5話
今日、というより昨日から私はついていない。
星座占いなんて嘘っぱちだ、ちょっと当たったのは気のせいだ。
とにかくついていない。席替えに始まり、双子の奇襲。そして朝の大路君と女の子達からの攻撃……。
もう無理。だからお願いします。そっとしておいて下さい……。
「待ちなさいよ、ブス!」
「調子にのるな!」
お昼休み、お弁当をたべる前にトイレに行こうと席を立ち、出てきた所を狙われた。
お弁当食べる前で良かった。じゃなかったらリバースしてたかも。
「ブス!」「待てブス!」と繰り返し、追いかけて来る。
ブスしか言えないのか?ボキャブラリー少なすぎでしょ!
「ブスじゃないです!普通だもん!」
「口答えしてんじゃないわよ!」
教室棟を抜け、実習室等がある特別棟に逃げ込んでもまだ追ってきていた。
限界です。キンブオブ平均な私には、彼女達みたいに叫びながら走り回る体力はありません!
階段を上がり、素早く壁に身を隠す。「どこ行った、ブス!」と通りすぎ、上の階へ上っていく。
は~と息を吐き、匿ってくれそうな人の所に移動した。
窓から見えないように注意しながら進んでいると、目的の人が居た。
私は駆け寄ってすがり付く。
「みっちゃん、助けて!」
「ん?なんだ望か。どうした、湊が俺のこと何か言っていたのか?」
「湊ねぇは何も言ってないよ。それより女子に追われてるの、授業が始まるまで匿って!」
みっちゃんは双子の二つ上の先輩で、湊ねぇにぞっこん。中学生の頃から年に一回は告白しているけど、湊ねぇが首を縦に振らないので、もう十年近く片想い中。
フルネームは大木満。ちなみに、この高校の教師。しかも、階は違うけど元同じマンションの住人。ちょっと性格がアレだけど、湊ねぇ限定だから多分問題ない。
もう一度言う。湊ねぇ限定です。ここ、重要!
「匿ってって……。望、今日は可愛いな。高校生の時の湊に似てる、やっぱり姉妹だ」
……嫌な予感がする。
目がちょっとおかしくなってきた。じーと私を見る瞳に熱がこもり始める。
すがり付いていた服からそっと手を離し、徐々に後ろに下がった。
「もうさ、湊不足な訳だよ。告白が許されるのは年に一回、湊の誕生日だけ……。いい加減に俺の気持ちに応えてくれてもいいじゃないか……。なぁ、望?」
「え、あ、うん。そうだよねー」
湊ねぇも本当はみっちゃんが好きなんだけど、追いかけられたい、いつも好きと言われたい、そして素直になれない女心から頷けないみたい。
以外と可愛いんだ、湊ねぇってば。みっちゃんはちゃんと知ってる。だってずっと湊ねぇだけを見てきたから。
まぁ、今さら他の女に取られたくないから、そろそろ応えてあげようかなと言っていたのは内緒。
「望、お願いだ。湊の真似して「満、好きだよ」と言ってくれ!」
……ヤバい。かなり悲しいヤバい人になってる。ここまで追い詰められていたとは知らなかった。今度湊ねぇに言わなきゃ。みっちゃん、もう限界だよって。このままじゃ教師生命の危機だよって。
だからといって真似して好きとは言えないよ。というか言いたくない。
「嫌だよ!響にお願いしてよ!」
「それは俺が嫌だ。響は湊に似ていない。あいつは航に似ているから尚嫌だ!航は俺のプライドを甚く傷つけた!」
「なに、そのプライドって」
「あいつは俺が大学受験のとき、勉強で苦しむ俺を嗤った。そして俺が解けなかった問題を易々と解きやがった!二つも年下なのに!」
航にぃってば、なにやってるのさ……。
「まぁ、おかげで受かったけど」って助けられてるじゃん!
何なの!?バカなの!?
だから航にぃに馬鹿にされるんだよ。
「言ってくれたらシュクレのケーキ奢ってやるし、匿ってやる」
「シュクレのケーキ……」
有名なケーキ店、シュクレは見た目が可愛く、味も絶品。私の大好物。たまのご褒美でしか食べられない品。
食べたい。不本意だけど、みっちゃんの要望に応えるだけでシュクレのケーキが手に入るなら……。
こほん、と咳払い。湊ねぇは私より若干声が低い。そして私にはない大人の色気がある。
真似をするにはハードルが高いけど、やってられないことはない。
だって姉妹だし。
「満、好きよ」
「ーーーーっみなとー!」
「ぎゃーっ!なにトチ狂ってるのよ、この変態教師ー!」
逃げ回っていることも忘れて叫んだ。
みっちゃんはここが学校の廊下で、自分が教師だと忘れてしまったようだ。
類は友を呼ぶってこういうことだと身をもって体験した。
やっていることが航にぃと同じ。がばりと抱きつき、もがけども放さない。男性の腕力って凄い。
なんて感心している場合じゃない!このままじゃ酸欠でブラックアウト確実だ。
もう、ダメかもしれない。そう覚悟したとき、みっちゃんの腕の中から救い出された。
良かった、助かった。
お腹に回された腕は私を守ろうとしている。
「なにやってんだよ、あんた!」
「あれ、大路君?」
大路君は肩で息をしていた。なにをそんなに焦っているのか、今度は強く抱き寄せられた。
ヒーローは遅れてやって来る。でも、みっちゃんは悪役ではありません。
望も普段はみっちゃんのことを大木先生と呼びます。