表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

20話

よろしくお願いします。

三者面談で絶対に親が来なくてはいけない決まりはないと思っている。私だって航にぃが来たし、ご両親が忙しくて来られない生徒もいるはず。

だから大路君の叔父さんが出席するのは不思議じゃない。

だけどなんだろう、普通の叔父さんと甥に見えないのは……。お互いに遠慮してるというか、顔色を窺っているような雰囲気がある。

開いた窓から吹き込んだ柔らかな風が、仄かに甘い香りを載せて私の鼻をくすぐった。


「山下さん?柊と仲良くしてくれてありがとう」

「いや、そんな!私のほうこそお世話になりっぱなしです!」


匂いに気を取られていると話しかけられ、慌てて頭を下げた。なぜか嬉しそうだ。


「山下さんはケーキ好きかな?私はお店をやっていてね、シュクレと言うケーキ屋なんだけど、良かったら今度来てください。ごちそうしますよ」

「えっ!シュクレ!?私あそこのケーキ大好きなんです!」

「本当ですか?良かった。ぜひ柊と来てください」


あの甘い香りはケーキの匂いだったのか。

もちろんです!と満面の笑みで答えると、大路君が笑っていた。

ちょっとはしたなかったかなと思いつつも、食いしん坊は隠しきれないらしい。


「望!そんなにケーキが食べたいならお兄ちゃんが好きなだけ買ってあげるから!」


おそらく大路君と一緒に、というところに危機感を覚えた航にぃは、必死に止めようとする。

だけど、激甘な航にぃは際限なく買ってしまうので絶対にダメ。毎日3食食後にケーキになったら自己管理の出来ない女まっしぐら。モブらしくせめて平均は維持しないと。


「航にぃの申し出はありがたいけど、謹んでお断りさせて頂きます」


きっぱり断ると、なぜか目をうっとりさせ「強気な望も可愛いな」と危ない発言をかます。

家族や航にぃを知るりっちゃん達は免疫があるから気にしないけど、初見の大路君と叔父さんの顔はさすがに引きつっていた。

はい。正常な反応だと思います。


「で、では、私はお店があるので先に失礼します。山下さん、遠慮せずに来てくださいね。お待ちしています」


大路君の叔父さんは爽やかな笑顔とほんのり甘い香りを残し、足早に帰っていった。


「航にぃは時間大丈夫なの?このあと仕事なんでしょ?」


無言で大路君を睨む航にぃに訊くと、顔色をサッと青ざめさせた。


「ああ!そうだった!くそっ、満の所になんか行かなければ良かった。無駄な時間を過ごしてしまったじゃないか!」


……いや、あなたが自分で行くって言い出したんじゃないですか。なんでそんなに悔しがってるのさ。我が兄ながら理解し難いですよ。


「くっ、今度会ったら満をこき使ってやる!」


航にぃは別れの言葉のあと、大路君の叔父さんである克久さんとは対照的に暑苦しい包容をして仕事へと向かった。


「……ごめんね、騒がしい兄で」

「いや、楽しそうなお兄さんだね。ちょっと驚いたけど山下さんのこと凄く大切にしているのが良く分かったよ。……俺、睨まれてたんだけど何か気にさわることしたかな?」


思わず謝ると大路君はあんな兄でも褒めてくれる。心が綺麗で広い人だよあなたは。それに比べて我が兄ときたら……。


「本当にごめん。兄のことは気にしないで。大路君は全く悪くないから。悪いのは病的なシスコンの航にぃだから!」


航にぃもみっちゃんも対象者に対して感情表現が極端過ぎるんだよ!犠牲になる身にもなって欲しい。それが兄の愛だとしても、他者を不安にさせたらダメでしょうが!

大路君に航にぃのことを説明したら余計に不安にさせてしまう。しかも変なイメージを植え付けてしまう可能性が高い。山下家はマニア向け、とか……。


「山下さん、もう帰るよね?一緒に帰って良いかな?あと、家にお邪魔しても良い?」

「も、もちろんです!」

「スーパー寄るよね?先に行って買い物してて、後から行くから」


我が家の可笑しな所を考えていたものだから、若干挙動不審になってしまった。大丈夫だよね?口に出してないよね!?




スーパーのレジに並んでいると、機嫌の悪そうな大路君が歩いてくるのが見えた。後ろには他校の制服を着た女子が二人、懸命に話し掛けているが大路君は見向きもしない。

めげない女子も凄いけど、大路君も凄い。


あれが世に言う逆ナンか!と、明後日の感動を味わっていると大路君と目が合った。

口をパクパク動かしている。どうやら「後で行く」と言いたいらしい。

あの状況で携帯を出そうものなら、ハンターのごとく女子が食らい付くだろう。そう判断しての口パクだと理解する。

私も口を動かし「分かった」と返事をすると、ほんの一瞬だけど嬉しそうに笑った。




「お邪魔します……」

「お疲れさま。座って待ってて、飲みもの持っていくから」


数十分後、家に来た大路君が疲れきった表情でソファに座ると、待ってました!とばかりに姫が膝に飛び乗った。

頭を撫でられ喉を鳴らし、ご満悦の様子。

姫はすっかりイケメン好きの美猫になりました。将来が心配です。可哀相だから家長であるお父さんの膝にも乗ってあげて欲しいです。

双子と響はお母さん似で整った容姿をしているけど、私はお父さんにで地味顔だった。それが嫌な訳じゃない。むしろ陰日向に生きたいと願う私からしたら有難い。

一度お母さんに何故お父さんと結婚したのか訊いたことがある。その時お母さんは湊ねぇそっくりの顔で『それが分かれば望も素敵な人に出会えるわ』と言っていた。

まぁ、娘相手に惚気たわけですよ。訊いてもいない事まで教えてくれたし……。

この時、私は確信した。双子と響は性格もお母さん似だと。そして私は性格もお父さん似。

それで良かったと思う。お母さん似だったら航にぃみたいになっていた可能性も有ったわけで……。うん、お父さんの遺伝子、ありがとう。

私は初めて不確かなものに感謝した。

本当に申し訳ございません!

気づいたら三か月も更新してませんでした。

その間も読んでいただいてた方も初めましての方も、またゆっくりではありますが始めたいと思いますので、よろしくお願いしますm(_ _)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ