第3話
この物語の主人公メル・ドゥインはリクトという小国で育った。
好奇心旺盛で活発な少年だった当時3才のメルは、周りの大人達の言いつけを破り、何人ものホームレスが住み着く路地へ足を踏み入れる。
すぐに目をつけられた彼は身ぐるみを剥がされ集団暴行にあい、昏睡状態のまま病院のベッドで15年間を過ごすことになる。
目覚めた後の彼の思考回路を支配したの は“憤り”と“後悔”である。
大人として生きていくための準備をする期間である少年時代を奪われた彼はこの小国でまともな生活をできない事を知っていた。
彼の両親は彼が目覚めた時すでに他界しておりその遺産は殆どが入院費に当てられており、彼の手元に残った僅かな財産は、自分が読み書きを覚える事を楽しみにしていた両親のために最低限の学費に消えた。
当然の如く彼の人生の目標はホームレス達への復讐になり、鉄くず拾いの仕事をこなしながら、痩せ細った体を鍛える日々を送る。
ある日、職業病のせいでゴミ溜めを凝視していると自己啓発本にも似たタイトルの本を見つける。
“望んだ力で人生を思うがままに”と書かれたその本は今の彼には魅力的であり疑うことはすれど手を伸ばす事にした。
この本を読み、望んだ力を具現するという超能力について知るうちに、彼はだんだんと失った自分の人生を取り戻したいと考えるようになり、超能力についてできるだけ調べた。
結果わかったのは大雑把な発現手順のみだが彼はそれで十分に感じた。
まず能力の構想。自身に合わないと感じた能力や少しでも自身には不可能だと思った能力は発現できない。
そして強く願う事。選ばれた者にしか発現できないと諦めずに常日頃から願う事で発現できる日が来るかもしれない。
願い始めてから僅か1分後、まさに藁にもすがる思いで彼が発現させたのは彼の潜在的思考を完璧に反映した能力だった。
運命の図鑑は、自分が決めた人生を歩ませた架空の人間を守護者として召喚する能力。
人生をやり直したいと望んだ彼が本人も気付かぬ内にこの能力を自身にふさわしいと考えたのは、彼の内に潜む復讐の感情が目的を成し遂げていない自身の消失を許さなかったからだ。
彼は心の奥で自分の人生をやり直すのではなく生み出す事を望んだのだ。
同刻、とある研究室にて。
「準備はいいかい?」
「はいぼっちゃま。ですが地球人には本当に知らせなくてよろしいのですか?」
「いいんだよ!ゲームだってキツイ戦いの方が経験値上がるし!」
「承知いたしました……。」
「では地球人で超能力を発現している者全てを地球へと転送させて頂きます。」




