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第94話「企画」

 新章にあたり基本を一人称に戻しました(コロコロ変えてごめんなさい)。

 必要な場面に応じて三人称を使ってみます。少々挑戦的?なやり方になりますが違和感出ないよう頑張ります。ホントに酷かったらメッセージをください……

 残暑も和らぎ、少しずつ秋に近づいてきた今日この頃。

 ハーレンス王国にも涼しい風が吹いている。

 

 だが王立魔法学園1年S組の教室では、季節外れな〝熱風〟が吹いていた。

 その理由たるや――



「と、いうわけで! 文化祭の〝出し物〟を決めます!」


 

 一段高い壇上に上がったワドウさんが、メガネをギラリと反射させ大きく言葉を発す。

 トピックステートメント。

 話題は約1ヶ月後に控えた文化祭。

 自分――クレス・アリシアが所属するこのクラスでなにを行うかであった。


「当日の前に1週間休校となるとは言え、早く決めて早く準備するには越したことはない。どんどん意見を出して欲しいな」


 ワドウさんの隣には、彼女と同じく『文化祭委員』になったウィリアムがいる。

 こういう役割はなかなか決まらないものだが、うちのクラスはワドウさんがすぐに立候補。少し間を置いてウィリアムが挙手をしてくれた。

 

 無論反対するものなどいない。

 

 唯一突っかかりそうだったケンザキは現在入院中である。

 懲らしめるという王国の了解ゆえマイさんの異能で回復させることなく、現在進行系で一般療養の子となっているのだ。


「ボクはメイド喫茶だね! メイド喫茶!」

「ダンジョン風お化け屋敷でしょー」

「占い系とかダメかな」

「いっそ教室外で出店やるのもアリじゃない?」


 ――と、言う感じで皆盛り上がっている。

 このクラスの面子は催し事に全力投球するタイプだ。

 やる以上はしっかりやる、そのスタンスは素直に素晴らしいと思う。


「……で、スミスはなにか案を出さないのか?」


 俺は隣で深く考え込む友人に尋ねた。

 こういうイベントではいの一番で声を上げそうな男が、今の今まで黙ったままなのである。


「えらく考えてるじゃん。てっきり最初の奴みたいにメイド喫茶やー!とでも言うのかと思ってた」

「クレスよ。メイド喫茶というのは定番も定番。安直の極みぞ」

「でもメイド好きでしょ?」

「もちろん。だがこの俺がまさかメイドが好きなだけでメイド喫茶を提案するとは、愚直だなクレス」

「あ、ああ」


 妙に理知的である。

 ただ理知〝的〟というだけで、賢いかどうかはまた別の話だ。


「はい! オレから1つ」

「どうぞ」


 挙手をしたスミスをウィリアムが指す。

 立ち上がる拍子に椅子をガタン!と音を立て、スミスは両手をバン!と机に叩き付けた。

 まるで政治家である。


「ズバリ! おっぱいパ――」


 ブ、と言い切る前にワドウさんが魔法を放つ。

 スミスは足を宙に浮かせそのまま45度の方向にくの字で飛翔、壁に叩きつけられた。


(死ん……いや生きてるか)


 足の先がピクピク動いている。

 どうやら死んでないらしい。残念だ。

 バカは風邪ひかないに、バカは死なないを通説として加えるべきだな。


「エロ方面も案として出す分には構わないけど、限度は考えて欲しい。流石に学園行事だからね」


 真面目な顔で勇者さんは警告を鳴らす。

 普段彼女もだいぶグレーゾーンを突っ走っているが、良識はある。


「分かったスミス君? もし限度超えたら魔法ドッカーンだからね?」

「も、もう、ドッカンされたっつーの……」


 ヨロヨロと立ち上がったスミスが席に戻ってくる。

 誰も心配しないぐらいには、もう見慣れた光景である(見慣れたというのはスミスが吹っ飛ばされる事に対して)。


「でもみんな結構似たり寄ったりというか、あまり珍しいものはないね」


 案を箇条書き。

 黒板に書き終えたウィリアムが、手についた白い粉を払いながら文字を見つめる。

 確かにメイド喫茶なりお化けや屋敷なり、それは珍しくもなんともない。

 一種の無法地帯で知られるこのクラスにしては、やけに大人しいというか大人っぽいまともな意見群だ。


「ふぅ、先生ひと安心」


 教壇横で座っていた担任デニーロは一安心だとか。

 そうだな、教師からしてみればまともで助かったというべきなのだろう。


「じゃあワタシからも――」


 全員が落ち着いた頃に、ワドウさんが改めて口を切る。

 どうやら彼女は板書されたもの以外でやりたいことがあるらしい。

 

「ワタシは演劇(、、)を提案します!」


 チョークが板に擦過しカッカッカと高い音色を奏でる。

 黒と言うよりも年季で緑に染まった黒板には『演劇』と一筆で記された。


「演劇か……」

「ほぉ、いいんじゃない?」

「確かに。お店やるよりも文化祭っぽいかも」

「別に反対はしないかなー」


 彼女の提案に、意外と皆は賛同的である。

 劇の内容はまだにせよ、反対するものはいなかった。

 もちろん俺も特段反対しない。

 正直なところなんでもいいと思っているのだ。


(それに演劇を選択した場合は3日間の祭りのうち、1日やればあとは自由だからな――)


 ハーレンス王立魔法学園の文化祭は3日ある。

 

 1日目:出店

 2日目:出店+会場でコンテスト(ミスコンやミスターコンなど)

 3日目:出店+会場でパフォーマンス(演劇や演奏など)

 

 教室で店や展示をやるクラスや部活は、基本3日間全てやる。

 しかし演劇を選択すれば、仕事があるのは3日目の数時間だけ。

 それ以外の時間はお役無しと、自由に文化祭を楽しむことができる。


(といっても練習やら準備で1日目も2日目も潰れそうだけど……)


 それでも普通に普通のことをやるよりかは、自由な時間は増えるだろう。

 

「このクラスにはワタシを含め勇者や――アリシア君もいるし、面子は十分も十分。劇をやったら良いトコロまで行けると思うのよ!」


 ワドウさんはより賛同を得るべく持論を展開。

 なるほど。勇者がいるというのは観客が来る上での良い宣伝になるだろう。

 しかしなんで俺まで――


「ただ演劇をやるといっても、ボクだちは素人だからね……」


 ウィリアムの言う通りだ。

 準備期間1ヶ月でできるのだろうか?

 実際自由になる時間は増えるのに、多くのクラスが劇をやらないのが難易度のせいでだと思う。

 

「まぁ内容は皆が知ってるようなテンプレでいいでしょう。お姫様と王子様がどうちゃらこうちゃらする話よ」

「どうちゃらこうちゃらって……」

「皆で楽しむことが第一だから。真剣にやるだけで面白さを帯びてくると思う。きっと観客にも伝わる」

「……なんだかワドウさん、珍しくちゃんとしてるね」

「珍しくとは失礼ね」


 ウィリアムは彼女の応答に目をパチクリとしている。

 俺だってそうだ。

 あのワドウさんが暴走もせず、こんな真面目に――


「それによ、みんな聞きなさい。お姫様と王子様(、、、、、、、)――よ?」

「「「「「?」」」」」

 

 疑問形で投げかけられるが、一堂クエスチョンマークである。

 それが一体何なのか?

 ワドウさん自身が言ったとおり、当たり障りのないストーリーなら、姫や王子くらい当たり前にある役割だろうに。


「もし仮に、演劇をやることになったとして。王子役――このクラスで誰がやるかは言うまでないんじゃない?」


 ――!?


 ここで俺はなぜか悪寒を感じた。

 しかも間髪入れずに全員がこちらに視線を向けてきたのだ。

 盛り上がっていた空気が一瞬だけ凍り付く。

 だが凍結はすぐに溶け――


「いやー私さ、演劇が好きで好きで仕方なかったんだよねー」

「ウチもウチも。劇やるためにこの学園来たようなもんだし?」

「アタシも! 魔法なんかより演劇だよねこの時代!」

「あー楽しみだなー! 演劇やりたいなー!!」


 クラスの約半数、女性陣がこぞって『演劇イイナ!』を口にし出す。

 一体どうした。演劇やるために学園来たとか言ってる人もいるし。

 Sクラスまで来てなにを言っているんだという……


(あとめちゃくちゃチラ見してくるし皆)


 対して男子のテンションは今ひとつ。

 だがそんな様子をウィリアムは見て――


「ふっふっふ。甘いよワドウさん」

「なに……?」

「逆に言わせてもらうならば、お姫様役――このクラスで誰がやるかは、少し考えれば見えてくることじゃあないか?」

「それは舞とか……あっ! まさか!?」


 マイさんと言い切る前に、ワドウさんはガバッと身体ごと俺の方に向ける。

 食い入るように傾ける視線はハンターのよう。

 つられるようにして男性陣もこちらを訝しげな目で見てきた。


「そうか、このクラスにはとびきりの美少女が……」

「だがナニが付いてるぞ?」

「笑止。可愛いは性別を凌駕する。まぁお前が無理というならおれがやろう」

「待て待て! お前には譲らないぞ! ボクがやる!」

「アイツが男役なら俺たちの完敗だったが、アイツが女役をやるならば……くぅ! やる気出てきたぜぇ! 演劇さいこぉ!」


 と、なぜか急にやる気になり出す男性陣。

 お前たちだいぶ怪しい会話してるが――


「……頑張れよ、クレス」

「な、なんでそんな哀れみの目を……」


 隣の席のスミスが『同情するぜ』と、いや俺まだ何も発言していないし何も賛同・許可していないんだけれども。

 気づけばクラス大盛り上がり。

 所かしこで『アイツは姫様だ!』『いいえ彼は王子よ!』というやり取りが聞こえてくる。

 しかも魔法まで飛び交ってないか……?

 どうなってるんだこれ……?


「お、おお、お前ら落ち着け! 魔法はやめ……あぁぁぁ! 事後処理がぁぁ!」


 デニーロ先生は学級崩壊を必死に食い止めようとするが、やむなく敗北。

 減給だ減給だと泣いている。

 泣いてる場合じゃないでしょうに……

 この担任教師も大概変わり者だ。


「はいはい! じゃあ多数決を取りましょうか!」


 ワドウさんは大きな笑顔を浮かべて決に入った。

 公平で公正な多数決のもと――




 このクラスの出し物は『演劇』に決まった。

 どうも、東雲です。


 最近急に寒くなってきて、布団を厚くしました。

 そして今年もあと2ヶ月ちょっとで終わり。

 年齢を重ねるごとに時間の流れが早くなってます…

 3巻もあと1~2週間で校正まで終了。

 11月は週3~4回投稿ができそうです。

 色々と(、、、)仕込んでいるので、もう少しお待ちくださいませ。


 だいぶ秋冬っぽくなってきました、皆さんもお身体に気をつけてください。

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