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13話

よろしくお願いしますm(_ _)m

「王子、あんたが思っているよりも望はデリケートなの。さっきは軽い気持ちじゃないとか言っていたけど、本気だとしても私はアンタを応援したりしない」

「ちょっと、りっちゃん。何言ってるの?」


軽い気持ちとか本気とか、何のことなのかさっぱり分からないよ。

大路君は真っ直ぐにりっちゃんを見ていた。二人だけで通じている会話に、話の対象者であるはずの本人に伝わらないのは何で?


「山下さん、訊いても良いなら話して欲しい」

「え、良いけど……。全然面白くないよ」


それでも良いと頷く大路君に、私は話した。小学生の頃、学校で一番の人気者である男子に階段から突き落とされたこと、それから目立つ人や集団の女子が苦手なことを。


「だからね、大路君に関わりたくなかったんだ。大路君の回りには女の子がいつも居るでしょ?攻撃の対象になりたくなかったの。……だから構わないでって言ったんだけど、すごく後悔した……」

「何で?山下さんの話を聞くと、真っ当な理由だと思うよ」


私は首を振って否定した。確かに真っ当な理由かもしれない。でも、それが相手を傷付けて良い理由にはならない。

あの時、大路君は傷付いていた。悲しそうな表情で俯いて、一人教室に戻った。構うなと、話し掛けるなと何故一方的に言われなければならないのか、その訳も知らないまま……。


「確かに大路君に話し掛けられて困っていたけど、どこか嬉しかったの。私みたいな地味で目立たない人間でも、気にかけてくれる人が居るんだって……。でもやっぱり怖くて、あんなこと言った。謝りたかったけど、理由も知らないまま謝罪されても迷惑かなと思って、言えなかった。だからやっと言える……。本当にごめんなさい。そして、ありがとう」


良かった、やっと言えた。大路君の傷付いた表情が、ずっと頭から離れなかった。みっちゃんには間違っていたかどうかは本人にしか分からないと言われたけど、本当にそう。あの時の私は間違っていた。今、ハッキリ分かったよ。


「……あの時構うなって言われて、山下さんに話し掛けないように気を付けていたのに、言った本人が次の日から挨拶してきて、びっくりした。どうしたら良いのか分からなくて、でも約束は守らなきゃいけないから無視してた。なのに山下さん、毎日真剣な顔して挨拶してくるんだもん」


「あれは可笑しかった」と大路君は笑った。それについては申し訳ない気持ちで一杯です。あの時は、なにがなんでも挨拶を成功させなきゃって必死だったから。私の行動は、びっくりして困って当たり前だと思う。


「あのね、学校ではやっぱり話すのは怖くて出来ないんだけど、挨拶はしても良いかな?」

「もちろんだよ、嬉しい。ありがとう、山下さん」

「よかったらまた遊びに来てね。姫も待ってるから」

「あの猫の名前、姫にしたの?」

「うん。真っ白だから白雪姫の姫。白雪よりも、姫のほうが反応がよかったんだ」


名前の話をしたらりっちゃんに「安易すぎる」とダメ出しを受けた。大路君は「可愛い名前だね」って言ってくれた。大路君は優しい。こっちが申し訳なくなるくらい。

最後に姫を抱き上げ、鼻チューしてた。超絵になる。大路君を見送ると宅配が届いたのでトイレとかセッティングしていると響が帰ってきて、りっちゃんの膝の上にいる姫に釘付け。

「何これ、飼うの?!」大興奮の響のせいで姫が起きちゃった。せっかく気持ち良さそうだったのに。

夜になってお母さんが帰ってきたので姫を紹介すると、あっさり許可が出た。まあ、買い揃えちゃったから許可しないわけにはいかなかったのもあると思う。すっかり我が家のアイドルだ。


「望が男の子を家に連れてくるなんて初めてね」

「そうだっけ?」

「そうよ。あんた男友達居なかったし、あの事があってから女友達も作らなくなったから心配していたけど、大丈夫そうで安心したわ」


お母さんに言われて考えてみると、確かに人生において男の子の友達って居なかった。女の子も怖くて、仲良くなろうと思わなくなったし。

りっちゃんが居るから別に良いと思っていたけど、ちょっとこれってダメなんじゃ……。

私、りっちゃんに依存してる?


「そう言えば響は?」

「部屋で姫の写真撮りまくってる」


響のああいう性格を見ていると、血は争えないとしみじみ思う。航にぃにそっくりだ。「姫は世界一可愛いなぁ~」とデレデレで、お姉ちゃんは将来が心配です。

お母さんは呆れた顔をして、「葵ちゃんも大変ね」と呟いた。

葵ちゃんは中学生の時から付き合っている響の彼女。高校は別になったけど、メールや電話は良くしているし、休みの日には仲良く出掛けている。

正直羨ましい。私には一生無理かもしれない……。

その葵ちゃんとは私も二人で遊んだりしている。サッパリとした性格で、こんな私でも慕ってくれる可愛い後輩だ。

次の休日も遊ぶ約束をしている。



約束の日、待ち合わせの場所で葵ちゃんを探していると、「望先輩!」と元気な声で呼ばれた。

声のする方から葵ちゃんが手を振りながら近付いて来るのが見えた。


「お久しぶりです!元気そうで良かった~。最近の響はメールも電話も機嫌悪くて、こりゃ望先輩絡みに違いないって思ってたんですよ」

「ごめんね、私と湊ねぇのことでダメージ受けたみたい」


カフェに移動し、天気が良いのでテラス席でお喋りをする。こんな日な洗濯ものが良く乾くと、主婦脳な自分がちょっと心配。まだ高校生なのに大丈夫か?


「満さんも思い切ったことしますね」

「みっちゃんだからね」

「成る程。そして望先輩の王子様か……。響の機嫌が悪くなるはずですね」


姫が来てからはご機嫌だけど、大路君から引き取ったと言うと複雑そうな顔で頭を撫でていた。

姫が来たのは嬉しい。でも、大路君と私が関わるのは嫌だ。分かりやすく顔に出ていた。


「私の高校にも居ますよ、女子に人気の先輩。いつ見ても女子に囲まれてて、クラスの女子がキャーキャー騒いでます。私は興味ないですけどね」

「へ~。どこの学校にも居るんだね」


主人公はどこに紛れ込んでいてもスポットライトを浴びる。それを遠くから眺めているのがモブだ。

注目されることもなく、日々を過ごす。そんな人間が主人公の隣にいきなり立つことになったら?それでもスポットライトは当たらない。でも、それで良い。私はそれが良い。


「山下?」


歩道を歩く人が止まって私を呼んだ。すっかり声変わりをし、記憶の中の人物と一致しなかったけど、顔を見て直ぐに思い出した。

意思の強い目はそのままに青年になった彼は、迷いなく私を見ていた。


「奥村君……」


スポットライトは要らない。私はモブでいたい。

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