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第9話「新風」

「————こっちの世界にも制服ってのはあるんだな」

「————普通に可愛いよね」

「————ったく、服なんてどうでもいいから早く鍛錬したいぜ」

「————あんたそればっかりじゃない」


 異世界に転移して勇者と呼ばれてから数日。

 今は明日から通うことになる、魔法学園の制服の最終採寸を終えたところ。

 地球では制服という概念は日本独自のものだったらしいけど、意外なことに此方の世界にも。

 白を基調にしたブレザー、向こうでは滅多に見ない配色だ案外成り立つ。

 素材も高いモノを使っていそうで、着心地は前の制服より良いかもしれない。


「にしても俺たちが勇者か……」

「マジで漫画みたいな話だよな」


 現在対面しているのは3人、勇者は私を含め4人とされる。

 黒髪に高い身長、体躯もさることながら何時も先頭をきってくれるのが剣崎(けんざき) 優斗(ゆうと)くん。

 ちょっと口調が荒いけど、漢気がある? のが菅沼(すがぬま) 幸樹(こうき)くん。

 やっぱり男の人の夢なのだろうか、2人はずっと魔法や剣の話で盛り上がっている。


「はあ、なんで私たちが勇者なのかしら……」

「はは、そうだね」

「しかも私の異能なんて『魔力ブースト』っていう脳筋仕様だし……」

「でも羨ましいよ。私は回復系の魔法しか使えないから」

「いやいやいや! 舞は完全に聖女ポジションでしょう! このままいけば王子様とか他国の英雄なんかから、っぐっふっふっふ————」

「り、凛花……?」


 私の親友、和道(わどう) 凛花(りんか)は眼鏡を怪しく光らせブツブツと呟やきだす。

 向こうでは委員長として堅物のイメージが周囲からあったけど、実際はこんな調子。

 自分でもよく腐っているとか、夢見がちとか、転生ラブロマンスがどうだとか言っていた。

 事実こうして私たちは異世界に来てしまったわけだけど。

 

(でも魔王を倒さなきゃ帰れない、やるしかないんだよね……)


 この世界の人たちが困っている、そして自分たちも倒さない限りは元の世界に戻れない。

 魔道具とやらで私たちの異能なる力、魔法適正、勇者という称号は確認することが出来た。

 とりあえずは目の前のことをやるしかない、そういう現状だと思う。


(あとは真野くんだけど……)


 姫様や王様たちに、絶対に喋るなと言われていることが1つ。

 それは勇者召喚に巻き込まれた(・・・・・・)者がいるということだ。

 勇者ではない唯の一般人、私たち4人以外にたまたま教室にいてしまった彼。

 名を真野(まの) 彰吾(しょうご)、魔道器によれば彼は『平凡』、なにも特出した点がない一般人と判断されてしまう。

 

「真野くん、大丈夫かな……」

「なんか飛び出して行ったんでしょ?」

「うん。そうらしいね」

 

 不遇な扱い、はされていないと思う。

 ただ気付けば彼は此処から立ち去っていた。

 残っていたのは手紙だけ、曰く旅に出ると。

 異能も魔法も知識も持たずに、一体何が彼をそこまで突き動かしたのだろうか。


(実は特別な力を持ってました、なんてね)


 だとしたら王様たちは大損だ、測定の魔道具も正確無比で間違いないと言っていたし。

 そんな機械に自分自身も色々なデータを取ってもらったわけで。

 その測定結果通りのことを力として体現できている。

 例えば私、春風はるかぜ まいは光属性、とくに回復系統に特化していると分かった。

 異能も『再生』と、お姫様たちからは聖女なんて呼ばれている状況だ。

  

(他の皆は攻撃系なのになぁ……)

 

 ただ残念というわけでも、元々前でガツガツ戦える性分だとは思っていない。

 むしろこの結果は僥倖とも呼べる。

 何度か試させてもらったが、大抵の傷は治すことが出来た。

 これなら皆の役に立てそうである。

 

「でもバランスは最高に良いよな」

「バランス?」


 私と凛花の会話に剣崎くんたちも加わってくる。

 話題はやはり戦いのことについて。


「前衛は俺、中衛は幸樹、後衛には和道さん、そして回復役に春風さんがいる」

「もうこれ魔王楽勝なんじゃね?」

「馬鹿、何を根拠に言ってるのよ」

「そうだね、まだこっちの世界に全然慣れてないし……」

「魔法なんて余裕よ余裕!」

「はあ、馬鹿には何を言っても無駄ね」

「なんだと凛花!? 喧嘩売ってんのか!?」

「事実を言ったまでよ」

 

 相変わらず大雑把というか、勝ち気な菅沼くん。

 異世界に来てからというものずっとこの調子だ。

 ちなみに喧嘩しているように見える構図だけど、凛花と菅沼くんは幼馴染という関係。

 この空気感というかやり取り、だいぶ馴れたものだ。


「大丈夫だよ春風さん」

「え?」

「君は俺が守るから」

「あ、うん。ありがと……」

 

 剣崎君がすごく良い笑顔を向けてくれる。

 ただ、正直なところ大袈裟というか、クドイというか。

 過剰に私に近づいてくる、困っても居ないのに私が出来そうなことも勝手にやってくれちゃう。

 正直いって鬱陶しい、いやそんなこと言えないんだけどさ。

 ただそれでもさまになる、なにせ剣崎くんは世間が言うところのイケメン、顔は整っているし、勉強やスポーツも何でも出来た。

 日本にいた時から勇者みたいな存在だったと思う。


「あれれ、また熱々してんの?」

「あ、熱々!?」

「でもお似合いよね。舞の見た目偏差値だって軽く80越えだし」

「そ、そんなことないよ!」

「イケメンと美少女、王道だわ……」

「やめてくれよ和道さん。恥ずかしいだろう」


(恥ずかしい!? 全然そんな風に見えないんですけど!?)


 当の本人、剣崎くんは余裕の笑みを浮かべている。

 私からしてみればいい加減にしてと。

 クラスメイトたちからカップル認定されてたり、冷やかされたり、真実としては剣崎くんが勝手に近づいて来るだけなのに。

 彼は良い人である、悪気が無いのも察してる、ただ誤解されるのもうんざり。

 これから通う学園では、もっと自分から主張していかないと。


「主役は黒真珠のような長い髪と瞳を、顔の造りは美しい人形のようにも、煌めく彼女を巡り世のイケメンたちが————」

「凛花、私を女性向けコンテンツの主人公にしないで。これで何度目よ……」

「ごめんなさい。つい妄想が」

「もう……」


 確かに昔から男の人にはよく告白される。

 ただみんな私の顔しか見ていない、外見にしか興味がない。

 だからなのか、私は15年間生きてきて、好きな人というのが見つけられない。

 周りの女子からは取り合えず誰かと付き合えば、そう言われたけれど————


(もっと私自身、外面じゃなくて内面を見てくれる人……)


 下心のない視線、真っすぐに春風 舞という人間を探る人に出会いたい。

 話すのは世間話でも構わない、自身のことでも構わない、なんでも構わない。

 ただ、何歩も踏み込んだ関係を持ちたいんだ。

 

(わ、私だって恋人欲しいし……)


 決して興味が無いというわけではない、むしろあり過ぎるのではないだろうか。

 なにせ年齢イコールなんちゃらとやら。

 未知の領域、興味が湧くのは致し方ない。


「学園、意外と楽しみだなあ————」


 知らない世界、知らない力、知らない知識や物。

 そして私を知らない新たな人たちとの出会い。

 不安もあるけど期待も胸に抱く。

 勇者として、春風 舞として、第2の人生が始まる。

 

 

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