12話
よろしくお願いしますm(_ _)m
あわわっ、どうしよう。このままだとりっちゃんが鬼になってしまう……。
「のぞみ~。居るんでしょ~」
「は、はーい。いまーすっ」
リビンクに入ってきたりっちゃんは仔猫を見て固まる。そして口角だけを上げて笑った。
目が笑っていないのがとても怖い。美人が怒ると怖いって本当だったんだ。
「訊きたいことがいくつか有るのだけど……」
「な、何でしょうか?」
「玄関の響の物ではない靴は何?その仔猫は何?なによりも、このシャワーの音は何かしらねぇ……?」
矢継ぎ早に訊かれ曖昧に笑って誤魔化したが、そんなことが通用するはずがない。私には白状するしか選択肢は残されていなかった。
事情を説明していると、りっちゃんの顔が徐々に強張り始める。
ピシッ!と亀裂音がして、恐々りっちゃんを見ると氷の女王みたいになっていた。いつか見た湊ねぇの般若よりも怖い。
全て話すと諦めたかのように大きな溜め息を一つ吐いて「元居た場所に捨ててきなさい」と言われ、膝の上で座る姫と目を合わせる。
「どっちを?」
「王子に決まってるでしょう」
当たり前のように言い捨てた。
大路君は何でこんなに響とりっちゃんに嫌われてるんだろう。
「出来ないなら私がやる」
そう言ってバスルームに向かおうとする。私は姫をソファに座らせ、りっちゃんを止めた。
「な、何しようとしてるの!?大路君はお風呂に入ってるんだよ?真っ裸なんだよ?分かってる?」
「知ってるよ。王子の裸なんて見ても何とも思わない。響と何が違うのよ」
「いや、待とう。落ち着こう?りっちゃんが知ってる響の裸は小学生の頃の裸だよ?高校生の大路君とは明らかに違うと思うよ!?」
「知るかそんなの」
りっちゃんご乱心。
私はりっちゃんの腰に抱き付き、必死に止めていた。このままでは大切な幼馴染がみっちゃん以上の変態さんになってしまう。
それは阻止しないと卓さんに申し訳ない。
童話の大きな蕪みたいにりっちゃんを引っ張っていると、大路君がバスルームから出てきた。
「シャワーありがとう。おかげで体が温まったよ」
「そ、それは良かった。おお、じくん。……逃げてー!」
大路君の姿を確認したりっちゃんに火が付いた。平均女の私には、りっちゃんを押さえておくのはムリ。バスルームへの乱入を阻止出来たのは上出来だと思う。
私の足止めを突破したりっちゃんは、大路君の胸ぐらを掴んだ。
「王子あんた、どういうつもりで望に近づくの?軽い気持ちなら今後一切望に構わないで」
「軽い気持ちなんかじゃない!」
「ちょっと待ったー!」
シリアスなところに空気を読まず乱入してごめんなさい。でもさ、二人共一旦落ち着こうか?
私の力の抜ける発言に、大路君からりっちゃんが手を離した。その隙に二人の間に立ち、大路君を背に庇う。
「大路君は悪くないよ、無理矢理家まで連れてきたのは私だもん!」
「そう言う事じゃないのよ。女の子が一人しか居ない家に上がるその根性が気に入らないって言ってるの」
「だからそれは私がーー」
「山下さん、もう良いよ。ありがとう」
「大路君?」
大路君はりっちゃんに向き直ると、深々と頭を下げた。その行動に私だけじゃなく、りっちゃんも驚く。
「斎藤の言う通りだ。軽率だった」
「大路君、止めて。頭上げてよ。帰るって言う大路君を引き留めて家に上げたのは私なんだから」
「いや、山下さんは悪くないよ」
「そんな……!」
「はぁ……、もう良いわよ。何よ。私が悪者みたいじゃない」
りっちゃんは「この話はおしまい」と言って、いつの間にか寝てしまった姫の横に座り、優しく頭を撫でる。
「大路君、ごめんね」
「俺こそごめん」
「あー、そこ!いい加減にしなさいよ」
りっちゃんに言われ、大路君と目が合うと二人で笑った。
「あ、そうだ!」
「今度は何よ~」
悶々としていた原因が分かったよ!あースッキリした。早速大路に訊かなきゃ。
「大路君、パンツ大丈夫だった?」
「……へ?」
「渡した下着は兄のなんだけと、兄はボクサーパンツ派なんだよね~。大路君の好み訊かないで渡しちゃったから、気になってたんだ」
しーんと静まり返る我が家。あれ、どうしたの?なんか変?
不思議に思い、室内を確認するけどおかしい所は無い。姫の寝言のような鳴き声が時おり聞こえるくらいだ。
「……大丈夫、だったよ。……ふっ。ふはっ。あはは!や、山下さん!凄い!も~ダメだ!」
「はぁー。さすが望だね」
大路君はお腹を抱えて笑いだした。
え、どうした?何があった?
さすがって何処が?
一人だけ状況に着いていけず取り残された私は、大路君の笑いが収まるまで待つしかなかった。
笑から回復した大路君は目尻に溜まった涙を拭っている。
何がそんなに受けたんだろう……。パンツのこと訊いただけなのにあんなに大笑いするなんて、大路君て笑上戸なのかな。
「山下さん、普段は普通に喋れるんだね」
大笑いして喉が渇いただろうと冷たいお茶を渡すと、大路君に指摘された。
うっ、バレた……。
「うん、まぁね。学校だと他人の目が一杯あるからちょっと怖くて」
「……何か理由でも?あ、訊かれたくないなら答えなくて良いから」
「いや、別に大したことじゃないよ」
「大したことでしょが」
姫と寛いでいたりっちゃんが大路君を睨むように言った。
と言うわけで、望が悶々と悩んでいたのは下着のことでした~。
くだらなくてすみません。
男兄弟がいるので、そういうところ気にしなくなった望でした。
どもらない理由など諸々は次回になります。
次もよろしければお付き合い下さいませm(_ _)m