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第85話「対策」

「――クレスー、お菓子食べる?」

「――いやいい」

「――ん? 遠慮しなくていいんだよ?」


 剣聖――センがクレスにお菓子を差し出す。

 この光景を教国の教徒たちが見ればみな驚くだろう。

 なにせあの大食らいの剣聖が、他人に自分の大好物を分けようとしているのだから。


「遠慮はしてないけど……って、えらく押し押しでくるなセン」

「……あのバーサーカーがいなくなったから」

「あー……師匠ね」


 バーサーカーもとい師匠――アウラのことである。

 アウラの実力を静かに察知してか、彼女がいる間は警戒してあまりクレスに近づかないでいた。

 いわばその反動が来ている……と言わせるほど、センは見事な懐きっぷりを発揮していた。

 

「……あの人がずっとベタベタくっついてたからさ」

「貴女も今、十分にベタベタしていて何人かの嫉妬を買っているかもしれませんわよ?」

「……ひめさまは気にせず会議を進めて」

「ぬぬぬ……はぁ、致し方ありせん。そうですね、まずは会議を進めましょう」


 戦姫ローズはセン、クレス、勇者3人を連れて会議室に。

 ここにいるのはいずれも強者。

 クレスからすれば勇者たちはまだまだ未熟だが、それでも、こういう時(、、、、、)のために召喚された者たちだ。

 異能もある、未熟だろうとなんだろうと中枢には来るべくして来る。


「(モテモテだなクレス)」

「(……そうか? ならスガヌマに分けてやろうか?)」

「(いや遠慮しとく。女に刺されて死ぬのだけは御免だからな)」

「(俺は誰かに殺されるのか!?)」


 かっかっかと笑うスガヌマ。

 他の勇者――ワドウ、マイもあまり緊張した雰囲気は見られない。

 ただマイはクレスとセンをジト目で見てはいるが……


(ッチ、イケメン軍人の登場を期待したのに……。まさかの参加でしているのはこれだけっていう。今回はクレスきゅんだけで我慢しましょう)


 この会議室で唯一真剣な面持ちだったワドウさえ、内心はコレである。

 ……もはや一番ダメな奴かもしれない。




「――改めて、ブリーフィングに入るわ」



 

 打ち合わせを開始――

 座るクレスたちに対し、ローズは一番前の壁に帝都が中心にある地図を貼る。

 そのまま立ちながら解説を始めた。

 

「今わたくしたちは――ここ、当然帝都にいる」


 現在地、赤いペンを使って大きく丸を描く。

 

「そして敵はここから数キロ離れた……」


 今度は青いペンで敵の場所を大きく丸で記す。

 その円の大きさは帝都と同等――


「種族はスライム。この巨大なサイズからして……おそらく四天王級の実力を持つ魔族ね」

「……だね。……まず一介の魔族じゃない」

「てかここ、俺とセンが前にお菓子?デザート?の食材獲りにいった場所じゃないか?」

「……うん、やっぱなんかいたんだなー」


 そのせいで式典を遅刻しそうになった。

 2人としては記憶に新しい。


「報告は受けていましたわ。ただ……こんなモノが帝都に向かってきているとは予想外」

「もっと早い段階で発見はできなかったんでしょうか?」

「勇者マイ、貴女の疑問はもっとも。観測兵の通信によると――どうやら突然現れたらしいの」

「突然……」

「ええ、まるで時雨(しぐれ)のようにね」


 ただ自然現象ではなくこれは魔災。

 間違いなく意図してだ。


「透化するにしても、酸性を持つスライムなら必ず足跡が残りますよねぇ」

「仰るとおりよ勇者リンカ。あの場で巨大化したとしか考えられない。つまり――もともと帝国への侵入を許していたことになる」

 

 まだ被害出る前に発見できたとはいえ、やはりローズには悔しさがあるようだ。


「暫定名称――スライムΣ(しぐま)は、その巨大な身体で帝都そのものを飲み込む気でしょう。最優先目標は勇者……逃げようと思えば貴女たちは逃げられるけど……」

「それじゃあ勇者の意味がなくなるもんな。それに――」

「民は見捨てられない?」

「おう」

「ふふ、勇者スガヌマ。勇猛果敢な姿勢は帝国民たちも喜ぶと思うわ」


 微笑む、というかは賛同するかのようにニヤリと笑うローズ。

 その気概は良しと言わんばかり。


「ただ、この突然の出現にもともと森に居着いていた魔獣も驚いた。運悪いことにスライムΣに先行する形で帝都に逃げてきている」

「……斥候、というかは突撃兵だね」

「つまり、俺たちは魔獣も相手獲らないといけない」

「ええ」


 獣の大軍が帝都を目指す。


「スライムΣの帝都への推定到着時間は〝2時間後〟よ。でも先行する魔獣たちは1時間ほどで帝都に到着する。というか……足の早いやつらはもう来ている。今は帝国兵だけで対処できるレベルだけどこれが大群になったら厳しい」


 大群が来るのはだいたい1時間後くらいかしらと伝える。


「じゃあ私たちは魔族を押さえつつ、スライムΣを倒さなくちゃいけない……ってことですよね?」

「不安そうねマイ・ハルカゼ」

「私は……攻撃に特化した異能じゃないので……」

「承知してる。まさかわたくしも衛生兵を前線に出したりしない。貴女には負傷兵の手当……それから救護班の指揮を取ってもらうわ」

「し、指揮――っ!?」

「ええ、貴女はカリスマ性あるだろうし」

「そ、そそ、そんな大役……」

「大丈夫! きっとできるわ! 勇者に選ばれるというのは凡百の人間にはまず無理だもの!」


 と、鼓舞されつつ押し込まれるマイ。

 ただ自分にできる仕事はしっかり理解してもいる。

 一考はしたものの、数拍置いて分かりましたと応えた。


「魔獣の対処にはリンカ・ワドウ、貴女が主力になってもらう」

「了解です」

「あら、すんなりね」

「自分の適性ぐらいは把握しているつもりですから」

 

 ようは大規模魔法でズドン!とやる要員である。


「わたくしは軍の指揮をしつつ、援護射撃をします」

「あのー……オレは?」

「ん、コウキ・スガヌマは――」


 チラリ、ローズがセンを一瞥する。


「貴女次第です、剣聖」


 全員の視線がセンへと向けられる。

 白髪の少女はそれに対し――




「いいよ」



 

 と、一言だけ応える。


「いいよ、というのは……」

「……ボクに〝全力〟を出して欲しいんでしょ?」

「ええ」

「……いいよ、今回だけね。……だからその勇者なんちゃらは要らない」

「な、なんちゃら!?」

「……ボクの隣にはクレスだけいれば十分。……足手まといはいらないかな」

「あ、足手まとい……」


 センのクールな言い方に流石のスガヌマもダメージを受けたらしい。 

 ガックシと首を下ろしている。


「セン……そんなに俺に期待されても困るんだけど……」


 クレスは若干困惑した装いで苦言を呈す。

 ただ剣聖は――

 

「……ひめ、どうせスライム倒す対処法はロクにないんでしょ?」

「目下検討中ですが未だ打開策は。正直なところ……剣聖の力頼みです」

「……だよねー」

「あのサイズのスライムと言えど魔力は有限です。力技でゴリゴリ削っていくのが現状一番の手かと。あ、それと不要ということなら勇者スガヌマは魔獣対処側に回ってもらいます」

「オレの扱いなかなか雑だな……」


 ごもっとも。


「……クレスはテキトーでいいよ。……ボクがやるからサポートって感じで」

「簡単に言ってくれる」

「……んー結構なサイズって言うし、せっかくなら大技キメたいなぁー」

「って、聞いてないし……」


 どうやらセンにはセンで〝打開策〟があるらしい。

 あの名指揮官ローズがほぼ個人に頼むぐらいだ。

 やはり期待するところ――ナニカがあるのだろう。


「ではスライムΣの先行対処はセン、それからクレスさんにお願いします。魔獣の片が付き次第我々も魔法攻撃を始めます」

「……土地に被害出ても文句言わないでね?」

「人の命を守れるのなら焦土と化すことぐらい安いモノです。存分に暴れてください。というか、加勢するまでもなく倒してくれると大変ありがたいのですけど」

「……ま、頑張ってみる。……ね、クレス?」

「あ、ああ」


 一見ロリ――失礼、自分と同じ年の少女がここまで言うんだ。

 クレスとしても頑張ると応えるしかない。


(でも、本当にセンだけで仕留め切れるのか……? なんだか嫌な予感がする……)


 アウラは正体不明(アンノウン)と交戦中。

 クレスの予想だとあの強者を討つにはそれなりの時間がかかる。

 どれだけ遠くで戦闘しているかも不明、アウラに助けは請えない。


(なにかを見落としているような……見落としているような。この胸騒ぎは……)


 着々と進んでいく対策会議。

 クレスは終始どこかスッキリしない、悶々とした気持ちを抱えているのだった。

 次の更新は7/31(火)です。

 2巻発売日の前日になんとか更新ができそうです。


 というわけで、イラストを期待していた方々すいません。

 お見せできるのは次話の時になります。

 って、次だ次だとハードルを上げてしまっているんですけどね……

 少しでも皆さんに楽しんでもらえたら幸いです。

 

 あ、流石に遅刻はしませんよ?

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