!」
「どこかの弁護士ぐらい珍しく声を張ってるわねクレス君。もしかしてあげぽよ?」
「あ、あげぽよ?……が何かは知らないけど、ちょっと待った」
抗議を呈した自分に、ワドウさんがやれやれと首を振る。
それは俺があげぽよを知らなかったからか、はたまた無駄な抗議をしてきたと呆れているのか。
だがそれでも文句は言いたかった。
なぜこのクラスはそこまで俺の女装を望むのだと――ッ!
「でも多数決の結果だからね。クレス君が男主人公が良いには1票、ちなみに入れたのはクレス君自身。ただヒロインが良いには28票入ってるから」
「だからそれだよ! なんで悪ふざけで男子……はともかく、女子全員まで……」
このクラスの人数は自分を含めて30人。
ケンザキがいないから29人ということになる。
現在――男子生徒14人。女子生徒15人の編成というわけだ。
だから男子が全員(悪ふざけ)でヒロインに投票しようとも、女子たちが全票『男役』に投じれば、少なくとも男として役を演じられたわけである。
気合いなどではどうにもならない、物理的な力によって。
――しかし。
俺の予想と反し、女子たちは男子に寝返った。
四面楚歌。
部下に裏切られた将軍とはこんな気持ちなのだろうか。
「ふふ、始めから部下などいなかっただろ」
「す、スミス……!」
「いや部下っつーか友達が――」
「そ、それは言わなくていい」
将軍としての立場(設定)を貫くとすれば、俺は少数精鋭で動くタイプなのだ。
……と、むなしい言い訳か。
とりあえず立ち上がった俺に目も向けず、不敵な笑みでスミスはそう言うのだった。
「……私たちもね、苦渋の決断なんだよ」
「マイさん……」
かわって、真後ろからマイさんが重く溜息を吐きながら告げる。
これは仕方のないことであったと。
どうやら俺の意思に関係なく、この多数決が起こると確信し、女子は女子で作戦を練っていたようだ。
「確かにクレス君のカッコイイ姿を見たい。女子の誰もがそう。しかし――同時に私たちの誰かがヒロインを務めなくてはならない」
「そ、そうだね。まぁ話し合いなりなんなりで決めれば……」
「話し合い? 全然違うよ。それは――戦争って呼ぶんだ」
「はい……?」
なにを言ってるんだマイさん。
とうとうこの真っ当サイドにいたはずの彼女さえ、狂ってしまったのか?
だが聞き入る他の女子たちはウンウンと頷いている。
「血で血を洗うことになるのは、どうしても避けたかった」
「そこまでガチな戦争なの!?」
「私たちは本気だよ。最後の1人になるまで――ね?」
「……」
圧気のせいで固唾を飲んでしまう。
どうやらこのクラスは始めから可笑しかったらしい。
「だから協定を新たに結ぶことにした」
「きょ、協定?」
「名付けて――アリシア・フェスティバル協定」
「……」
ザックリいうと、文化祭での俺を対象にした不可侵?友好?の約束事だとか。
というか新たにって……他にも条約なり協定があるような言い方だな。
「というわけで。死人を出してまで誰か1人が良い思い……ゴホン。ヒロインをやるくらいなら、始めから全員で降りようというわけ。だとするとクレス君には必然的にヒロインをやってもらうしか道がない」
「は、はぁ……」
「まぁ私たちが男装して主人公やるって手も考えてるんだけどね」
「それはまた戦争?になるんじゃ……」
「流石に数人は降りるからね。戦争からワンランク下がって紛争ぐらいで済むよ」
「結局は血が流れるんじゃない!?」
話の流れからするに死人も出るんじゃないだろうか?
ただ彼女たちなりに考え、俺をヒロインに推しだしたそうだ。
男に華のヒロインを譲る女子とはこれいかに。
「はーいはいはい。そういうわけだから、頼むよアリシア君」
最後にワドウさんが纏めて、話の総括に入る。
マイノリティはここでは否応なしに淘汰される運命らしい。
「……っく、分かった。今はそれでいい」
ここで俺が納得しなければ先に進まない、。
だが、だがだ、もしかしたら男役へと返り咲くチャンスが――
「じゃあ皆――主人公、決めようか」
一転、冷たく言い放つワドウさん。
同じく教室の空気もどっと重くなる。
みんなの目つきも鋭くなったような。
そして俺は知ることになる。
自分が考えていたよりも、この役決めは過酷で苛烈なものであると。
――まるで、戦争のようだった。
どうも、東雲です。
みなさんはライト文芸ってご存知ですか?
ボクはジャンルとしては知っていたのですが、実際に読んだことはほぼありませんでした。
バトルと萌えがあればいい!みたいな人間だったので(笑)。
大人向けのラノベ……みたいなジャンルです(たぶん)。
最近読む機会があって結構おもしろいなと。
特に専門的知識(怪談・科学・地理etc)が活用されたものは、楽しむと同時に勉強もできる。
自分もいつか書いてみたいなぁとも思ったり。
ただ、未だに悲しい感動系?は不得意です。
全員ハッピーな方がいいじゃん、とつい思ってしまうんですよね。
まだまだボクも子供ということなんでしょうか(笑)





