閑話「ボスに一盛り」
投稿遅れてすいませんでした。
本当は本編を進めるはずだったんですが、気力と体力が持たなかったです。
なので今回はクレスが監視任務に行く前。
数字のアジトにいた頃の一幕を書くことにしました。
気分が乗るか、希望があるようならこれからも不定期に閑話を投稿するかもです。
次話からはちゃんと本編を進めます。
よろしくお願いします。
左がエリザ(Ⅰ)。右がセローナ(Ⅱ)。
エリザ美人ですよね。
「クーちゃん。覚悟はできてるね?」
「うぅ……まだ死にたくない……」
「こら! 男の娘が泣かないのっ!」
「じ、字が違いますよ……」
クーちゃんと呼ばれる人物は災厄の数字の9番目、クレス・アリシアのこと。
そして彼を叱咤するのは一見幼女な女性は7番目の災厄。
ロリババアこと、大魔女ストレガである。
現在地は数字のアジト内部。
2人はとある作戦のため身を潜めていた――
「ウチらが赴くのは死地、生半可な覚悟じゃ死んじゃうぞ☆」
「生半可って……女装の写真をばら撒くぞって俺を脅して無理やり……」
「細かいことはいいんだよぉ!!」
クレスが言う通り。
ある時に女装した格好をフィルムに取られ、それを消去することを条件にこの作戦に協力をしているだけ。
覚悟もなにもあったものじゃないだろう。
「――では改めて、これより〝ボスの愛用している煙草に媚薬を盛って無様な格好にしてやる大作戦〟の説明をするよ」
「あのストレガさん、もうその作戦名で全部説明しちゃってません?」
ストレガの目的は単純に日頃の憂さ晴らし。
Ⅰたるエリザに媚薬を盛って一泡ふかせようというのだ。
そのためには執務室に潜入。
デスクの引き出しの中に仕舞っているとされる煙草に細工をする算段である。
「使うのはこの薬品。ウチが調合をしたチョーッッッ効く媚薬だよ」
「……それ危なくないですか?」
「相手はあのエリザちゃん。これぐらいで丁度いいって」
「う~ん……」
「っくっくっく。いっつもクールで堅物なエリザちゃんが媚薬を吸って足をガクガク目にハートマークを浮かべる姿、想像するだけでも最高すぎるぅぅ!」
愉快そうなストレガを尻目に、クレスは不安で一杯の表情。
悟る。このイタズラはどうせ失敗すると。
そしてお仕置きをくらうのである。
「……手伝ったらホントに写真捨てるんですよね?」
「もちろん!!」
「前もそう言って協力させたくせに結局――」
「今回はマジのマジ! 信じてクーちゃん!」
彼女のマジほど信用できない言葉はないだろう。
しかし弱味を握られている以上、クレスに拒否権はなかった。
「手筈としては、エリザちゃんが執務室を出たのをスタートとする」
「……その隙に執務室に潜入、と」
「イエス。ウチがこの媚薬を煙草に塗る間、クーちゃんは見張り役をしていて。途中でボスが来ちゃったらなんとか繋ぎとめてちょーだい」
「な、なんとかって具体的に……」
「なんでもいいよ。例えば戦闘でも戦闘でも戦闘でも」
「どんだけ戦わせたいんですか!?」
つまり実行はストレガ。
クレスは警戒という役目を。
厳格なエリザ、バレれば鉄拳制裁地獄行きコースをくらうのは明確。
かなりの緊張とリスクを伴う作戦になるだろう。
「それでは! レッツゴォォォー!!」
「お、おー……」
◇◆◇
それから場所を移り数分後。
「……ストレガさん、エリザさんが部屋から出て行きましたよ」
「……だね☆」
「……突入します?」
「……もちのロン!」
執務室――それはⅠが仕事のために使う部屋だ。
クレスたちは近くでずっと待機、エリザがいなくなる時を待っていた。
だが遂に訪れたチャンス。
(行くよクーちゃん!)
(……怖いなぁ)
ストレガ、クレス共に一級の技術と魔法を持つ。
目的地に高速で移動しながらも、足音は一切生じさせない。
2人は一気に扉の前へと到達、だがすぐに突入することはせず――
「パンパカパーン! 覗き見眼鏡!」
「なんですかそれ……」
ストレガがおかしな効果音と共に、1つの魔道具を取り出す。
「ザックリ言うと美少女の裸を見る道具」
「は?」
「とにかくこれで中を確認すんの。今度使わせてあげるから今は……って、内部にⅡの姿もなし、チャンスだし行くよ! クーちゃんはそこで待機ね!」
見張り役兼、時間稼ぎ役のクレスを入口に残しストレガは執務室へと潜入。
超のつくヘヴィースモーカー、エリザの愛用する一物へ媚薬を塗るプランだ。
ただ、
「――なにをしているクレス?」
ストレガが突入してすぐのすぐ、標的はあまりにも早いタイミングで現れた。
(エリザさんもう帰って来たの!? いくらなんでも早すぎないですか!?)
出て行ってすぐの時に仕掛けたクレスたち。
あまりにも早い帰還に度肝を抜かれる。
「執務室の前でなにを突っ立っているんだ?」
「え、えっと~、」
こんなにもすぐに対面するとは想定外。
しかもクレスは結局時間稼ぎのネタを考えていない。
まさかストレガが言うように戦闘をするわけにも、瞬殺されるのは目に見えている。
というか痛い思いはしたくなかった。
「なんだか挙動不審じゃないかクレス?」
「――っ!」
「まさか私になにか隠しているのか?」
「そ、そんなことは……」
とんでもないピンチを迎えるクレス。
彼は考えた。
どうするば時間を稼げるのか。
正確にはどうすれば怒られずに済むのか。
悩みに悩み、考えに考え、そして1つの回答を見出す。
それは――
◇◆◇
「っふっふっふ。これで……」
クレスが局面を迎えている最中、ストレガはいそいそと煙草に媚薬を塗りたくっていた。
咥えただけでも発情必須。
ただそれ以上、もし吸ってしまったのなら――
「面白くなりそうな……」
「――楽しそうだなストレガ」
よく整頓された空間、響くは冷たき一声。
(……こ、この声は、)
まるで温石に大量の氷水をぶっかけた時のような。
高まっていたテンションが一気に氷点下まで持って行かれる。
「さっきな、私がこの部屋を出た時に気配を2つ確認してな。なんだか心配で何もせずすぐ帰って来たんだ」
「……ウチらは完全に気配を消していたのに」
「あの程度の隠形、私が見破れないわけがないだろう」
「っく、まだ、まだ終わって――ブッッッッッガハ!?」
鉄拳制裁。
エリザは一瞬にしてストレガの目の前へ。
おそろしく早いボディーブローがクリティカルヒット。
ストレガは衝撃で後方へ吹き飛び、頭から壁に突き刺さる。
「……まったく、お前はいつまでバカをやるんだか」
その通りですね。
「――ッガハ、こ、今回も、負け、た」
壁からポロリと抜け、仰向けに倒れ込むストレガ。
これで意識を失わないあたり、流石の耐久力である。
「そもそもこの程度の薬では――」
「っな、」
「ふふ。いつもより甘いだけだ」
エリザは卓上にあった、媚薬を塗られた煙草を一服。
なんでもないように紫煙を吐いた。
まったくの効果なし。ストレガ絶句である。
「この怪物、め……」
「はいはい」
「っく、クーちゃんも、そうやって簡単に屠ったんだな。ゆ、許さな……」
「ん? クレスは無事だぞ?」
「……え」
「おーいクレス。入ってこーい」
その圧倒的な力で儚く散ったであろうクレス。
仲間の死を察し、ストレガは怒った。
ただ拍子抜け、なんと――
「ど、どうもー。ストレガさん」
「な、なぜ無傷で……」
ボロボロかつ痛みで身動きが取れない自分に対し、仲間で見張り役だったはずのクレスはピンピンとしていた。
一切のケガなし、バツの悪そうな表情で部屋に現る。
「クレスはお前と違って純粋なんだ。なぁクレス?」
「それはもう! エリザさん大好きー!」
「よしよし。素直で可愛いなぁ」
クレスは笑顔を浮かべながらエリザの胸元へダイブ。
スリスリと顔を擦りつける。
これぞ鉄拳制裁を回避した必殺技〝しゅきしゅきハグ〟である。
その全力の甘えは年上の女性に対し絶大な威力を誇り、自分へのあらゆる攻撃を無効化するのだ。
「あ、ヤニ臭くないかクレス? さっきまでずっと吸ってたから……」
「全然! エリザさんいっつも良い匂いですよ!」
「っクレス~、お前は可愛いなぁぁ~」
キラキラした目で見上げてくる年下の男の子。
普段から淡白なエリザも珍しく声音を高くする。
「鉄拳を食らわないため、悪魔に魂を売ったんだねクーちゃん……」
「いや本心ですけど? それと女装の写真返してもらいますね」
「なん――」
「エリザさん、実はこのイタズラに俺も協力してたんです。ただ写真で脅されていて……本当にごめんなさい」
「なに謝るなクレス。お前は悪くない。本当に悪いのは――」
ギロリ。
とてつもなく鋭い眼光が、床に野垂れたストレガに刺さる。
「私の可愛いクレスに酷いことさせた罰。その身で償ってもらおうか」
「ズルイッ! ズルイよクーちゃん! こんな時ばっかり自分の容姿で釣るようなマネを……ッ」
「鶴? 鶴なんていないですけど」
「っこの外道! 男の娘! 男女! チ〇コ付き美少女!」
裏切った仲間。
ストレガは毒を吐きだす。
それに対し銀髪の少年は、
「ひ、酷い……酷いよ……うぅ……」
「――っ! ストレガ、よくもクレスに暴言を吐いて泣かせたな!」
「な、なな、泣いてないっしょ! 絶対ウソ泣きで……ほら! 今ちょっと笑ってたし!」
「……う、うぅ、うう」
「ん? 泣いてるぞ?」
「この嘘つきクーちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」
ストレガは孤立無援。
もともと無理に協力させた。
ここに来てむしろクレスに反撃をされてしまう。
「歯を食いしばっておけ」
「え、うそ、動けないウチに――」
問答無用。
振り下ろされるは重い重い右拳。
「地中で頭を冷やしてこい!」
鉄・拳・制・裁。
「お、覚えてなさ――ウエェェェエエ!?」
骨が折れる音、埋もれる音、ゲロる音。
そして叫びと共にストレガは下へと吹っ飛んでいくのだった。
今回もこれにて敗退。
しかしこれでめげるような玉ではない。
ストレガのリベンジはまだまだ続くのだった。