16話
よろしくお願いしますm(_ _)m
「た、ただいま~……」
恐る恐る玄関を開けると、響とりっちゃんが仁王立ちでお出迎え。お叱りの前に食品を仕舞わせてとお願いし、終わると正座させられこんこんとお説教が始まった。
「奥村と会っていたらしいね」
「えっと~……。はい、その通りです」
「俺は気を付けろって再三言って聞かせたよな?今回は何も無かったみたいだけど、次も奥村先輩の箍が外れない保証はないんだぞ」
「はい、以後気を付けます」
「気を付けるってどうやって気を付けるのか、私に説明して欲しいわね」
怒り心頭の二人の溜飲が下がる兆しがない。確かに黙っていたのは悪かったと思う。心配してくれている二人を裏切った形になってしまったのも理解している。でも、会いたいと話したいと訴えた奥村君の気持ちは本物だと思ったから、どうしても言えなかった。
「で、何の話をしていたの?」
「は、話し……?確か、今日中に連絡することと……」
「ずっと好きだった」奥村君の言葉を思い出し、ボッと顔が火照った。
そうだよ、私告白されたんだった……!
え、これってどうすべきなの!?
話すべきか迷っていると、何かを察知したりっちゃんがおもむろに私の鞄から携帯を取り出した。
「連絡先、渡されたんでしょ?」
「手帳に入ってます……」
「出して」
言われるまま取り出した。そこには電話番号とメールアドレス、トークアプリのIDが記載されていた。りっちゃんはそれを見ながらアプリの検索機能を使って奥村君を登録すると、いきなり電話をしだした。
「ちょ、ちょっとりっちゃん!?」
「響、望を確保」
「了解」
いや、どんな連携!?
響に後ろから羽交い締めされ、携帯を取り戻せない。そうこうしているうちに電話が繋がったらしい。小さいが『もしもし』と奥村君の声が聞こえてきた。
「この堪え性のないヘタレムッツリが!当たって砕けて粉砕しろ!」
『はぁ!?』
言い切った感を出し、終了ボタンを押す。なんて良い手際……。
私を解放した響はりっちゃんに惜しげもない拍手を送る。
「はい、連絡しておいてあげたわよ。これで奥村も文句ないわね」
「待って、有るでしょ!?何言ってるのさ、ほぼ悪口じゃん!」
「連絡は連絡。望から連絡が欲しかったんでしょ?ちゃんと望の“携帯”でしてあげたじゃない。私なりの譲歩よ。感謝してほしいくらいだね」
……なんとまあ、開き直った屁理屈だろうか。それでこそりっちゃん。敵いません。
ごめん、奥村君。私じゃどうにも出来なかったよ。折り返しの電話も来ないし、約束は守ったってことで許してもらおう。
「あ~スッキリした。望、お腹空いた」
一気に力が抜けた。欲求に忠実なりっちゃん、素晴らしい。私も少しは見習おう。
まだ響は納得していないみたい。そうだ、葵ちゃんは大丈夫だろうか。後で連絡しないと。
「ごめんね大路君、色々迷惑かけちゃって」
「気にしないで。……ところで、今日会ってた相手とどういう関係なの?」
「なんだ、王子会ったの?あれが望を階段から突き落としたバカ野郎よ」
「ちょっとりっちゃん、大路君に言うことじゃないでしょ!」
大きく目を見開いた大路君は、りっちゃんの言葉を理解するとスッと目を細めた。
「アイツが……?山下さん」
「は、はい!」
ビクッと肩が揺れた。姫と遊んでいた大路君は静かに立ち上り、未だに正座中の私の前に方膝を着いた。
なんだか怖い。呼ばれただけなのに怒られている気がする。……気がするんじゃなく、本当に怒っているようだ。
「人を無闇に嫌ったり疑ったりしないのは山下さんの長所だけど、短所でもあるよ。弟君の言う通り、今回大丈夫だったから次も大丈夫とは限らない。もう少し自衛力を養った方がいいね」
「……奥村君、凄く真剣だったの。だから私も答えなきゃって……。こんなに皆に心配かけるとは思ってなくて……。響、りっちゃん、大路君。本当にごめんなさい。あと、ありがとう。これからはもっと良く考えて行動します」
「うん。そうしてくれると俺も安心する。もし、自分で考えても答えが出なかったら俺に相談して。俺が山下さんの力になるよ」
ううっ。大路君、本当に優しい。話しかけないで、構わないでって自分勝手な私を丸ごと受け入れてくれるし、その上相談にまで……。これはもう、拝むしかないか?
あ~、涙でそう。家族とりっちゃん以外でこんなに親身になってくれる人が居るなんて、しかも私なんかに。
「ありがとう大路君。大路君って本当に王子様みたい」
「……王子って呼ばれるの好きじゃないけど、山下さんに言われると嬉しいよ」
二人で座り込んでニコニコ笑いあっていたら、姫が足に擦り寄ってきて「ニィー」と一鳴きした。
抱き上げ時計を見ると、いつもの姫の餌の時間がとっくに過ぎていた。
「姫ごめん。すぐ用意するね。大路君も良かったら晩ご飯食べていって。今日はお好み焼きだよ~」
「望、私は野菜多目で」
「俺は肉多目で」
「分かってます~」
痺れた足を引き摺って姫の餌を用意した。無心に食べる姫を見ているだけで癒される。足の痺れも吹っ飛んだ。
大路君はダイニングテーブルの椅子に座って、優しい目で姫を見ていた。
「大路君、ご飯どうする?お家で用意してなければ食べていってよ。味は保証できないけど。アハハ」
お好み焼きだから焦がさなければ味は何とかなる、と思う……。
響とりっちゃんはリビングでテレビを観ていた。手伝う気はないようだ。
「家は大丈夫だよ。本当にご馳走になって良いの?」
「もちろん!兄弟揃って迷惑かけたお礼だよ」
「ありがとう。俺も手伝うよ」
折角の申し出だけど断った。でも大路君はジャケットを椅子に掛け、シャツを腕捲くりし始める。やる気満々です。
私は大路君に待つように伝えて自室で着替え、航にぃの服とエプロンを渡した。料理って汚れるからね。
「そう言えば、この間来たときに借りた服、今度持ってくるよ」
「ありがとう。ごめんね、学校で受け取れば早いんだけど、誰が見ているか分からないから……」
「ううん。おかげでこうして素の山下さんと気兼ねなく話せるし、嬉しいよ」
素の私かぁ。確かに学校だと視線を気にしてガチガチだから、素なんか滅多に出ないな。
でも、自宅だからってずっと避けていた大路君みたいな主役と普通に会話が出来るなんて、この瞬間も不思議で一杯。これは大路君の人柄が成せる業かな。
「山下さん、良かったら連絡先教えて」
「良いよ、私にも教えてね。……大路君は素の私と話せて嬉しいって言ってくれたけど、私も学校と違う大路君と話せて嬉しい。一つ気付いたこともあるし」
「気付いたこと?」
手を止めた大路君が不思議そうな顔で訊いてきた。私は得意気に言った。きっと本人も気付いていないことを。
「大路君って意外と良く笑うよね。学校だとあまり笑わないから初めて笑顔を見たとき驚いたけど、他の人は知らないんだろうなぁと思って得した気分だったんだ」
「そうなんだ。お互い知らないことが一杯あるね。これから山下さんのこと、もっと知っていけたら良いな」
「私も」と答えてまた微笑み合う。
なんだか大路君と一緒に居ると心がほんわか温かくなる。