第90話「防衛4」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
言葉にならない言葉が大地に響く。
全てを溶かしながら進む流動体の魔族は、その異能を持って侵略を。
本来の魔族ではありえないその巨体を持ってだ。
だが、異世界人に頼らなくとも人は進化を続ける。
その成果こそが――
「幾星霜の礎を経て今ここに。開帳――疑似天使降誕」
丘陵の最も高い場所より〝光〟が昇る。
上昇する輝きは僅かにあった雲を割り、天空に届く。
「――天装
光はセンの小さな身体に粒子となって形を成していく。
天輪を冠し、翼を広げ、開眼した真眼が敵を見定める。
「――聖剣接続」
その手には賜った一振りの聖剣。
全身から放たれる光の粒子は肩、腕、手首を経てその刀身へと集約される。
輝きは太陽にも負けず、はたまた大気すらも奔流させてしまう。
「――充填、完了」
聖剣に渦巻く巨大な力。
風と光が右に回る螺旋を描く。
「――決める」
人を超えた力、踏みしめた足が大地を揺らす。
その時に巻き上がった砂塵は風に舞っていずこへ消える。
柄を両手で掴み、上段に構えた。
そして……
「――悪を穿つ天輪の刃」
轟。
大気を擦過し、空間が唸りを上げる中、聖なる剣はその真価を発揮した。
音は剣自体が生んだというより、剣が自然を鳴かせたという方がしっくりくる。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
「――っ!」
振り落とされた必殺の一刀、もちろん敵はタダで喰らうはずもなし。
その剣劇を融解せんと全身から触手を生み、弾道ミサイルのように飛ばす。
――が、
「……足止めが俺の仕事なんで!」
――凍れ。
きっとセンも魔族も轟音で聞き取れない、人の声がした。
男が生み出した氷波は四方八方から、あまりのサイズに氷漬けにすることは不可能だが、それでも僅かに動きを止めることぐらいには成功した。
「……ありがとクレス」
持った柄に全力を込める。
押して、押して、押して、押して。
パリンと天輪にヒビが入るが――構いはしない。
そのまま一気に……
「――葬る!」
剣劇は大地へと着弾する。
一刀両断。
「…………GU……gA……aaa…………a……」
大エネルギーの一撃が見事炸裂したのだった。
そしてやり遂げたと確信し、センもまた意識を落とした。
◆◇◆
「……あっちゃー、再生始まっちゃったけど」
クレスはその後を見て現状を嘆いた。
『あのボクっ娘聖剣使い、ミスったみたいね』
「結構良い威力だったんだけど……」
『向こう……あの気持ち悪い魔族も、それなりの異能を持っていたってことでしょう』
「うーん……」
異能がしくじったわねと冷静に告げる。
クレスとしてもこういう失敗展開を予想していなかったわけではないが……
(センが本気でやってくれたのに――)
しかしスライムの身体全てを消滅させることは叶わず。
残った破片たちが集合し、今復活を遂げようとしている。
(一カ所だけじゃなくて、ちりぢりに再生してるのがまたタチ悪い。どうせ最後にはみんなでくっつっこうって魂胆だ)
氷魔法では〝消滅〟というのがむずがしい。
人型であれば氷漬けし、それを割るだけで済む。
しかしアレ全てをミクロ単位まで分解するのは……
(……ど、どうしよ)
侵略は一時的に止まったが……氷漬けにして時間稼ぎする?
いやしかし……
「――燃やし尽くせ、焰の罪!」
ここで彼女の声がする。
太陽よりも熱く輝く、赤い災厄――
「おっら!」
天空から落下、凄まじいフレアが大地に放たれる。
それはクレスが凍らせてきた大地さえ溶かし、そんまま焦土へと変える。
水分は蒸発し、森羅万象全てを消滅させ――
「――アウラさん!? や、やば、エル!」
『全力出すわ!』
「センも助けてやって!」
『ったく、今回だけだから!』
クレスが悟った時には赤い一撃は着弾。
半円状の巨大クレーターを生むのだった。
これではクレスもセンも……
「――あ、あぶな~」
自分の身体を覆うくらいの氷壁を緊急作成。
離れたセンにも同じのを。
エルレブンが全力で作った壁だ、外は若干融解しているがなんとか耐えてくれたらしい。
もう1つ言うと……
「スライム撃破だぁぁぁぁぁ!」
アウラがクレーターの傍で雄叫びを上げている。
なんと、最後の最後は突然登場した彼女によってとどめを刺されてしまった。
『危ないっての! このアホ女!』
「あ! エルレブン! クレスも!」
「……また派手にやってくれましたね」
エルの罵声に気づき、アウラが駆け寄ってくる。
その髪は紅蓮を創造させる真っ赤な赤、どうやら戦いの中で変装の魔法が解けてしまったらしい。
正確には溶かしてしまった……と言うべきか。
「クレスの気の方に向かってきてたら、変なのいたから燃やし尽くしたぞ!」
「えぇ……」
あっけない幕引きである。
センがここまで頑張ってくれたのに、アウラが一発で決めてしまった。
まぁ聖剣でだいぶ体力を奪った……お陰もあるだろうが。
なんにせよ仕事は完了である。
クレスはセンの元へと走り、その小柄な身体を両手で持ち上げた。
「おつかれ聖剣使い! 気絶してるけど!」
「アウラさん、声大きい。起きたらどうするんですか」
「?」
「髪も瞳も赤に戻っちゃってますもん」
「あ!」
そうだ変装中だった、というのを思い出した顔だ。
(しかしセンの意識がなくて助かった。アウラさんともガッツリ喋っちゃってるし、こんなところを誰かに見られでもしたら――)
ただ周りに人の気配も魔力反応もない。
最後はあっさりであったが、このままセンが倒しきったということで――
「――砲撃展開」
撤退、はできなかった。
「アウラさん!」
突如来たる攻撃はアウラの方へ。
見事な不意打ち。見事な威力。
「……っ!」
ただアウラとて災厄、シックスセンスと凄まじい性能を持つ身体がその攻撃を寸でで弾く。
しかし2人の警戒心を高めるには十分すぎる攻撃だった。
一体何者――その疑問はすぐに解かれた。
「――残念、赤女は死にませんでしたか」
空間がガラスのような音を立て割れる。
そして中から棺を背負った女が現れた。
「お、お前は……!」
「まさか……!」
アウラ、クレス共に驚きの表情。
それに対し、襲来した女は仏頂面でこう言った。
「――久しぶりですね、ワタシの信者」
どうも、東雲です。
執筆の息抜きでちょっと前のアニメを観ることにハマっています。
最近はようやく『サムライチャンプルー』を見終わりました。
参考になるシーンが多く、個人的には15話のお初の立ち回りが好きです。
男心を引いて引いて……最後も引く。なのに不快感はない。見事でした。
次は『トライガン』か『カウボーイ・ビバップ』を観ようかなと。
どちらも名作と聞くので楽しみです。