天秤座
「…でも、一体何が違うんですか?ペットとして可愛がられる命と、食物として殺される命。片方は『可哀想』で、片方は『仕方ない』って、一体誰がそれを選んでいるんですか?」
席の端で、並べられた肉料理を見つめながら、若いボランティアの青年がボソッと呟いた。恐らく昨日今日このプロジェクトに参加したばかりの、新人だろう。その声は蚊の泣くような、誰にも届かない小さな小さな声だった。だが案の定、向こう側のテーブルからリーダーが立ち上がって大きな声を上げた。
「君、だからといって殺されずに済む命まで見殺しにするのかい?『依怙贔屓』…君の言う通りかもしれないな。だけど、目の前で助けられる命さえ諦めるなんて僕にはできない。それこそ生命を冒涜してるじゃないか!」
「そうですね…すいません」
青年は驚いたような顔をしていた。自分の声が、まさか周りの大人達にまで届くとは思ってもいなかったのだろう。リーダーはジョッキを取り上げ、満足げに集まった同志を見回した。
「いいさ!さあ、今日は決起集会だ!大いに食べて、飲んでくれ給え!」
「殺されていくペットを救うために!」
「殺されていくペットを救うために!」
居酒屋に集まった20人前後の集団が、一斉に声を張り上げる。その声は店の端にまで響き渡り、大勢の客の注目を集めた。先ほどの青年は若干恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながら皆と同じようにジョッキを掲げた。皆の視線が集まる中、リーダーはさらに声を張り上げ、周りがそれに続いた。
「命を無駄にするな!」
「命を無駄にするな!」
「よおし、乾杯!!」
掛け声と共に、歓声とジョッキのぶつかり合う音が店内で爆発した。
「飼育できなくなったからといって、殺されていくペットの牛や豚を救うために!!」
周りが大騒ぎする中、リーダーの笑顔が弾けた。
「今日は俺のおごりだ!大将!犬の姿煮と猫の丸焼き、3番テーブルに追加で!!」