第5話
事前情報は皆無。今になって従者を偵察に向かわせていればと気付く。
僕の能力、本当に応用力があるよなぁ、と我ながら感心するが実際出来るのかどうかはわからない。それを今から調べるんだ。
まずは侵入、窓の枠にナイフを二回ほど突き立て三角形の穴を空ける。
割れたガラスにガムテープを付けこちら側に回収したらそこから手を伸ばし窓を開ける。
「お見「うおぁっ!」
こんな状況でいらん事を言わないでくれ!
今ので誰も起きてないといいが。
まず確認したいのは靴、靴箱から出ている靴が一足なら一人暮らし。単純かつ明快。
足音に耳を済ませ誰も起きていないことを確認し玄関へ。ビンゴ!一足だ!
一人暮らしならいくらでも制圧のしようがある。つまり、殺さずともだ。
若干上の空になりつつも書斎のドアを開ける。
すごい量の本だ。
当たり前なのだろうけどこんなに多くちゃ探す方としては迷惑だ。
いろんな年が書かれた分厚いファイル達は実際にあった超能力に関する事件や現象の調査ファイルか。その情報群から搾り取られた研究者による正しい情報のエキスを僕が汲み取るわけだ。
あれ?周りを見渡すと守護者がいない。なんだよ、見張りでもしてるだろうか?
見渡しついでに目についたのは僕が今もっとも欲していた物。教科書だ!
そりゃあ教科書も監修してるんだろうからあるよな!よかった!
まさか教科書なんて便利な形で貰えるとは思ってもいなかった。
上巻下巻を懐にしまうとまた他のものが目についた。
筒状生物の生態……?超能力には一切関係ないが不思議と吸い寄せられる魅力のある字面だ。
とりあえず本を開く。じっくりと読みたい気持ちはあるが、焦る気持ちが敷き詰められた活字を受け流させ、僕を自然と挿絵のあるページへ導く。
ゲッ、筒状生物ってこんなに気持ち悪いのか……!
「筒状生物はいくつかの種に別れるが共通しているのは内側に付いた器官で推進するということだ。乳を絞るように頭部側から筋肉の力で水を肛門側へ押し出し推進する種や大量の官足をオールにして進む種……」
ガタンッ
扉へっ!視線を向けると男!眼鏡の中年!
そして刮目すべきは天井からその中年男性の首をへし折ろうと手を広げながら落下する我が守護者の姿!お前そこにいたのか!
勇み不法侵入に踏み切ったもののなんの罪もない人の良さそうな男性を殺すなんてどうかしてる。
考えてるうちに黒装束の従者は男の顎と頭頂部を掴み向かって時計回りに90度回転させた。
骨の砕ける音が彼自身の肉にかき消され鈍く、こもるように響いた。
「やめろっ!」
完全に事後、全く持って遅ればせながら声をあげさせていただきました。
恐怖心から一瞬、このまま殺されてしまえと思ってしまった事実への言い訳のように。
落ち着いた思考回路とは違って僕の体は全身が横隔膜になったみたいに上下運動をしながらハァハァハァハァと動悸でドッキドキだ。
そもそもなんで暗殺者なんかを召喚したんだ!?
なんで手際のいい泥棒を召喚しなかったんだ!?
答えは出ていた。
なにが遭遇したらノックアウトだ、始めから襲うき満々だったんじゃないか。
それに一人暮らしだとわかった瞬間の安堵、あの時も……。
なんて結論にすれば僕の心の平静は保てる?
僕はたった今殺した男性の近くに、侮辱しているのかと勘違いされそうだが、倒れ込み考える事にした。




