表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元奴隷とエルフの恋物語  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/22

第10話 そして別れ

 小競り合い程度だった隣国との抗争が本格化し、ミハエル騎士団はアルバンの街を拠点に動くようになっていた。

 隣国からの強襲に備えるのに、そちらの方が都合が良いという話をちらりと聞いたが、その経緯はディーナにはわからないし、また興味もなかった。

 配達がトレインチェにあるミハエル騎士団本署から、アルバンの街の兵舎に変わった。ただそれだけである。


「んじゃ、行ってくるよ、じーちゃん」

「……ディーナ」

「ん?」

「いや……気を付けての」

「大丈夫だって! 今日中に戻るよ!」


 借りた馬に荷物を括り付け、街道は行かずに森の中を突っ切る。時間短縮だ。襲いかかってくる魔物をスパスパと射抜いて、アルバンの街まで行く。帰りは早駆けで帰ってくるので、朝に出ても夕刻までには充分帰って来られるのだ。


「こんにちは! ヴィダル弓具専門店です!」

「あ、はい、矢ですねっ。今、騎士の人を呼んで来ます!」


 兵舎の受付に言うと、すぐに騎士を呼んでくれた。


「これがウェルス……ウェルス様注文の分、こっちがアイルって騎士の、こっちがブロセオ、で、これが……」


 説明を終えて矢と請求書を渡す。その騎士は「お務めご苦労」と上から目線で物を言い、兵舎に戻っていった。

 ディーナは受付に戻っている女性に視線を合わせる。


「なぁ、あたし、中に入ってもいいかな。ちょっと見学してみたくってさ」

「ええ、ディーナさんならいいと思いますよ。是非見てってください」

「本当かい? ありがとう!」


 以前、ここに来た時うろついていたら、偶然ウェルスを発見したのだ。遠目からだったが、久々にウェルスを見ると体が熱くなった。

 ウェルスは他の騎士と話をしていたため、こちらには気付かなかったが、ディーナはそれでもよかった。もう一度ウェルスの顔を見たくて足を踏み入れただけだった。

 しかしウロウロと動き回っていてもウェルスには会えず、諦めかけていたその時、兵舎の掃除夫らしい男が声を掛けてくる。


「誰かお探しかな?」

「ああ、うん」

「隊長のどなたかな?」

「な、何でわかるんだ?」


 ディーナが不思議に思って聞くと、男は苦笑いしている。


「隊長ファンは多いですからなぁ。しかし彼らは忙しくて、中々会えはしませんぞ。今も会議室で軍議をしとりますでな」

「そ、そっか……その会議室ってどこ?」


 そう聞くと、男はその場所を教えてくれた。

 ディーナはその扉が見えるギリギリのところまで下がって隠れ、会議が終わって出てくる姿を一目見ようと待つ。

 しかし一時間経っても二時間経っても、その扉が開くことはなかった。


「あの……何してらっしゃるんです?」


 ずっと同じ所で座り込んでいるディーナを見て、今度は違う男が話しかけてくる。


「軍議が終わるのを待ってるんだ。ミハエル騎士団の隊長を、一目見たくて……あんたは?」

「僕は地方官庁のケビンです。仕事を終えて戻るところなのですが、先ほどから貴女がここにいるので気になって」


 そう言ってケビンは人のよさそうな顔をこちらに向けてくれた。


「あの、多分軍議はまだまだ時間かかりますよ? ご用があるなら、お伝えしておきますけど」

「いや、用ってほどのことじゃないんだよ」

「ああ、ファンの方ですか? ならファンレターでも書かれたらいかがでしょうか。僕が責任を持って渡しておきますよ」


 そう言って彼は紙とペンを渡してくれた。

 どうせ遠目で見るだけで、会うことは叶わないのだ。手紙に託す方がいいかもしれない。

 ディーナはペンを持ち、紙を見つめる。

 何を書こう。書きたいことは山ほどある。

 ウェルスのおかげで売り上げが増えたことや、ウェルスが頑張っている姿を新聞で見るたびに嬉しくなること。

 騎士になれて半年でラーゼの名をもらえるなんてすごい。隊長なんてすごい。とにかく色々頑張っててすごい。

 その気持ちを手紙に書こうと、『ウェルス』と書いた所でペンが止まった。気持ちを字に起こせないのだ。字が、書けないから。


「どうしました?」

「あの、さ、『すごい』ってどうやって書くんだ?」


 そう聞くと、「こうですよ」と書き方を教えてくれた。それをウェルスと書いた下に書く。


「これ、渡しといて下さい」

「……これだけでいいんですか? よければ代筆しますけど」

「いや、いいよ。これで、いい」


『ウェルスすごい』

 それだけ書かれたファンレターをケビンに託して、ディーナは街を後にした。


 ディーナは森を突っ切ってトレインチェに戻ったが、すでに夜半に突入している。馬を返すのは明日にして、家に戻ってきた。


「すっかり遅くなっちゃったな。じーちゃんもう寝てるかも」


 アルバンの街で長く居過ぎてしまった。寝てるかもしれないヴィダルを起こさないように、そっと家の中に入る。しかし。

 人の気配がない。


「あれ……出掛けてんのかな……でも玄関は開いてたし」


 ディーナは訝りながらも部屋に明かりを灯した。すると自身の足元にヴィダルの手が照らし出されて、ディーナは飛び上がった。


「うわあっ! じーちゃん!! こんなところで気配消すなよっ!」


 ピクリとも動かないヴィダル。もう、とディーナは息を吐いた。


「ちょっと、いい加減に……」


 ディーナが肩を押すと、そのままごとりとヴィダルは逆に倒れた。


「……じーちゃん」


 ヴィダルの体が、冷たく硬い。その意味をディーナはよく知っている。たくさんの奴隷の死を、ディーナは目の当たりにしてきているのだから。


「う……そ……じー、ちゃ……」


 手が震えた。それだけでなく、全身が寒くもないのに震え出した。


「嫌だ……やだよ、じーちゃん!! あたしを置いて行く気かよ!! じーちゃんがいなかったらあたし、何にもできないよ!!」


 ヴィダルからの返事が得られるはずもなく、ディーナはすがるようにその硬い体に抱きついた。


「時間、巻き戻してくれよぉっ!! 早く帰ってくるから……今度は早く帰ってくるからぁぁああっ!! イヤだぁぁああああああああっ!!!」


 ディーナがどれだけ叫んでも、どれだけ願っても。

 時間は巻き戻ることはなく、ヴィダルも戻ってくることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファレンテイン貴族共和国シリーズ《異世界恋愛》

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ