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15話

よろしくお願いしますm(_ _)m

大路君は真っ直ぐ私に向かってきた。

この公園は大路君が姫を拾った場所から離れている。どうして私がここに居ると分かったんだろう?

超能力?主人公にはそんなものまで備わってるの?


「良かった居てくれて」

「ど、どうしたの?」

「帰り際に山下さんの弟に捕まったんだよ。山下さんがどこにいるか探してるから、暇なら手伝えって」

「はぁ!?響が!?」


携帯を見てと言われ、開くと響からの夥しい着信とメッセージの数。その間に隠れる様にして葵ちゃんからのメッセージが。『奥村先輩に望先輩の連絡先訊かれて、断ったら直接学校に行くって言ってました!止められなかった、ごめんなさい。あと、響にもバレました』ガーン……。

学校に居る間はサイレントにしていたから気付かなかった。

響からのメッセージを読むと焦りと怒りが伝わってきた。……帰りたくない。

ショックで項垂れていて、二人の存在を忘れていた。二人は静かに睨み合っている。


「山下さん、帰ろう。弟君が心配してる」


大路君は私を見ず、奥村君から視線を外さず言った。

ああ、動物は目を逸らした方が敗けって言うもんね。


「あの、奥村君、ごめんね。私帰る、よ」


鞄を持って立ち上がると反対の腕を取られ、奥村君も立ち上り私を引き寄せた。

子供の頃とは違う大きな手と、力強い腕。私の体は簡単に動いてしまう。


「ちゃんと考えて欲しい。……連絡、待ってるから」

「で、でも。私じゃ奥村君の望むものはあげられない……よ?」

「それでも良い。俺のことを少しでも山下の心に置いてくれるのなら。じゃないと、また学校まで行くけど良いの?」


うっ、それは嫌だ。こんなに目立つ人が居たら、裏門だろうがどこだろうが噂になりかねない。それに連絡を待ってくれる保証はない。だって奥村君は『待て』が出来ない人だから……。


「わ、分かった、よ。今夜、連絡する。でも、返事は、待って。お願い」

「うん、待ってる。それと今度会うときまでにその喋り方、直しておいて。こいつが誰だか知らないけど、俺には怯えてるのにこいつとは普通に会話してるのがムカつくから」

「ぜ、善処します……」


ようやく離された手に持っていた携帯が震えた。響からの着信だ。


「あわわっ、響だ!大路君、ちょっと待ってて」


少し離れた所に移動して通話ボタンを押した。「もしもし?」と出ると『望ねぇ!?』と音割れして響の声が聞こえてきた。ハンズフリーにしなくてもこのまま通話出来そう。


「ちょっと響、声大きすぎ!耳が壊れちゃうでしょ」

『それが心配しまくった弟に対する態度かよ!何もされてないだろうな!?』

「当たり前でしょ、何を考えてるの!奥村君は悪い人じゃないもん」

『充分悪いつーの!』


響の悪い人の定義が分からない。奥村君は確かにちょっと強引だけど、悪い人ではないと思う。

寄り道せずに真っ直ぐ帰ってこいと喧しく言われたが、今日の夕食の買い物がまだだ。


『なら、買い物が終わったら寄り道しないで帰ってこいよ』

「なに、その言い方。私子供じゃないんだけど」

『子供じゃないから言ってるんだよ!分かれよ鈍感!』

「ひどっ!あんたねぇ……あ、ちょっと!?」


電話で兄弟喧嘩が始まったと思ったら、いつの間にか来ていた奥村君に携帯を取られた。取り替えそうと手を伸ばすが、悲しいくらい届かない。

唯一身長だけは平均よりも高めな私が苦戦するとは、奥村君は何㎝なんだ?


「よぉ、久しぶりだな、響」

『……っ!』

「耳元で喚くなよ。お前まだ山下の番犬してんのな。いい加減に姉離れしろよ、山下が壊滅的に鈍いのはお前と斎藤のせいでもあるだろ?…………あ~、残念。拒否されない限りは諦めるつもりないから。じゃあな」


響がなにか叫んでいるのは聞こえたけど、内容は分からなかった。たださ、“壊滅的に鈍い”って言葉は私のこと貶しているよね?そんなふうに思ってたんだ……。地味にショック。皆言いたい放題言い過ぎでしょ。

奥村君は一方的に終話ボタンを押し、満足そうな顔をして携帯を渡してきた。


「響のヤツ、昔より酷くなったな。まぁ、俺のせいでもあるけど」

「た、確かに過保護、だけど、良い弟だよ」

「知ってる。連絡、忘れるなよ」


何なの、その捨て台詞……。高笑いが聞こえて来そうなほど勝ち誇った顔で大路君を一瞥すると、悠々と帰っていった。

にらめっこ対決は奥村君が勝ったのかな?

ベンチがある場所に戻ると、大路君は奥村君の後ろ姿をキツイ視線で追っていた。


「大路君、お待たせ」


大路君は視線を私に移し、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐いた。


「……言いたいこととか、訊きたいことが山ほどあるんだけど、冷静で居られる自信がないから、取り敢えず帰ろうか」

「あ、うん。そうしてくれると助かります。私これからスーパー寄って帰るね。なんか、響が失礼なこと言ってごめん」


暇なら手伝えって、後輩のくせにどんだけ上から目線なのさ。


「いや、良いよ。むしろ助かったかも。……買い物、俺も付き合うよ。今日、山下さんの家に行って良い?姫にも会いたいし」


色々迷惑をかけてしまったし、響に巻き込まれてしまった大路君の要求を受け入れない訳にはいかない。

しかも……。


「ごめんね、大路君。でも助かった」

「いや、これくらい良いよ。いつでも言って」


いや~、本当に助かった。スーパーで買い物をしていたら、お米が本日限定価格で売り出されていた。それに食い付いたのは言うまでもなく、しかしそんな重いもの持てるはずもない。外で待っていた大路君を呼び込み、頼み込んで我が家まで持ってもらうことに。申し訳ないと思いつつ、思わぬ特売品にホクホクの私。


「大変だね、いつもはどうしてるの?」

「響に持ってもらったり、兄が来た日は車出してもらって買いだめしてる」

「お兄さんも居るんだ。兄弟が多いって良いね。楽しそう」

「楽しいけど大変だよ?」

「大変でも羨ましいよ……」


大路君は何故か口数が減り、寂しそうな瞳をした。急に変わった雰囲気にどうしたのか訊くと、「何でもないよ」と曖昧な笑顔で答えた。

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