10話
よろしくお願いします。
大路君への挨拶が一度しか成功していないのに、週末になってしまった……。意地になっていたから挨拶出来ていたのに、休日を2日も挟んだら心が折れてしまう。
ああ、上手くいかない……。
「なによ~、まだ納豆のこと根に持ってるの?響って案外ねちっこいんだ」
リビングのソファに座ってテレビを観ていると視線を感じ、ちらりと目を移せば朝からむすっとした顔の響が、恨めしそうに私を見ていた。そんなに納豆が嫌だったのだろうか、お母さんが居ないときにご飯を作っているのは私だ。感謝されても根に持たれるのはおかしい。
「違う、子供扱いすんな!俺が怒ってるのは……」
響の言葉は玄関のチャイムで遮られた。更に機嫌が悪くなった響がしつこくなり続けるチャイムに舌打ちをする。
のそりと立ち上り、玄関に向かった。
「はいはい、今開けますよ」
だが響が開ける前に訪問者は玄関を開けてしまった。こんなことするのは限られている。両親と上二人はチャイムは鳴らさない。鳴らすのはりっちゃんかみっちゃんだ。
「げ、なんだ響か」
「……どちら様でしょうか。勝手に開けるのは不審者で決まりですね。望ねぇ、警察呼んでー」
「わっ、バカ野郎!未来のお兄様に向かって何て口の聞き方だ!兄を犯罪者にしたいのか!」
「俺はあんたを義兄とは認めない」
どうやらみっちゃんの方だったらしい。りっちゃんは良く響のことをシスコンと呼ぶ。それは私に対してらしいが、湊ねぇに対してもシスコン気味だと思う。
本当にみっちゃんが嫌な線も捨てきれないけど。
「ひびきー、みっちゃんなんでしょー?上がってもらいなよー」
声を掛けてもまだ言い合いしている……。響も諦め悪いなぁ、湊ねぇがみっちゃんを手放すはずがないのに。
リビングに入ってきたみっちゃんの手には約30センチ程の箱があった。私の中の甘味センサーが素早く反応する。
「シュクレのケーキだ!みっちゃん本当に買ってきてくれたの!?しかもホール!」
夢にまで見たシュクレのケーキ。ホールを買う度胸もない私は感激した。取り引きの内容がアレだけど、結果オーライだよね。湊ねぇに色々チクってやろうと思っていたけど、止めてあげよう。早速りっちゃんにメールしなきゃ!
りっちゃんからの返信は直ぐに来た。りっちゃんが来るまでにケーキを切り分けお茶の用意をしている間も、響とみっちゃんは「認めろ」「認めない」と言い合っている。
玄関のチャイムが鳴り、「お邪魔しま~す」とりっちゃんが上がって来た。
「なに、この状況は……」
「りっちゃんいらっしゃい。リビングは煩いからダイニグで食べよう」
言い合う二人を一瞥し、「アホらしい」と呆れた顔をする。ほんと、アホらしい。もっと言ってやって。
私達が食べ始めると二人は言い合いをピタリと止め、静かにテーブルに着く。みっちゃんも食べるの?と聞けばその為のホールだったらしい。
「そう言えばみっちゃん、今年の湊ねぇの誕生日はどうしたの?」
毎年告白してるし、湊ねぇもそろそろ応えてあげようかなと言っていた。きっと二人の仲が進展しているはず、そう思って軽い気持ちで訊くと、とんでもない答えが返ってきた。
「プロポーズした」
「ぶっ!?」
「ごほごほっ!」
「は、な、はぁ!?」
私は飲んでいた紅茶を危うく吐き出しそうになるし、りっちゃんは気管支に入って噎せ、響は言葉にも成らない様子。
いやいや、おかしいでしょ!なぜ告白をすっ飛ばしていきなりプロポーズ!?
だからやけに“兄”を強調していたのか、納得。って、納得出来るかー!
「何でプロポーズ!?色々すっ飛ばし過ぎでしょう!」
「ここまで来ると変態も本物ね……。御愁傷様」
「嫌だ……。湊ねぇ、嘘だと言ってくれ」
響は頭を抱えてしまった。みっちゃんは腕を組んでふんぞり返っている。何でそんなに偉そうなのよ!頭に花でも咲いてんじゃないの!?
「返事はまだだ。俺の誕生日に返事をすると言っていた。俺の予想では来年には結婚式だ」
「目をキラキラさせるなー!」
あー、血圧上がる。プロポーズって……。だから湊ねぇ、そろそろ応えてあげようかなって言ってたのか。と言うことは、本当に来年には結婚式?……響、ドンマイ。
「俺のことは良いじゃないか。望は大路とどうなんだよ、熱い抱擁を交わしてただろ?」
「わ、バカ!」
響は顔を上げ、りっちゃんはケーキをつつく手が止まる。……最悪だ。ただでさえ響は大路君に良い印象持ってないし、りっちゃんには何も話していない。そんな中でまさかの爆弾投下。
「望ねぇ、なんだよ抱擁って……」
「私もじっくり聞きたいわねぇ……。初耳だわ王子?どういうこと?」
「あー、えっと~」
助けを求めてみっちゃんを見るが、「あ~、俺帰るから」と言い残して帰ってしまった。
裏切り者ー!響と同盟組んで湊ねぇとの結婚を阻止してやる!
結局、洗いざらい吐かされました。女子に攻撃されているところを大路君に助けられ、再び女子に追いかけられて逃げ込んだ先でみっちゃんに抱き潰され、また大路君に助けられた。その際、なぜか後ろから抱き締められる格好になってしまったと。
「望ねぇ……。何でそんなに無防備なんだよ、いい加減にしろよ!」
「いたっ、痛いよ響!」
「良いわよ響、もっとやりなさい。しかしその女ども、今度あったら潰す……!」
響に制裁!とばかりに両方の眉間を拳でぐりぐりされた。凄く痛い。お姉ちゃんなのに、私、お姉ちゃんなのに~。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m