19話
よろしくお願いしますm(_ _)m
今日は三年最後の三者面談の日だと言うのに、お母さんは急な仕事で来られなくなってしまった。それに気付いたのは昼休み、お母さんからのメールだった。
しょうがない、理由を話して二者面談にしてもらおう。そう思っていたのに最後の文にはこう書かれていた『航に頼んだから』……。
なんでよりにもよって航にぃ!?湊ねぇが良かったよ!
無事に終わる気が全くしないんですけど!?
いきなり前の席の私がずーんと沈みこんだことに気付いた大路君が心配してくれたけれど、まさか「身内が来るから不安です」など言えるはずもなく、適当に誤魔化した。
不安なんて言ったらどんな兄弟だよって思われるし……。
「ああ、望。お前はどこにいても一番可愛いよ!」
「……うん、よし。さっそく三者面談に行こうか」
「ツンな望も可愛いなぁ」
ツンって何が?航にぃってば頭に花でも咲いてんじゃないの?
着いたと連絡があり、迎えに出るとこのテンション……。酔ってるなら分かるけれど、素面でこれはキツイ。
並んで歩くニコニコ顔の航にぃ。そして注目が集まる。
兄弟だから忘れがちだけれど、航にぃは顔良し、頭良しのハイスペックだった。いつも頭が満開だから残念な兄としか見てなかったけど、第三者の目から見ると魅力的だよね。
「では、山下さんは進学希望ですね」
担任が確認で言ったことに頷いた。
簡単終わった三者面談にホッと息を吐く。航にぃが何か言い出すんじゃないかとヒヤヒヤしていたから、何事もなくてよかった。
「まだ時間があるな。……満のところに行くか」
「え!?やだよ!航にぃってばみっちゃんに直ぐ嫌味言うんだもん!」
「満の顔見るとついなぁ」
いい大人なんだから、ついで嫌味を言わないで欲しい。
行きたくないと言う私を無視して航にぃはうろうろキョロキョロ……。まるで落ち着きがない。仕方なくみっちゃんの巣に案内すると、航にぃを見て露骨に不快な顔をした。
「……望、なんでこいつがここに居るんだ?」
「お答えしましょう。お母さんの代わりに三者面談に来たからです。航にぃが、どーしてもみっちゃんに会いたいって言うから連れてきた」
「……捨ててきなさい」
みっちゃんは物色中の航にぃを見ながら受け取り許否。
無理だよみっちゃん。返品不可、クーリングオフもございません。せっかく連れてきたんだから受け取って。
「ふ~ん、本当に教師になったんだな」
「なんだよ、何が言いたい?」
「別に……。ただ、俺の可愛い望に間違った授業はするなよ」
「するかボケぇ!」
あ~もう!またこれだよ!
顔を合わせると直ぐこれだ……。でも、航にぃがこんな態度をとるのはみっちゃんだけなのを知っている私からすると、じゃれあいに見える。
なんだかんだ言っても、双子はみっちゃんが好きなんだよね。みっちゃんなら大丈夫って甘えてるんだろうな。
「満、湊にプロポーズしたらしいな。本気か?」
「あん?響から訊いたのか?」
私は航にぃに言ってない。湊ねぇも航にぃに言うとは思えない。みっちゃんの考えている通り、響が航にぃに教えたんだと思う。
本気かどうかは分からないけれど、響ってばみっちゃんが義兄になるのを嫌がってたし。
「本気に決まってるだろ。俺が何年、湊のことを想い続けてきたと思ってんだ」
「……だろうな。湊のこと、宜しく頼む」
「お、おう。……航に言われると気持ち悪いな」
航にぃ、大人になって……。
やっぱり双子の片割れの幸せを祈る優しいお兄ちゃんなんだね。感動したよ……!
「お前が義弟になった暁にはこき使ってやるから楽しみにしておけ」
「誰が義弟だ!双子なんだから関係ないだろ!感心した俺が馬鹿だった!」
……前言撤回。航にぃの中身は変わってませんでした。私の感動も返してください。
「湊のことはなんの心配もしていない。俺が心配なのは望だけだ。……のぞみ~!望はまだ彼氏とか居ないよな?もし出来そうならお兄ちゃんに報告するんだぞ。そしたらお兄ちゃんが選定して篩に掛けて落としてやるからな~」
「……だ、大丈夫だよ、航にぃ。私に彼氏なんか出来るはず無いじゃない!」
「なにぃ!世の中の男どもの目は節穴か!望はこんなに可愛いのに!」
言ってること矛盾してるよね?そもそも、航にぃに紹介なんかしたらどんな人でも篩から落とすくせに。
その時、視界の端でみっちゃんがニヤリと笑ったのが見えた。
「残念だったな、航お兄ちゃん?お前の可愛い望には、もう既に良い感じの相手が居るんだよ」
な、何言ってるのさ!この変態教師は!
私と航にぃを貶めようとしているんだな!?
案の定、航にぃは酷い慌てようだ。
「ど、どう言うことだ!相手は誰だ!」
「落ち着いて、冷静になろうよ!みっちゃんが言ってることは嘘だから!私にはそんな相手居ないって!」
みっちゃんは面白い漫才でも見るように、大笑いしながら私達の攻防を楽しんでいた。
湊ねぇに言ってやる!結婚反対って言ってやる!
どうにか落ち着いた航にぃを見送るため、玄関まで一緒に歩くが何やら考えこんでいた。
まだ嘘の相手が誰なのか考えているのかと思ったけど、違うらしい。
「今日はありがとう。仕事は大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。俺は優秀だから。ま、このあと戻ってまた仕事なんだけど」
そっか、航にぃは仕事を抜け出してきてくれたんだ。妹想いと言うか、甘いと言うか……。どっちにしても良いお兄ちゃんだよね。暴走しなければ……。
「望は大学に行って何がしたい?その先のことは考えているのか?」
突然真面目な声で訊かれ、う~んと唸る。
航にぃは将来の夢を叶えるために高校も大学も選んで進んだ。そして今はその仕事に就いている。
私はどうかと問われると、実は何もない。
「全然考えてない。考えられないって言う方が正しいかな。だから、それを見つけるための進学なの。航にぃも湊ねぇも自分の夢のために努力して夢を叶えたでしょ?だから私もそうなりたい。後悔はしたくないから」
「そっか……。望なら大丈夫だ。なんてったって自慢の妹だからな」
「何それ。知らなかった、私って航にぃの自慢だったんだ」
「当たり前だろ。望が居たから俺も湊も、響だって今がある。全部望のおかげだよ。自信を持って良い。望は誰かの力に成れるっていう凄い特技が有るんだから」
誰かの力に成れるねぇ……。自覚は無いけれど、航にぃが言うのからちょっとは誰かの為になってるのかな?そうなら良いけど。
「山下さん、終わったの?」
振り向くと大路君が男性と一緒に居た。お父さんかなと思ったが、なんか親子って雰囲気じゃない気がした。二人の間にはちょっと壁がある。そう見えた。
「うん、終わったよ。あ、こちら兄の航」
「……初めまして、望の兄の航です」
ちょっと航にぃ。お願いだからバチバチの視線送らないで。みっちゃんの話を鵜呑みにし過ぎだから!
ちらっと視線を大路君の隣に居る男性を見ると、穏やかに微笑んだ。笑い皺が性格を物語っているかのようだ。
「初めまして、柊の叔父の克久です。」
その人は大路君の叔父と名乗った。