表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元奴隷とエルフの恋物語  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/22

第21話 新聞

 ディーナとウェルスの密かな交際は続いていた。その事実を知っている者はコリーン……そして、もう一人。


「ディーナ」


 いつものエルフが店に顔を出してくれた。

 ウェルスは店が終わった後、ほぼ毎日顔を出してくれるが、こうして昼間に顔を出すのは珍しい。


「ウェルス、いらっしゃい! ウェルスオリジナルならまだできてないんだ、ごめんよ」

「いや、今日はディーナに渡すものがある」


 隣にいたコリーンは遠慮したのか少し離れていった。何だろうとウェルスを見上げる。


「これを受け取ってほしい」


 そう言って、ウェルスは首に掛けた巾着の中から、ある物を取り出した。ディーナは手を差し出し、それを受け取る。


「何? これ、どこの鍵?」


 手の中にあるのは、どこかの扉であろう鍵。それがどこだか思い当たらず、ディーナは首を傾げた。


「これは、私の家の鍵だ」

「ウェルスの?」


 ディーナはウェルスの家に行ったことがない。ウェルスなら、この店に来ても弓使いのため不自然さはないのだが、ディーナが騎士の家に行くと言い訳のしようがないからだ。


「行きたいけどさ。記者とか張ってたら、何て言い訳しよう?」

「婚約者の家だと言えばいい」

「……へ?」


 何故そういう話になるのかわからず、ディーナはおかしな声を上げた。


「婚約者って、どういう意味だよ?」

「こういうとき、人間の男は指輪を渡すのだと聞いた。しかしディーナの指輪のサイズがわからず、用意できなかった。後で一緒に宝石店へ行ってほしい」

「ちょっちょっちょ! どういうこと??」


 ウェルスの言っている意味が理解できず、ディーナは髪の毛を頭の上でくしゃりと握る。


「今日の新聞を見てはいないか?」

「まだ見てないよ、読むのはお昼休みだもん」


 読みの勉強のために、毎日コリーンが家から持って来てくれている。話を聞いていたコリーンが「これですね」と新聞を渡してくれた。


「ここだ」

「えーと、しんき……かんり……によって……えと、とうろく、の、みなお……」

「要約すると、こうです」


 いつもは何の手助けもしてくれないコリーンが、今日だけは何故か新聞を奪って読んでくれる。


「新しく選出された中央官庁の官吏によって、ファレンテイン人になるための、登録の見直しがされたそうです。理由はファレンテイン国民の人口減退などが挙げられていますが、まぁそれはいいでしょう。つまり、ファレンテイン人になるための規制が緩和されたということですよ」

「つ、つまり、どういうこと? あたし、奴隷だったんだけど……」


 その問いにはウェルスが首肯して答える。


「イオス殿の暗躍……いや、働きかけによって、奴隷も婚姻によってのみ、ファレンテイン人となることが許された。まったくあの方の悪ど……もとい策略には驚かされる。彼に相談してよかった」


 説明をすべて聞いても、今一ピンと来なかった。

 つまり。つまり、どういうことだ。


「私と結婚してほしい。ディーナ」


 コリーンが隣で小さく「キャー」と叫んでいる。

 いきなりのことで、目の前が何だがグラグラする。現実じゃないみたいだ。それともこれは幸せな夢を見ているのだろうか。


「ディーナさん、返事! 返事!」


 あまりに惚けているディーナを見て、コリーンは堪らず助け舟を出す。

 肩を揺すられ、我に返ったようにハッとウェルスを見上げた。


「あたし、ファレンテイン人になれるってこと?」

「そうだ」

「ウェルスの、お嫁さんになるってこと?」

「そうだ」

「一緒に暮らしていいの?」

「一緒に暮らしてほしい」

「これから毎日?」

「これから毎日」


 降って湧いた話に、ようやく理解が追い付く。

 結婚できる。ファレンテイン人になれる。一緒に暮らせる。毎日毎日、ウェルスと一緒に。


「あたし、指輪はウェルスと同じ髪の色の宝石が欲しいっ!」

「わかった、今から買いに行こう!」


 体がふわりと浮いたかと思うと、ディーナはウェルスに抱き上げられていた。

 恥ずかしいなどとはちっとも思わなかった。幸せな自分を、皆に見てほしかった。祝福してほしかった。


「コリーン、お店お願い!」

「はい、ごゆっくり」


 手を振るコリーンを置いて表に出ると、ミケレという記者が待ち構えていた。ウェルスがディーナをお姫様抱っこしている姿を見て、驚きつつも話しかけてくる。


「お二人の関係を教えてください!」


 二人は、顔を見合わせた。そして互いに微笑み、頷き合う。


「「婚約者だ」!」


 同時に声を上げ、そのまま宝石店へと入っていった。





 ウェルス・ラーゼ電撃結婚

 ミハエル騎士団隊長の一人、弓使いのウェルスが、ヴィダル弓具専門店の女主人ディーナと結婚することとなった。

 本紙の記者は二人が指輪を選ぶ際の姿を目撃したが、二人は片時も離れず、終始頬をくっつけ合って指輪を探していた。普段のクールなウェルスからは想像できぬほどの笑顔であった。

 わずかその三日後、トレインチェ市内の教会の鐘が鳴った。祝いに訪れたのは僅か数名であったが、二人はこれ以上ない幸せな笑顔を終始辺りに振りまいていた。

 今後の結婚生活を二人に伺ってみたところ「ディーナとなら幸せに暮らせられる。つらい思いをさせた分、ディーナを幸せにしてあげるつもり」とウェルスがコメント。これに対しディーナは「ウェルスの方が悲しい思いをしてきてるんだから、私が幸せにしてあげる」と互いを思い遣る言葉の応酬が始まった。

 途中で騎士隊長のスティーグが止めていたが、二人の熱愛は結婚後も変わらず続きそうだ。



「ヴィダル弓具専門店でーす!」

「ああ、ディーナさん、ご苦労様です」

「なぁ、ケビン。この地方新聞、いらなくなったらくれないか!?」

「え? ええ、いいですよ。置いておきますので、また取りに来てください」

「やったーー!」


 ディーナはルンタルンタと跳ねるようにして帰っていった。

 愛するウェルスの待つ、トレインチェへと。

 その指には、紫がかった綺麗な青い宝石が煌めいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファレンテイン貴族共和国シリーズ《異世界恋愛》

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ