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元奴隷とエルフの恋物語  作者: 長岡更紗


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17/22

第17話 ライズ再び

 それは、突然の出来事だった。

 ウェルスが店に現れて、ライズを捕まえた経緯を話してくれた。

 彼は堂々と、正面からトレインチェ市内に入ってきたらしい。門番が指名手配の男だと気付いて捕らえたのだそうだ。ライズは抵抗することなく、素直に応じたらしかった。


「ライズの所持金を調べたが、三千ジェイアも持っていなかった。お金はどうしたのかと聞いても、頑として口を割らない。ディーナに会わせてくれ、の一点張りだ。おそらくお金は返ってこないだろうが、ディーナ、会いに行くか?」


 その問いの答えなら決まりきっていた。ライズがお金を持ち逃げした理由を、何がなんでも知りたい。

 かくしてディーナは、ライズに会うことになった。


 ライズは、街外れの牢屋に閉じ込められていた。顔はヒゲ面で、一瞬誰だかわからなかったくらいだ。


「ライズ……」

「ディーナ、すまねぇ」


 開口一番、ライズはディーナに謝罪した。


「何で戻ってきたんだよ。捕まるのはわかってただろ?」

「ああ、だが店がどうなったか気になってな……特許権も手に入ったし、潰れるようなことにはなってねえとは思ったんだが、何せディーナだからな」

「どういう意味だよ。お陰様で繁盛してるよ。特許で得た金も、毎月順調に入ってきてる」

「そうか、よかった」


 ライズは心底ほっとしたように息を吐き、ディーナは疑問を深める。


「そんなに心配するくらいなら、何で金を持ち逃げしたんだよ。何のために、何に使ったんだ?」


 ディーナの問いに、ライズは迷うことなく口を開いた。元々ディーナには伝えるつもりで来たのだろう。


「すまねぇなぁ……ディーナが、娘の方のディーナが、奴隷か娼婦になるしかないって手紙を寄越すからよ……」

「……奴隷?」


 ライズは頷く。


「どうやらディーナって名前に商才はないらしいな。高校を卒業してから店を始めたらしいんだが、全然でなぁ。あちこちに借金して、首が回らなくなっちまって……」

「それで、うちの店の金を持ち出したのか」

「最初は、そんなことするつもりじゃなかったんだ。……っつっても言い訳にしか聞こえねぇだろうが。ヴィダルさんがディーナに残した金を見て、これで娘を救えるんじゃないかと思っちまったら、つい……」

「……」


 つい、で全財産を持ち出すとは、やること結構えげつない。しかし、彼の言葉に嘘は感じられなかった。おそらく、娘のディーナが借金を抱えて身売りするしかない、というのは本当なのだろう。


「……で、娘さんはどうなったんだい?」

「持ち出したお金とウェルスオリジナルを売って、何とか事足りたよ。奴隷にも娼婦にもならずに済んだ」

「そっか、ならよかった。じゃあ戻って娘さんと暮らしなよ。ライズなら、そのお店も立て直せるだろ?」


 あっけらかんとしたディーナの物言いに、ウェルスが口を挟んでくる。


「ライズの働いた行為は犯罪だ。何年かの懲役刑が課せられるだろう」

「それ、どうにかなんない? 理由もわかったし、あたしもう怒ってないよ」

「何故この男を庇う? ディーナはこの男のせいで、つらい目にあったというのに」


 何故。むしろ、何故ウェルスがライズにこだわるのかの方が謎だ。


「だってあたし、ライズに助けられたんだ。じーちゃんが死んで、経営がうまく行かなくなってさ。ライズがいなかったら、あたし奴隷に逆戻りしてたよ。だから、すっごい感謝してるんだ」

「この男の言っていることが本当だとは限らない。温情を受けるための嘘かもしれない」

「だとしても構わないよ。ライズがうちでただ働きしてたのは事実で、捕まるのを覚悟で戻ってきたのも事実なんだ。あたしはそれで十分」


 それでもウェルスは納得のいかない表情であったが、ディーナの晴れ晴れとした顔を見て諦めざるを得なかったようだ。


「では、ディーナ。店のお金は奪われたのではなく、あげた、のだな?」

「え? あ、うん、そうそう! あげたんだ!」

「それなら何の罪もない」


 そう言うとウェルスは牢の鍵を開けた。キイっと鎹が擦れる音がして、扉が開く。

 ライズが呆然と立ち尽くしていた。


「出てきなよ、ライズ」

「……いや、いいのかよ? 俺はディーナを……」

「早くしないと気が変わるぞ!」

「出、出るよ!」


 ライズは慌てて牢から出てきて、ディーナの手を握った。


「ありがとう、すまねぇ……恩に着る」

「困った時はお互い様、だろ!」


 ディーナがウインクをして見せると、ライズは嬉しそうに笑った後、真剣な目でディーナを見つめてくる。

 そして彼から発せられた言葉は、思いもよらないものだった。


「ディーナ、ファレンテインを出て、俺の国で一緒に暮らさないか?」

「やだよ、じーちゃんの店を放っとけないもん」

「即答かよッ!」


 ライズは天を仰ぐように頭を掻いて、ふうっと息を吐いた。


「ディーナ相手に遠回し過ぎたな。結婚してくれって意味だったんだが」

「……えっ!」

「それでも、答えは同じなんだろうな」

「う、うん。……ごめんね」

「いや、いい。罪科無しでディーナまでもらおうなんざ、都合が良過ぎるってもんだ。じゃあな、いい男を捕まえろよ! 結婚詐欺には気を付けな!」


 ライズはそう言ってトレインチェから出ていった。

 色々あったが、やはりライズは悪い人間ではなかったなとニヤニヤしていると、ウェルスは無表情でディーナを見つめている。


「何? ウェルス」

「ディーナは、ライズのことが好きだったのか?」


 もしかして嫉妬かな、と思った。そうだと言ったらウェルスはどんな顔をするのか知りたくもあったが、ディーナはそんなことを言う女ではない。


「好きだけど、恋愛感情はないよ。本当に好きなのは、今も昔もウェルス一人だけだから」


 まっすぐ目を見て言うと、ウェルスの無表情が少し崩れる。きっと喜んでくれているに違いないが、ウェルスはそれを立場上言葉には出せないのだ。

 互いに好きでも、一緒にはなれない。

 それでもずっとこの関係が続けばいいが、結婚という制約がない限り、ウェルスは自由だ。

 誰と恋愛しても、誰と結婚しようとも。ディーナに立ち入る権利はない。


「ディーナ。わがままを言う。誰とも結婚しないでくれ」


 ウェルスの言葉に、ディーナは頷きを見せた。ウェルス以外の人と結婚する気など、元よりない。

 例えウェルスが他の誰かと結婚しようとも。

 ディーナはウェルスのわがままが嬉しくて、にっこりと微笑んだ。

 すると頭上から唇が降りてきて、ディーナの唇に当たった。

 誰もいない牢屋での、人目を忍んだキス。

 三年ぶりのその感触を、二人は味わっていた。

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ファレンテイン貴族共和国シリーズ《異世界恋愛》

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
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巻き戻り聖女
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巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
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聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
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最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
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▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
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行方知れずを望んだ王子とその結末
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弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
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異世界恋愛 日間4位作品
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第五王子
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婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
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私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
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急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
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王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
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