第81話「外旋」
「――お久しぶりです、クレス・アリシアさん」
「――ど、どうも」
選抜戦の行われる広い会場。
1回戦もいよいよ大詰め、最終試合を迎えようとしていた。
対戦カードは自分クレス・アリシアと――
「えっと、エーベルング様は……」
「ローズで結構です」
「あ、はい。じゃあローズさんで」
帝国の『戦姫』ことローズ・エーベルングさんが目の前に。
気遣い無用と言われた。
ただ読み捨てにするほど仲が良いわけでもないし、それに――
「姫様ー! そんなやつぶっ殺しちゃってくださいよー!」
「八つ裂きじゃごらァァア!」
「地獄送りですぜエーベルング様!」
既にステージの上に上がっているわけだが。
お聞きの通り、観衆に大人気の戦姫様。
対して俺は……
こんなところで気安く、それこそ試合開始寸前とはいえ仲良くしようものなら帝国の男たちにどんな仕打ちをうけるか。
少なくとも夜は外出できなくなるだろう。
「申し訳ありませんねクレスさん、元気一杯な人間が帝国には多いもので」
「げ、元気一杯ですか……」
そこは『血の気の多い』とか、『クレイジーな』とか、そういう言い方の方が正しい気もする。
元気一杯って様相じゃないんですけど……
『あーあーあー。ただいま機材の調整をしております。試合開始までもう少々お待ちください』
と、会場に響くアナウンス。
そう、俺たちはステージに上がったはいものの寸前になって機材の不調。
調整に手こずっているらしい。
俺とローザさんが駄弁っていられるのもそのためだ。
ステージの端、観衆には見られるのは変わらないものの日陰になっているので暑さはしのげる。
「ところで、式典での話は覚えていますの?」
「一応は」
「わたくしが勝ったら貴方を頂く。貴方が勝てば……まぁなんでも命じてください。流石に帝国をくれといった無理難題は叶えられませんけど」
「俺も王様にはなりたくないので、そんなことは言いません」
「あら、お似合いですよ?」
「やめてくださいよー……」
「うふふふ」
冗談にしてもキツい。
あと戦姫戦姫って言う割には思いのほかフレンドリー、今みたいにジョークも吐くし。
「ローザさんのこと、実はもっとお堅い……」
「軍人の鏡のような人物、と思ってました?」
「ええ……」
「指揮官としてそういうスタイルもアリなんですけどね、ただ戦争は独りでするものではない。やはり目線が近い方がいいとわたくしは思うのです。個人的にも皆さんとお話するのは楽しいですし経験も得られる。戦時中ではなにかヒントだって得られるかもしれませんし」
「なるほど」
「まぁ独りで戦争をできる人間も極稀にいますが」
「?」
「災厄の数字ですわ」
「あー……」
仰る通り。
俺はアウラさんと組んでいたけど、そのほかの人たちはワンマンプレーが基本だ。
「いつかはお会いしてみたいものです」
「お、おお。珍しいですね。普通は一生会いたくないって思いません?」
「命の危機は多少感じますが、それでも人類最強と言われる人たちです。色々と聞きたいことがありますし、きっと得られるモノも多いでしょう」
遠くを見ながらローザさんはそう言った。
実力主義の帝国人らしい考え……なのだろうか。
いやいや、変態や狂人ばかりなので止めといた方がいいですよ。
というか実はもう目の前にいるっていう……
『あーあーあーマイクチェックー、良し。機材の調整が終了しました。両選手はステージの中央にお戻りください』
スピーカー越しに準備完了と伝えられる。
「では」
「はい」
いよいよ戦姫戦。
俺とローザさんは緩んでいた雰囲気を締め、太陽に照らされる舞台に登った。
◆◇◆
「ちぇークレスのやつ、私を邪魔者扱いしやがって」
災厄の数字が5番目、アウラ・サンスクリットは帝都にいた。
正確にはクレスも出場する『選抜戦』の会場の外。
フラフラと歩き、一時的に銀色となっている髪も左右に揺らす。
「なにが『どうせ見ている内に戦いたくなって乱入してくるでしょ』だ、私だってそんな見境ないわけじゃないぞ」
アウラの乱入を危惧したクレスは、彼女に会場外にて視察・警備をお願いした。
夜はちゃんとアウラと過ごすという条件付きである。
納得するまでに時間は多少要したものの、任務の一環でもあるということでアウラも最終的には了承した。
「しっかし視察って言われてもなー」
会場の外に出店も並んでいるが、選抜戦の最中だけあって人の数は少ない。
みんな試合を観に行っているだろうとアウラは思った。
「チラ見したけどお遊戯って感じだった。ま、クレスなら楽勝か」
当初クレスに観たい観たいとごねたものの、間違いなくレベルは低かった。
このレベルとはアウラにとって、という意味であり、普通の学生を基準とすれば十分高度な試合であるわけなのだが――
「仕方ない。クレスにお小遣いもらったし、なにかメシでも――」
ポケットにはいくばかの軍資金。
肉に魚に菓子、視察・警備なんてことはほぼ忘れどれを買おうと思っていた。
その時――
(……ん!?)
アウラの第六感に電流が走る。
それは1人の女とすれ違った瞬間にだった。
なんでもないこの往路で。
一瞬、目を奪われた。
その闇の化身とも言える姿に。その不可視なるオーラに。
女はアウラからすれば奇っ怪な服装をしていた、それはいわゆる『着物』というやつだ。
腰には『長刀』、これもまたアウラは見たことがなかった。
頭には三度傘というものを被っており、口元だけが周りからようやく見える。
「――おい」
アウラは振り向かずに呼び止めた。
振り向けばその間に逃げられると思ったからだ。
コンマ数秒でも早く注意を引かなければ、彼女の野生の本能がそう感じたからこその行動である。
「……あら、何用でしょう?」
対してすれ違った女もアウラの存在を気にしていた。
強者特有のオーラを感じていたからこそ。
呼び止められ足を止める。
「お前、何者だ?」
「尋ねる時はまず自分から名乗るべきなのでは?」
「むむ……」
その通りだ、アウラは賛同したが名乗れる身分ではない。
そして言い訳を考えるほど早い回転数を持つ頭脳も持っていない。
「せっかくお声を掛けてくださいましたのに、振り向いてお顔を見せてくださいな」
「お前だって振り向いてないだろ」
「ふふふふふ」
「…………魔族か?」
「いいえ、歴とした人間でございます」
「それにしてはすごいオーラを纏ってるぞ」
「気配遮断は完璧だったのですがね、声を掛けられた時は驚きました。そして気付かれた以上貴方はただの人間ではなく、そして……」
「そして?」
数拍。無の数拍。
疑問を呈したアウラに、女は無言の時を挟み言った。
「貴方を、ここで殺さねばいけません」
「ほう、面白いことを抜かす」
この5番目の災厄を討つというのか。
アウラはニヤリと笑う。
「あらあら、笑っている場合じゃありませんよ」
「ん?」
「もう、刀は走っています」
「走る? それはどういう――」
カチン。
金属と金属が触れ合う音がした。
「これぞ巌流、我が必殺の一刀――燕返し」
それは抜き終わった刀を仕舞う時、鞘と鍔が重なる時の音である。
つまり……
「――――斬り捨て御免」
前回『土曜日』だけの更新と言ったんですが、少しずつ投稿頻度を増やしてみます。
来週は3~4回の投稿を目指します。
それと書籍版2巻の発売日が無事に決まりました。
皆さんのご助力もあってこそ、この場でお礼申し上げます。
SS特典についてはまた後日告知を。
よろしくお願いします。





