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4話

私が煩くした訳じゃない。なのに何で責める声は上から降って来るのか……。

朝からついてないことばかりだ。やってられない。

俯き、痛いくらい唇を噛みしめ涙が零れるのを塞き止めた。


「煩いってさ、山下さん」

「あははっ、かわいそー」


もう良いよね、ここに居なくても。

これだけ言えば彼女達の気も晴れたでしょう。


「煩いのはあんたらだよ。っていうか、ウザいんだけど。何でまとわり付くの?」


大路君は私と彼女達の間に壁の様に立ち、冷たい視線を浴びせる。

てっきり煩いと言われているのは私だと思い込んでいたので、事態に着いていけず大路君の顔を見つめてしまった。


「え?王子、どうしたの?」

「そうだよ、いつもの王子らしくな~い」


らしくない。その言葉に大路君の機嫌は益々降下する。


「俺らしくないってなに?あんたら俺の何を知ってるの?厚塗りしないと外も歩けない女に付きまとわれてうんざりしてるって分からないかな……?それに臭い。知ってる?香水って昔は自分の匂いを誤魔化すために使われてたって。あんたら臭いって自分でアピールしているようなもんだよ?」


……こんなに流暢に喋る大路君を初めて見た。しかも暴言。

普段の彼を良く知っている訳じゃないけど、誰かとの会話は「ああ」とか「うん」とかで、キャッチボールしているとは思えない内容だった。

その大路君が喋ってる。思わず瞬きを繰り返し、幻かどうか確かめる。何度見ても本人だ。

大路君は話すのも馬鹿らしいと、私の後ろにあったドアに手を掛けた。邪魔にならないように横にずれると、自然な動きで私の腰に手を回し、教室の中にエスコートされてしまった。


え、なに?どうなってるの?

クラスメイトの注目を浴びる中、状況が理解出来ない私は大路君に席までエスコートされた。

大路君は私の席の椅子を引く。


「山下さん、どうぞ」

「はあ。ありがとうございます……」


そのまま着席し、鞄を机の横に下げた。

カタンと後ろの椅子が引かれる音がする。

……えっと。今のはなんだったの?

大路君が女の子達に怒って、私を席までエスコートして。そして今、お互い自分の席に座っている、ということで間違いないよね。


人に紛れ、存在を消し、陰日向に生きてきて早数年……。今だかつてこんな窮地に立たされたことはあっただろうか。

いや、無い。

教室のあちらこちらからひしひしと感じる好奇に満ちた視線。こんなことが私の人生にあって良いはずがない。


何もない机を見つめていると、後ろの空気が動いた。

そしてふわりと髪を一束とられる。


「ねぇ、何で今日はいつもと違うの?」


寝起きのような色っぽさを孕んだ声が聞こえた。

ふさぁっと髪が放される。

驚いて顔を上げると、目が合ったクラスメイトに無言で「あなたが話しかけられてるんだよ!」と言われる。

「え、私!?」と自分を指差す。

肯定するように頷くクラスメイト。サーッと血の気が引いた。

今まさに世にも奇妙な事態が起こっています!


「昨日一緒に居た男って誰?彼氏?だから雰囲気変えたの?」


矢継ぎ早に繰り出される質問に混乱が止まらない。

何も答えない私に苛立ったのか、小さく舌打ちした。

怖い……。何でこんなに責められなきゃいけないの?私何かした?

女の子達から守ってくれたと思ったのに、本当は同じように馬鹿にしたいだけ?

男で見た目を変える女だと思われているのだろうか。大路君の周りに居る女の子達と一緒だと……。


「ち、違います……。昨日、一緒に居たのは弟で……、今日のこれは、あ、姉が勝手に……。わたし、誰かに合わせて雰囲気変えたり、しない……!」


俯いて、きつく瞼を閉じて言い返した。怖くて振り向けない。

膝の上で握り締めた手は緊張で汗をかいている。

でも、言ってやった!

どうだ!モブだってやるときはやるんだ!

見たかこのイケメン!地味子って嘗めてるのがいけないんだから!


臨戦態勢で目を回していると、安心したため息と共に「良かった」と聞こえてきた。

良かったとは何が?

そろりと様子を盗み見ると、大路君は柔らかく微笑んでいる。


な、なんでー!?

何でこんなことになってるのー!?

誰か教えて!

りっちゃーん!!

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