第82.5話「逆襲」
「――おつかれ、交代の時間だ」
「――あーもうそんな時間ですかー」
帝国を象徴する〝黒い軍服〟を来た男が声をかける。
相手もまた軍人、休憩ということで首にかけていた双眼鏡を手渡した。
「帝都では今頃選抜戦、お祭りの真っ最中だってのにこの暑い中……」
「仕方ない。オレたちは軍人だ」
「そしてこの街から離れた観測塔で警戒をするのが役目」
「その通り。分かっているじゃないか」
首都から数キロ離れた所にある帝国軍の支部……というかは駐在所とでも呼ぶべきか。
陸のど真ん中に建てられた展望台、上に登れば当たり一帯を観ることができる。
「しっかりやっていだろうな?」
「もちろん。4時間ぶっとおしで観てましたとも。異常はありませんでした。むしろソッチの方には?」
「本部からはなにも連絡は来ていない。勇者たちの護衛も万全というわけだ」
この観測塔は帝都を囲むように建設されている。
つまり陸上からの攻撃や侵略はすぐに察知ができるということ。
目視の他にも魔力探知機も使っており、警戒態勢は整っている。
「おっと、双眼鏡だけじゃなくて通信機も渡してくれ」
「あーそうだそうだ。忘れるところでした」
「おいおい大丈夫か?」
「この暑さで頭がやられたんです」
「ふふ、早退するか?」
「え!?」
「ま、そんなことは当然認められんがな」
「……ですよねー」
駄弁りつつも交代は手早く、確認事項もチェックし終える。
休息を与えられた方がようやく下へと降りる――降りようとしたその時だった。
「うっそ……だろ…………?」
驚く――というかは、困惑した声を上げる。
「ん、どうした? まだなにかあるのか?」
「あの、俺、本当に暑さに頭をやられたかもしれません」
「?」
「でかい、超巨大なスライムが見えるんです――――アソコに」
男が指差したのは西の方、深い森だった。
ただし緑は消え、赤とも青ともいえぬ不可思議な色の森となっている。
ずばりスライム特有のネットリとした粘体が一帯を覆いだしたのだ。
「……おいおい」
「もしかして見えてます? 俺だけじゃないですかね」
「……ありゃマズイだろ」
「マズイですよね」
「どんなサイズだ……普通の何百、何千倍……いや、それ以上か、目視じゃ皆目見当つかんぞ」
あまりに突然のことで慌てるどころかむしろ冷静になってしまう。
目の前――と言っても、物理的距離はまだかなりあるだろうが、それでも巨大、巨大すぎるスライムが帝都側へと確実に前進してきている。
「できれば夏の眩惑であってほしかったですね」
「間違いない。だがこうしてはいられない」
「ハイ」
先まで若干けだるそうだった男の目も据わる。
こんな風に分析や無駄口をしているものの、事の重大性をジリジリと悟っているからこそ。
「本部に至急連絡をしろ――ッ!」
「っは!」
休憩を与えたはずだったが訂正、防衛体制へと移行すべく命を下す。
そして命じられた男は駆け足で塔を降りて行った。
このことを本部――帝国にすぐにでも伝えなくてはいけない。
「事前に聞いた、戦姫様たちの予想が正しいのなら、奴らが本腰を入れてきたということ……」
「――魔王軍、ついにその本命が侵略に来たというわけか」
この帝国編はスムーズに終わらせるつもりです。
ただ今回の話は短くて申し訳ないです。
かくいう短い理由として……実は昨日PCが壊れました。
まだ3年しか使っていないのに、本当にアンラッキーです。
今は学校のPCで執筆しているという悲しい現状なので、次の更新は日曜になるかなと……それか月曜ですかね。
週末にPCを物色しに秋葉原に行く予定でして、一緒に細田守監督の『未来のミライ』を観てこようと思います。
なんだかんだ色々楽しみなこともある毎日です。