第98.5話「真之」
ユウト・ケンザキ
コウキ・スガヌマ
リンカ・ワドウ
マイ・ハルカゼ
彼ら彼女らは、異世界が《ニホン》より召喚された勇者である。
幾星霜ぶりの勇者召喚。
4人は偉大なる勇者になる――と、誰もが考えている。思っている。確信している。
しかしだ。
誰が勇者は〝4人だけ〟と口にしたのだろう。
それは国だ。それは王様だ。どこかの偉い貴族だ。
誰もが誰も〝5人目がいる〟などとは大衆に開示しなかった。
だから――誰も彼を知らない。
だから――誰も彼がどこにいるか知らない。
それこそ正体不明である。
世界から忘れられた男は何処に――
※
「はっはー。久しぶりだなぁ」
全身黒づくめの男が懐かしむ。
といっても目に前には広大な大地に、高い空、緩い風、なにもない。
しかし不可視ではあるものの、この足元には確かにある。
そして確かに越えたのだ。
ハーレンス王国の国境を。
自信家?へと一層成長したらしい男は、片方の口端を吊り上げ小さく笑う。
「まさかあんなに国境警備が厳重だとは思わなかったからな、こっちは手薄だったけどえらく時間が掛かっちまった」
流石は大国だ。
それを外に出てから知った。
「しっかし秋だってのに日差しがきつい……」
なにせ全身上も下も黒一色の衣装。
太陽の攻撃もダメージ倍である。
「でも異世界なりゲーム世界で活躍する主人公のデフォ衣装は『全身黒づくめ』と相場が決まっている。あのデスゲームを生き抜いた、かの有名ソロプレイヤーもずっと黒だった」
現実世界でこんな恰好をすれば母親に『もっと明るい色の服を買いなさい』と苦言を呈されるだろう。
だがここは異世界なのである。
服装から入るという着眼点は、あながち悪いものではないだろう。
事実、彼は服装やら刀剣へのこだわりが深く、今では見事に現地人との同化を可能にさせた。
ラノベ・アニメ的知識に加え、身ぐるみはがされた過去もあっての今である。
「――ん」
ここで彼の直感が反応ある。
視線を逸らせばそこには――
「モンスターか……」
広大な大地とは言ったが、更地や荒野というわけではない。
乱立する木々の間から、自分を狙う敵影を確認する。
そして――戦うしかないと確信する。
「大人しく退くことをオススメするぜ。お前ら如きじゃオレには勝てねぇ」
といっても相手は人ではない。
忠告を理解できるはずもないだろう。
それを証明するかのように、彼らは男に向かって飛び掛かった。
だが男からしてみれば、敵が木々から全身を出した――ようは的が露わになったということ。
「――穿て」
男は腰に携えていた【銃】を放った。
速射である。構える狙うなどというモーションは描写するまでもない。
リボルバーの回転音と落ちる撃鉄が瞬間に響く。
火花とともに放たれた【魔弾】は1つも狙いを外すことなく――迫ってきていた5つの眉間を打ち抜いた。
「他愛ないぜ」
銃口にふっと息を吹き付ける。
殲滅完了。直感は『安全になった』ということを脳に告げた。
「っふ、つまんねーもんを撃っちまった」
……
…………どこかで聞いたことのある台詞だ。
「おっと、あんまりゆっくりもしてられない。あいつらの危機かもしれないんだ」
脳裏には4人の同胞が浮かぶ。
1人むかつくやつがいるので、ささっと消して3人とオマケぐらいにするが。
「だが同胞のよしみ、それに今回のこれこそ間違いなく〝イベント〟だ。これを大成功させ巻き込まれ主人公としてついに輝く時。ハーレムの時も近いな……」
と、ずっと独り身だった男は悟ったように言う。
「だが、ようやく出番が回ってきたってことだ」
彼のことを忘れていた世界――いや、この物語を読むそこの君に告ぐ。
「――どこかにいるオーディエンス、随分と待たせたな」
「真野 彰吾の登場だ!」
どうも、東雲です。
昨日は紹介しなかったのですが、3巻表紙の金髪ちゃんは王女様です。
シルフィーナ・ハーレンス。
勇者召喚を行った重要人物であります。
なので彼女は剣聖ちゃんではありません……が、剣聖ちゃんも3巻で登場し活躍?するのでお楽しみに。
金髪つながりで勘違いされた読者さんもいるので紹介をしました。
webで出番はまったくない王女様ですが、さてどんな人物なのか……
次回の更新は11/6(火)です。
よろしくお願いします。





