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3話

学校に行く準備をしていると、鏡に髪の長い女が映りこんだ。


「ぎゃー!サダコー!!」


持っていたブラシを投げ、思わず叫んだ私を非難する人間はいないと思う。

サダコの正体は姉の湊ねぇでした。

響は部活ですでに家を出た後、航にぃは昨夜のお酒の影響で未だ夢の中。騒ぎにならなくて良かったと思う反面、サダコから般若に進化した湊ねぇを収める味方が欲しかった……。


ソファに足を組んで座り、目覚めのコーヒーを飲む姿は凄く絵になる。例え座っているソファが5万円の安価な3人掛けの物だったとしてもだ。

でも、物持ち良いんだよ、このソファ。座り心地も良いし。


「望?」

「はっ、はい!」


ソファに座る湊ねぇの前で正座をしています。そろそろ足が限界です。

湊ねぇは兄弟の中で一番厳しい。美は努力によって保たれるを信条としていて、いつもたゆまぬ努力を忘れない。

だから努力もせず、洗顔後は化粧水だけ。髪だってトリートメントはしない手抜きしまくりの私が許せないらしいのです。

別に良いと思うんだけどなぁ。肌の突っ張りは無いし、髪が絡むこともない。充分でしょ?


「まさかとは思うけど、その格好で学校に行かないよね?」

「え、行くけど?いつもこの格好だよ」


何か問題でも?と不思議に思い、首を傾げる。

湊ねぇは私の答えを聞くといきなり立ちあがり、「逃げるんじゃないよ」の言葉を残して部屋に行ってしまった。


……逃げちゃダメかな?

そろっと四つん這いになって音を立てないよう細心の注意を払う。

よしよし、良い感じ。と油断していた私の痺れた足を湊ねぇが遠慮なしに踏みつけた。


「痛い、痛いっ!湊ねぇ、本当に痛いってば!」

「逃げるな、って私言ったよね?」


涙目の私を気にする事なく、湊ねぇにダイニングテーブルの椅子に座らされた。

そして髪をいじられ、学校仕様のメイクをされ……。

「湊ねぇがいじめる」私の嘆きは「これも愛よ、愛」とご機嫌な湊ねぇには伝わらなかった。


「うん。良い感じね。望、誕生日にプレゼントしたコンタクトは?」

「……眼鏡じゃダメ?」

「ダメ」


姉に頭が上がらないのは、妹の悲しい性なのかもしれない……。

肩を落とし部屋でコンタクトを付け、玄関で眩しい笑顔で湊ねぇのお見送りを受けた。

家を出るとりっちゃんの家のベルを鳴らす。

直ぐに出てきたりっちゃんは、私を見てあんぐり口を開ける。


「どうした、それ」

「うぅ……。りっちゃん助けて!湊ねぇがいじめる!」

「あ~。湊ねぇがやったんだ。じゃあ無理」


爽やかな笑顔で無理と言われました……。

味方が居ない!?

仕方なくタオルを被って登校しようとしたら、余計目立つと止められた。

じゃあどうしたら良いの!?

メイク落としは持っていないし、髪はヘアアイロンでゆるふわにされてしまった。頼れるりっちゃんは、私と一緒で湊ねぇに逆らえない。

普段はフェイスパウダーだけして、髪は片側ひとつ縛り。いつもと違う自分はどうも落ち着かない。



なんとか学校に着いたけど、尻込みしてる私を置いてりっちゃんはさっさと自分のクラスに行っちゃうし……。

サボろうかな。たまには良いよね?

体調不良って言って帰……るのはダメだ。家には湊ねぇが居る。危険度MAX。

保健室に行こう。そうしよう。こんな時は普段の行いが良いと特だよね。

教室の前、ドアに手を掛けるまでは頑張った。よくやった、自分。

クルリと後ろを向き、一歩踏み出すとポスッと柔らかな物に当たった。


「へぷっ!?」


柔らかくても鼻に当たると結構な衝撃が。目がチカチカしながらも、よく見れば見慣れた制服が眼前にあり、恐る恐る視線を上げると昨日から何かと縁がある大路君が居た。

いきなりの登場に驚き、後退りした。

ガンッ!

今度はドアに後頭部をぶつける。

恥ずかしさに思わずカッと頬が赤くなる。


「うわっ!?山下さん、大丈夫?」

「あ、大丈夫。へいきれふ」


鼻を押さえたままだったので、正しい言葉にならなかった。

珍しく慌てた様子の大路君を見てほへ~と惚ける。

改めて見ると綺麗な顔をしてる。兄弟とりっちゃんで整った顔には耐性があるけど、何回見ても得した気分になる。うん、眼福。


「ど~したの、王子?」

「あれ、もしかして山下さん?」

「え、マジで?ウケるんですけど~。なに、イメチェン?」

「分かった!王子の前の席になったから意識しちゃったんでしょ」

「なにそれ、痛くない?」


今まで気付かなかったけど、大路君の後ろには女の子達が居た。

自然な美貌の湊ねぇやりっちゃんと違い、バッチリメイクに、何を混ぜたらこんな匂いになるの?と問いたくなる香り。

その強烈な匂いに酔い、くらくする。

うっ、本当に気持ち悪くなってきた……。


女の子達は湊ねぇに弄られた私を見てケラケラ笑っていた。

凄く嫌な笑い方。あからさまに馬鹿にしている。

私は誰かの目を引きたいと思ったことはないし、大路君を意識した訳ではない。でも、それを説明したところでこの人達には通じないだろう。

りっちゃんだったら言い返せるのだろうけど、私にはそんな勇気は無い。

黙って嘲笑に耐えていたけど、目頭が熱くなってきた。次第に視界が滲む。

こんな場所で泣きたくない私は必死に耐えた。泣いたら女の子達が喜ぶだけだ。


「ねぇ、煩いんだけど」


大路君が不機嫌そうな声色で呟く。

その言葉に益々惨めになり、体が強張った。

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