11話
よろしくお願いしますm(_ _)m
「じゃ、俺は部活があるから先に行くけど、言ったこと忘れないように」
「分かったってば、響しつこい」
響は不満そうな顔をし、渋々朝練のため先に家を出た。
休日の二日間はみっちゃんのせいで大変な目にあった。響とりっちゃんに懇々と諭され、「挨拶を交わす以上の事はしないこと」と約束までさせられて、話さない・笑わない、なんて意味の分からない事まで言い出す始末。私は人形じゃないっての。
「大路君、おはよう」
「……おはよう」
よし、良い出だしだ。登校中、響と同じでりっちゃんに「挨拶だけよ、分かってる?」なんて再度厳重注意を受けた。私ってそんなに信用ないのかなぁ。
その日は約束通り挨拶だけで終わった。月曜日はそんな感じだったけど、何日かたった頃、授業中とかふとした瞬間、大路君のため息が聞こえるようになった。真後ろだから聞こえちゃうんだけど、どうしたの?と聞けるはずもなく、気付かない振りを続けていた。
「……雨か」
夕方から雨の予報が出ていた。ずばり当たった天気予報、信じて良かった。雨なんか降らないと言い張った響に、無理矢理折りたたみ傘を持たせて正解だったな。帰宅後は私に感謝することだろう。
その帰り道、同じ学校の制服を着た男の子がずぶ濡れで歩いているのを発見し、通り過ぎるときにチラリと顔を見ると、大路君だった。私は約束なんか忘れて、濡れるのも構うことなく差している傘を大路君の頭上に掲げる。
「どうしたの!?傘は?びしょ濡れじゃない!」
「山下、さん?」
そうです、私が山下です。
びっくりする大路君。ですよね。今までさんざん無視しておいて、何だお前って感じですよね。しかもお願いしたのは私からだし。
「何してるの?風邪引くよ」
「……学校の帰りに猫を拾って」
「ねこ?」
確かに大路君の腕の中には、泥で汚れた小さな仔猫が居た。ニィー、ニィーと頻りに鳴いて震えている。
「こいつが居たんじゃ電車に乗れないから、歩いて帰ってる途中」
「歩いてって……。家はどこなの?」
「学校の最寄り駅から三駅先」
「えー!そんなに遠いのに歩いて帰るつもりだったの!?」
真面目に頷く大路君。有り得ないでしょ、一駅ならまだしも三駅って……。
「事情は分かったよ。大路君、まずは動物病院に行こう!」
私は大路君の返答を待たず、腕を引っ張って連れていった。まるで人攫い。
違いますよー。これは人助けならぬ猫助けですからねー。
仔猫がこの雨の中、大路君の家まで濡れて帰るのは可哀相。震えているし、もう限界なんじゃないかな。そう考えると優先させるのは仔猫でしょう。
持っていたタオルで仔猫を包み、動物病院へ急いだ。
動物病院に着くと大路君に未使用のタオルを渡し、濡れた髪と服を拭いてもらう。気休めにしかならないけど、やらないよりはましだと思う。
獣医さんによると仔猫は生後2ヶ月程で、健康体だと言っていた。動物看護師さんによってシャンプーされた仔猫の披毛は真っ白で、とても可愛い。一瞬でノックアウト。心を奪われた。仔猫にとんでもないものを盗まれました。
取りあえず急ぎ必要なもを訊くと、思っていたよりも多かった。
「良かったね、仔猫。でもどうするの?」
「俺の家、猫ダメなんだよね……」
なんと!連れて帰るつもりだったのに飼えないなんてどういう事?
大路君は本当に困った様子で腕の中の仔猫を見ていた。
「じゃあ、私が飼っても良いかな?」
「え?山下さんの家、大丈夫なの?」
「う~ん。多分、恐らく、おおかた大丈夫だと思う」
「あはは、全部同じ意味だし」
いや、だって家族の了承取ってないもの。でも大丈夫だと思うんだよね~。両親も響も動物好きだし、マンションはペット可だし。
なによりとんでもないものを盗まれましたから、この子に。
自宅に帰る前にホームセンターに寄って必要な物を購入し、宅配を利用して自宅に送ってもらうことにした。どう考えても持ってなんか運べない。
今の世の中便利だよね~。即日配達もやってるんだもん。
買い物している間、お店の外で大路君には仔猫と待っていてもらい、会計を済ませると「帰る」と言う大路君を無理矢理自宅に招待した。
「本当に良いのに……」
「ダメだよ!そのまま帰ったら家族が心配するよ。さ、上がって」
宅配は一時間後に頼んである。仔猫のベッドの心配はしなくて済みそう。
服が濡れている大路君は、仔猫を抱っこしたまま立っていた。
「シャワー浴びなよ。はい、これ服と下着。あ、下着はもちろん新品だからね!」
「いや、そこまで迷惑かける訳にはいかないよ」
「いいから、ほら」
大路君をバスルームに案内して、押し込んだ。さすがにここまでされて抵抗するのも悪いと思ったのか、「ごゆっくり」と言うと苦笑いをしながら頷いていた。
響の服だと小さいので、大路君に渡したのは航にぃのだ。下着は以前、航にぃが泊まった時用にと買ってきた物で、パッケージが付いたままになっていた正真正銘の新品。
問題は無いはず……。
着替えを済ませ、ソファに座る。何かに引っ掛かって悶々としていると「ニィー」と鳴き声が足元から聞こえてきた。
私は仔猫を抱き上げ、膝に乗せた。
「可愛い。もうすぐお前の荷物が届くよ、良かったね」
「ニィー」
「お前って呼ぶのもなぁ。……真っ白だから白雪、とか?」
「……」
あ、反応無い。気に入らないのかなぁ。まさか猫に名前の好き嫌いは無いよね?
「なら、白雪姫の姫は?ひーめ。どう?」
「ニィー」
反応したし……。
何度か白雪と姫を交互に言ってみた。白雪でも反応する時はあったけど、姫と呼んだ時の反応はすこぶる良い。
やっぱりメスだから姫って呼ばれたいの?
ピンク色の鼻をつつくと、くすぐったそうに前足で顔を擦った。
めちゃくちゃ可愛い。超癒される……。
仔猫とまったりしているとピンポーンと玄関チャイムが鳴り、「お邪魔しま~す」とりっちゃんがやって来た。
りっちゃんの声を聞いて血の気が引く。
ヤバい……。これは正しく絶体絶命のピンチです!
犬も猫も好きですが、犬しか飼ったことがありません。
いつかは猫も飼いたいです。
望が悶々としている理由。大路相手にどもらず普通に会話が出来ている理由は次回書きます。