有名な復活のーではなく復活の宴
むにむに、むにむにむにむに、むにむにむにむにむに。
「きゅぅ〜」
ずっーとムニムニされてるスライムことフジサンがあまりにもムニムニされるので抗議の声を上げている。そんなこともつゆ知れず、俺はムニムニし続けるのだった。こうでもしないと落ち着かないのだ。やばい、これはもうやめられないかもしれない。
とか馬鹿なことを考えていたらドアをノックする音が聞こえた。
「ちょっと、入るわよ?」
声と口調からしてエリザだ。エリザはそれだけ言ってドアをお構いなしに開ける。
「そろそろ宴が…って、なにしてんのよあんた」
エリザが入ってきたにも関わらずムニムニを続ける俺の姿を見て少し引いている。
「いや、なんかこうしてると落ちくなーって」
「いやいや、そのスライムちょっと嫌がってるように見えるんだけど」
仕方ない、この子は俺のパートナ。パートナーの悩みを解消するのもこの子のお務めだ。
「それよりも、宴が始まるわよ。あんたも来なさいよ、ガイに呼ばれてるんでしょ?」
「いやだァァ!いきたくなぃぃぃ!」
「なんで急にこじらせるのよ!?」
俺のあまりの幼児退行という現実逃避にさすがのエリザも驚くのだった。
「行きたくないもない、いくわよ!」
「うわぁぁ〜」
半ば泣きになりながら服を掴まれエリザに連れていかれる。フジサンは手元にすっぽり収まったままだがとりあえずムニムニから解放されて一息ついているのだった。
「これが、魔王の宴」
思ってたよりもだいぶ宴らしかった。所々には篝火というのだろうか、周りには四方正方形に囲まれた木の真ん中に大きい火が灯っていた。その周りには幾万の魔物達が集っていた。
そう、思ってたのよりかはね、なんだか人間らしい宴だなって思うよ。そう思うけどね、みんなモンスターなのね。ドラゴンライダーみたいなやつ、というかドラゴンソルジャー?ここに来る前に出会ったレクイエムドラゴンよりかは何億倍も怖くはないけどそんなドラゴンの顔をした俺たち人間と同じように手足があるモンスター。大体は二足歩行の魔物で溢れかえっている。中にはもちろん四足歩行の獣のようモンスターもいればもう形がわかんないようなやつもいる。けど、ほとんど知能が高そうなモンスターばかりだ。
「うわぁ」
「うわぁってなによ。みんなガイを慕っているもの達よ」
俺の正直な、というかもう正直なことしか言えなくなってきた俺の感想にエリザは半眼で突っ込む。
みんなガイを慕っているモンスター達だ。ここで何かやらかそうものならこいつら全員を相手にしないといけないのか。むり!絶対に無理!魔法だってまだろくに使えないんだから!
「みなのもの、よく集まってくれたな」
そんなモンスターたちを城から眺めていると唐突に真ん中においてある一際大きい篝火にガイの姿があった。その声にみんながその方向へと視線を移す。中には涙するものや頭を垂れる者もいた。
「今宵は我の復活の宴だ、大いに楽しめ。そして、勇者への報復を胸に刻め」
うわぁ、確実に殺る気だよなガイ。俺の分身体とか言うけど全然中身が違うし!まぁ、そりゃあ五百年以上も封印されてたら気が立つのはしょうがないと思うけど。問題は俺もこのままだとガイの味方をすることになりそうなんだってことだよな。
城から見下ろしてるけど、それでも分かる。今のガイの言葉にここにいる全員がガイに忠誠を誓ってることに。すごいな、ガイってこんなにも慕われてるんだな。モンスターにだけど。でも多分きっと、それは人間と変わりないことなんだろうな。
そんなこと思っているとエリザがドヤ顔で俺に自慢話をしてくる。
「どう?驚いたでしょう。魔王と言えどこれだけの魔族を従えているのはガイぐらいなんだから」
まぁ、そりゃあそうだろうな。ガイのスキル、アビリティは仲間がいればいるほど自身が強化される。その仲間がやられれば多少はパラメーターが減るだろうがその分、一時的にとはいえその倍の力を発揮できる。こんな魔王をどうやって封印したんだか、五百年以上も前の勇者達は。というか、俺も魔王なんだけどね。
「それにみんなガイのことを心の底から慕っているのよ」
「それは見ていてわかるよ、なんでこんなにもみんなが慕っているのか疑問に思ってたところ」
「いいわ、特別に教えてあげる!」
エリザはまたもそのちっちゃなお胸を張ってふふんと息を鳴らしガイの、みんなの忠誠心の強さの意味を教えてくれる。大抵魔王って言う存在はその配下にいるモンスターにですら恐れられる人物、という俺の価値観がある。それでいて、すごく従順に従ってるやつには何かしらの裏があり、落とし騙されるって言うのがありがちなパターンだ。でも、目の前のモンスター達からはそんなことをするようなオーラなんてこれほっちも感じられないのだ。
「ここにいるみんなはガイに助けられた仲間達なのよ!」
「助けられた?」
「そうよ!」
どういう事だ?力で屈服させて仲間にするならまだしも、助けるって、助ける必要がありそうなモンスターなんて見た感じどこにもいないけどな。みんな強そうだし。
「最初はみんな駆け出しの冒険者?っていうの、そう呼ばれてる人族に倒されそうになってた子達ばかりよ」
「え?それって…」
「そう、ほんとはみんなこんな魔界に来れるほどの力なんてなかった子達よ」
「え?え?ここにこれるほどの力って、ここに来るのに力とかいるの?」
もうなんかいろいろと最初から話についていけなくなっていきつい質問してしまう。
「あー、あんたは魔王だから元々ここの瘴気に当てられても平気なのよ。この魔界の瘴気は弱い魔族、特に下界で育った魔族の子達には体に毒なのよ」
えぇー、普通にそんなところにテレポートさせられたけど俺。よかったー、俺が魔王で。下手したらテレポートした瞬間死んでた可能性あるよこれ。
「けどね、そんな魔族の子達をガイは見放さなかった」
「じゃあ、ガイは下界に行ったのか?」
「えぇ、その時にちょっとあってね。そのせいかガイは下界が好きなのよ」
「へぇー」
「それで、そんなある日に冒険者にやられてる心が芽生え始めてる魔族の子を見てね」
「心が芽生える?」
「この説明もしないといけないわね、いい?魔族にも大きく二つの種に分かれてるのよ。一つは私たちのように知性を持ち自種族を一つの存在として確立するもの。もう一つが知性もなく、群れることもなく本能の赴くままに生きるもの。その中でも下界の魔族には魔界とは違い稀に知性が身につく魔族が出てくることもあるのよ。そういう仲間達のことを心が芽生え始めてるっていうの」
「じゃあ、その下界の、それも知性がつき始めていた魔族をガイは?」
「そう、冒険者を殺すことなくその魔族を助けた。それが今あんたの腕にいるスライムよ」
「え!?」
ガイが冒険者を殺さなかったところにも驚いたがフジサンがその最初のモンスターだと思わず素で驚く。というか、フジサン何年生きてんの?
「きゅぅー!」
フジサンはその時が懐かしいのか元気な声を上げる。
エリザはそんなフジサンに微笑んで話を続ける。
「それからというもの、心が芽生えかけてきてる魔族の子達を助けてはこの国に連れてきていたの」
「え、でもそれって…」
「そう、あんたが言いたいことはわかってるわ。ここは魔界、そんなところに下界の、しかも冒険者にやられるような弱い魔族の子達では瘴気にあてられて生きることなんてできないわ」
「じゃあどうやって?」
そんな俺のごく当然な疑問にエリザは俺の隣から数歩後ろに下がって城を背にして立つ。
「このお城がみんなの家ってことよ」
「この、お城?」
確かにお城だけど、これはガイが作らせたものとかじゃないのか?
「このお城には特別な魔法がはられてるのです、カイ様」
「あ!ちょっと!」
そんなエリザの後ろから声がして驚く。またもドヤ顔で説明しようとしてたエリザを遮り、横からフレイヤが顔を出す。
「ふふ、このお城はガイ様がそんな魔族の子達のために作ったものなのです」
「ちょっとぉー!」
エリザを無視してフレイヤが説明する。エリザは自分の出番を奪われちょっとご立腹。その奪った本人であるフレイヤをポカポカと叩きはじめる。
「このお城には特殊な魔法が形成されていて、魔界の瘴気をこの中なら弱めることが出来るのです。ですので、このお城にいる限りはどんなに弱っていようとこの魔界で死ぬことはありません。それよりも、ここで暮らしていれば徐々に魔界の瘴気に馴染んできてそれなりの成長を遂げることができます」
ふぇー、このお城はガイがこの魔界に馴染めない下界の魔族のために作ったお城なのか。ガイって無茶苦茶イイヤツじゃん!これは俺の考えを改める必要がありそうだな。さっきは勇者に報復だーって殺すだのなんだの言ってたけど、それはあくまで敵だからだ。味方である魔族にはガイはとても優しいのだろう。というか、フレイヤとエリザの話を聞く限りそうとしか思えない。だってね、わざわざフジサン達のためにこんなお城作っちゃうぐらいだし。もうイイヤツなのか悪いヤツなのかわかんない。
「じゃあここにいる奴らはみんな…」
「はい、ほとんどが下界の魔族でした」
なるほどね、ということはこれがみんなの成長した姿というわけか。おっかねー。
「すごいな、ガイは」
ある意味で俺とは正反対な存在だよ、ガイは。
「もちろんよ!なんたってガイは最強なんだから!」
「そうだね」
俺はガイのスキル、アビリティ、パラメーターを再確認してエリザの言葉に苦笑して返すのだった。
この人たちを相手にするのはやめよう、話を聞く限り悪いヤツには見えないし、仮に相手にしたら負けるのはこっちだ。
「どうだ?宴は。楽しんでいるか?」
その声に驚き声のした方へと向く。そこには、ベランダ?の外、しかも俺達のところまで来て空中で留まっているガイの姿があった。そんなガイにエリザとフレイヤは後ろで嬉しそうに手を振っている。
俺は俺であんまりガイの機嫌を損ねるといけないのでそれなりの事をいっておく。
「あ、あぁ、たのしいよ」
「ふむ…」
あれー?なんだか怪しまれてるんですけど気のせいかな?いやいや、俺も俺で楽しんでるよ!?一応、こう、可愛い子、というかエリザ達と話してて。
それだけ聞くとガールズバーかよ!って思うけど。だって仕方ないじゃん!地球じゃ絶対お目にかかれない美少女なんだから!
「まぁよい、カイ。主を皆に紹介したい。ついてこい」
えぇー、それ一番俺が避けたかったこと。でも、ガイに言われたからには行かないわけにもいかんだろう。俺は渋々、といっても顔には出さず笑顔でついていくのだった。
「みなのもの、紹介したい奴がいる」
たったそれだけでみんなの視線がガイに集中する。
ひぇぇ、これじゃあついさっきまで周りをモンスターに囲まれた状況と変わりないじゃん!
「この者は我の封印を解いてくれた、魔王カイだ。しばらくここに留まることになってくれた。無礼のなきようにな」
俺は紹介してくれてるガイの隣で引きつった笑顔でその場で固まっているのだった。そんな俺の心境などしれず、ことは進んでいく。ガイの封印を解いてくれたと聞いて感謝するものが多くいた。中には俺の元まで来て感謝の言葉を述べる者もいた。
これで終わりだろうか?と、半分意識を飛ばす。だってね、握手を求めてくる一人一人?のパラメーター、アビリティが頭の中に、その情報が流れ込んできてね…。強すぎない?みんなガイみたいに万までいくパラメーターの持ち主はそんなにいなかったがそれでも殆どが千超。スキルやアビリティを加えると総合的には万までいくんじゃないだろうか?
もう半ば意識を飛ばしながら握手をして、いつ終わるのだろうかと待っていると予想だにしないハプニングが起きた。
「グルァァァァア!!」
突如として、何物かの咆哮がこの城全体に響き渡る。
「何者だ?」
その咆哮は普通の人間ならあっという間に竦んでしまうような、それぐらいの膂力がある咆哮だった。その正体を知ってるのか、この広場にいる殆どのものが立ち竦んでいる。あるいは最大限の警戒をしている。皆が咆哮のした方へと向く。その方向には一頭のドラゴンがいた。
「グルルル」
ダイヤモンドよりも硬そうな漆黒の龍燐に包まれたここにいるどのモンスターよりも一際大きい体、三メートル以上はあるであろう鋭い爪に全てを噛み砕けるであろう牙、そんな圧倒的なフォルムをした俺が唯一わかるモンスター。
「何故ここにドラゴンがいる、しかもあの色は…」
ガイですら厳重態勢。それほどにドラゴンは強いのか。というか、あのドラゴンって見覚えがあるんだけど…。まさかじゃないよな?
『相手モンスターの情報を提示します
種族 ドラゴン 固有種 レクイエムドラ…』
わーわーわー!もう見たくない!それ以上見たくないよ俺は!
嘘だろ!?ってことはあそこから追いかけてきたのか?そんな馬鹿な、だってあの後エリザの小型テレポートでここまで来たんだぞ?鼻がいいにしても嗅ぐあとがなければここまでたどり着くのなんて無理に等しい。
「ガイにドラゴンの仲間っているの?」
みんなの反応からして絶望的にないであろう事をガイに聞く。当然、ガイはこう答えた。
「ふん、ドラゴンを仲間に出来るヤツなどこの世におらん。もしドラゴンが来たというのなら、それが持つ意味はただ一つしかない」
「それって?」
「殲滅だ、それにあの闇色の鱗は竜種の中でも一際強力で暴力的なドラゴンだ。そんなドラゴンがそれ以下の存在に従うことなどまず無いことだ」
だそうです。うわぁぁぁ!だとしたらこれ俺のせいじゃない!?そうだよね!?そうだとしたら…。え?詰んだ?てか死んだ?あのドラゴンがここに来る元凶がもし俺ならドラゴン戦が終わったあと俺が殺されるんじゃ?ていうか、エリザは俺を迎えに来た時に見てるし…。どうしよう、ワンチャン気づいてない、わけがないよね!?あんなデカイのに気づかないわけがないもんね!?というか、滅茶苦茶見てたしね!しかも竜種の中でも一番強くて気が荒いって、もう救いようないよそれ。これでガイの仲間が死んだら俺は責任取れないよ。むしろガイに報復されるんじゃないだろうか?
そんな二つの脅威がたった今、この瞬間に出来てしまい既に頭がフリーズする。キャパシティオーバーだ、こんなの。どう処理しろって言うのさ!?
「グルゥ」
「む…」
ガイとレクイエムドラゴンが睨み合う、周りのをモンスターたちは獲物を構えて待機している。指示を待っているのだろう。しかし、なんだろう。暴力的なドラゴンと聞いていたのにさっきからしているのは睨み合いばかりだ。というか、気のせいだろうか?目線がどんどん俺の方に向いてる気が…。
「グルゥァ」
気のせいじゃないような…。そのまま自然とレクイエムドラゴンは俺と目が合う。俺と目が合った瞬間、何かを感じたのかもう一度咆哮する。
「グルァァァァア!!」
それは見つけたとでも言わんばかりの勢いで。俺達の方に飛んできた!?
「下がれ!」
ガイがそう命令すると同時に俺の前に立つ。周りのガイの仲間達はその命令で後ろに下がる。俺?今ので足すくんじまったよ!
「ふん、ドラゴンとやりあうのは実に何百年ぶりか…」
ガイは戦う気なのかどこからか背丈よりも長い太刀のような武器を取り出していた。その刀身は虹色に輝いておりオーラ的な何かを纏っていた。それは刀身の色とあわさりオーロラみたいに綺麗だった。その剣をガイは肩に担ぎ、迫り来るレクイエムドラゴンの方へジャンプする。迫り来る巨体にガイはその太刀を一振りする。あのでかさだ、はずれるはずがない。しかし、その思い込みは甘かった。レクイエムドラゴンは体を捻り、旋回してガイの一太刀を避けた。
「なぬ!?」
ガイも今のが躱されるとは思わずドラゴンを逃がしてしまう。レクイエムドラゴンはその勢いのままどんどんこちらに飛んでくる。というか突進してきてる。
「ちょちょちょ!」
急な出来事に体が追いつかず回避行動が取れない俺に、その目の前にレクイエムドラゴンは急ブレーキをかけるみたいに止まった。しかし、その凶悪的なフォルムである顔が、き、牙が顔の前にあるのですが?食べられたりするんですかね?おれ。
と思いきや、その顔を少し後ろに下げてそのつぶらな瞳でじーっと俺を見つめるのだった。どうしろと。というか、間近でみるとやっぱり迫力が違うな。もうむり、たおれそう。
「グルゥ」
「ひぃぃぃ」
炎ちらつかせるのやめて!怖いから!あとちょっと熱いから!結構熱気が伝わるのだ、そこそこ距離あるのに。それほど、このドラゴンが吐く炎は熱いということだ。なんつー熱量だ。
てか何でさっきから攻撃してこないんだこいつ?後ろではガイが戦闘態勢でこちらの様子を伺っている。俺が後ろにいるから迂闊に攻撃ができないのだろうか?周りにはエリザとフレイヤや、その他大勢がドラゴンと俺を囲んでいる。
助けに来てくれる様子もない。
「やばいよね、これ」
「きゅぅぅ」
フジサンも実は俺の手元にずっといた。逃げれるチャンスはいくらでもあったと思うけどそれでも逃げずにフジサンは俺の手元にいた。頼もしい、スライムがこんなにも頼もしかったなんて。
「クルゥ」
「へ?」
そんな間抜けな声にみんなが疑問顔になる。急に聞こえたちょっと可愛らしさを含む声の正体にみんなが誰だ誰だと騒ぎ出す。そうやって、みんなが誰が出した声なのか?その正体の方へ徐々に視線が集まる。
「クルゥ〜」
目の前のドラゴンが出してる声だった。
「なんだおまえ、かわいいなぁ!」
鳴き声だけで今までの目の前の存在の膂力が全てガタ落ち。もはや可愛い生き物にしか見えなかった。俺は猫にやるような撫で方をドラゴンにする。
「なんだおまえ、ここがいいのか?ここがいいんだろ?」
「クルルゥゥ〜」
ひっきりなしにドラゴンを撫でくりまわし、一番反応のよかった部分を集中的に撫でる。猫と変わりがないような俺とドラゴンのスキンシップにその場にいた全員が固まる。カイはカイでそんな周りの反応を知らず目の前の脅威とさえ感じていたドラゴンを愛玩動物みたいな扱いをしているのだ。というか、ドラゴンが出す鳴き声じゃないよこれ。
「いやぁ、にしても硬いなおまえ」
唐突に現実に戻ってきたカイが改めて冷静に目の前のドラゴンを見る。さっきから撫でくりまわしていたがものすごく硬い。まぁ、鱗だから硬いのは当たり前なんだけど。でもやっぱり喉の部分は柔らかかった。いい経験をした、うむ。
「どうやら主に懐いているようだな、そのドラゴンは」
周りのみんながそんなガイの言葉にうんうんと頷くのだった。そう言われましてもね、すごく凶暴だって聞いたのに実はこんなに人懐っこいやつだなんて思ってなかったし。
「本来ならありえんことだが、まさかこんなことが目の前で起こりうるとは…」
こんな事、とはこの現状のことを言ってるのだろう。だってさっきドラゴンが人に懐くことはないって断言してたし。そのドラゴン今こうして目の前で俺のナデナデ攻撃に気持ちよさそうに喉を鳴らしてるのだから。ほんと猫みたいだな。
「私、ドラゴンをこんな近くで見たことは今までないです」
フレイヤが興味本位でレクイエムドラゴンに近づく。その姿に反応したレクイエムドラゴンが唐突に雄叫びを上げた。
「グルァァァァア!!」
「きゃっ!?」
フレイヤは前衛系、戦士系などの機敏で力持ちのタイプではなく後方支援が主な役割を持つ人だ。そんなフレイヤが目の前でドラゴンに雄叫びを挙げられれば怯むのは至極当然のことなのだ。尻餅をついたフレイヤに容赦なくレクイエムドラゴンが襲いかかろうとするがそこに俺は一喝する。
「こら!」
「クルゥゥ…」
俺のお叱りにレクイエムドラゴンは縮こまる。どうやら怒られてるとわかっているのかすぐに攻撃をやめて悲しげな目でこちらを見てくる。なんだこいつ、滅茶苦茶かわいいな。
「おぉよしよし」
「クルルル」
そんなドラゴンを甘やかすように撫でる。その間にガイがフレイヤを立たせる。
「大丈夫か?」
「はい。すみません、びっくりしてしまって」
「かまわん」
ガイの手を取りフレイヤは立ち上がる。そんな二人の元にエリザも合流する。俺とドラゴンの行動に周りもいつの間にか警戒を解いていた。
「ん?なんだおまえ…」
レクイエムドラゴンはじーっとこちらを見ている。これじゃあ何だか…。
『レクイエムドラゴンは仲間になりたそうにこちらを見ている』
(お前そんなことも言うのか!)
まさかの情報の声に一人で突っ込むのだった。
ていうかそれはガチの情報?ネタじゃないよね?
『ネタじゃないです』
(会話できるんかい!)
『会話可能です』
それを先に知りたかったなぁ。最初に飛ばされた時一人で結構悲しかったんだから。
それよりも問題は今目の前で仲間になりたそうにこちらを見ているドラゴンだ。もう一度おさらいするとこのドラゴン、正直いってラスボス級のパラメーターだ。そんで、ドラゴンの中でも凶暴で強いやつがなぜ俺のところに?それも仲間になりたそうにこっち見てる。
「クルゥ〜」
「あーもうどうでもいいや!仲間になるか?」
もう考えるのがめんどくさくなったのですっ飛ばした。というか、こんな声出すドラゴンが悪い!
「グルルルゥ!」
余程その言葉が嬉しかったのか控えめにだがレクイエムドラゴンは雄叫びを上げる。心なしかはしゃいでるように見える。
「なら、そーだな。名前は…」
せっかく仲間にしたのでかっこいい名前をつけてあげたい。どうせなら。だってドラゴンだぞ!?フジサンは?フジサンはいいんだよ、馴染んでるから!
うーむ、悩む。やっぱりレクイエムからもじったほうがいいかな…。それとも別のなにか。
数十秒悩んで決めた。
「じゃあ、今日からお前はラストだ!」
「グルァァァァアアア!!」
名前をつけられたことがすごく嬉しかったのだろう。先ほどとは比べ物にならないほどの雄叫びを上げる。その姿にビビるやつは沢山いたが、なんでだろう、俺はそれを間近で受けてるはずなのに怖くもなんともない。やっぱりさっきの鳴き声とこいつの態度で怖くないと思ったのかな?あ、ちなみにラストは英語じゃ最後って意味だけど確かラテン語じゃなんかじゃ終焉って意味だった気がするからそうつけたのだ!安直だったかな。
『 パーティーを更新しました。情報を提示します。
フレパートナー
名前 ラスト 種族ドラゴン 固有種レクイエムドラゴン
STR 30000
DEF 30000
AGI 15000
INT 30000
CHR 30000
スキル
レクイエムブレス
効果・触れたもの全てを即死させるブレスを放ちます。
終焉の眼差し
効果・長時間、敵をロックした時、拘束・即死効果を付与させます。
アビリティ
龍の魂
効果・生命活動の九割を削られると発動します。全パラメーター
1.5倍になります。
固有アビリティ
終焉の力
効果・独自の終焉魔法を使用できます
パートナーアビリティ
龍の絆
効果・何者にも変え難い信頼の証。特定の条件を満たすと覚醒状態になります。
以上が現パーティー情報と味方パラメーターになります』
おぉ、やっぱりえぐいなこいつ。今後は能力をあまり使わせないでおこう、危ないし。それよりも、なんだろ?新しいアビリティが付いてる。パートナーアビリティ?フジサンの時はそんなのつかなかったのにな。特定の条件ってなんだろ?これは教えてくれるのだろうか?
『ラストのもつ、主への思いが一定以上を越した場合に発動します』
答えてくれるんだぁ、ありがたいなぁ。
『なぜ棒読みなのですか?』
質問もできるのか、万能AIかよ!
『AI?』
なんでもないよ。というか、普通に会話できるじゃん。それよりも、だな。
「クルゥ〜」
「よし、大人しくしてるんだぞ?」
「グルゥ」
俺の指示がわかっているのかその場で大人しく待機するラスト。従順で可愛いなこいつ。こんないい子のどこが凶暴なんだろうか?
「ドラゴンを目の前で手なずけるとはな」
後ろにはいつの間にかガイたちが立っていてこちらに近づいてきていた。その際に少しだけラストの方を見る。さっき、フレイヤが近づいた時は容赦なく襲いかかろうとしたからな。けど、素直に俺の言うことを聞いてるのか襲いかかる様子はない。これなら一安心だ。
「えとー」
ドラゴンもとい、ラストを仲間にしたのはいい。問題このあとの収拾だ。ここにドラゴンを呼んだのが俺だとバレたら命はないだろう。
「ねぇ、そのドラゴン、あんたを迎えにいく時に集まってた同族の中に紛れ込んでた奴よね?」
すかさずエリザが一番言われたくなかった部分を突っ込んでくる。
「ほんとか?」
「えぇ、確かにいたわ」
やばいやばいやばい。別にラストを仲間にしたのは今この瞬間の出来事だが、ガイたちの捉え方しだいでは俺がここにドラゴンを呼んでガイを襲わせたようにしか見えないこともなくはない。
「ふむ」
そんな俺をガイは睨みつけるように視線を固定する。俺は額から冷や汗を流しつつガイの言葉を待つ。返答や行動次第じゃ今ここの全員を敵にしてしまう。それだけは絶対に回避しなきゃならない事だ。
「カイ、主はそのドラゴンとどういう関係だ?」
「ど、どういう関係って。えーと、端的に言うと今仲間にした関係?」
「ほぉ」
めっちゃ怪しまれてる!ここは嘘を言っても仕方ないので正直に答えたのだがだめだったろうか?
「ならば、次にフレイヤがそやつに近づいても害はないな?」
「た、たぶん。俺も仲間にしたばっかりだからそこまで言うこと聞いてくれるかどうかは分からないけど。でも、そう言い聞かせておく」
「ならばそれを持って無実を証明してみろ」
きた。ガイの提示したこれは周りに無実を証明できる唯一の手段だろう。ガイが言ったということもあるが、これで俺達は無害だと証明出来れば一先ずは大丈夫なはず。俺はラストと向き合い真剣な目つきで語りかける。
「ラスト、何があっても襲うなよ?というか、動くなよ?」
「グルゥ」
俺の言葉がやっぱりわかってるのだろう、その大きい顔を縦に振る。俺はラストを信じて「いいよ」とガイに合図を出す。
その合図を見てガイはフレイヤを前に出す。
フレイヤは恐る恐るだがラストに近づく。そうしてようやくラストの前にまで辿り着く。そのままラストへと手を伸ばす。
「グルゥ」
ラストがひと鳴きしてフレイヤが少したじろぐも、フレイヤは伸ばす手を止めずラストに触れる。
「ふぁ〜」
なでなでとラストを撫でる手つきに感嘆の声を上げるフレイヤ。
そんなフレイヤとラストの様子を見て俺はほっとする。これで無害は証明できたはずだ。ガイの様子を確認するため視線をそっちに向けるとガイは少しだけだが笑っていた。俺の視線に気づくとすぐに態度をただし、俺の元に近寄ってくる。相変わらずフレイヤはドラゴンを撫で回している。それにエリザも「私も触りたい!」と言って交じる。ラストはなんだかちょっぴり不機嫌な気もするが我慢してもらおう。俺の命のために。
「これで、主はこの国でも平気な存在として皆に知れ渡る」
「それはよかったよ」
正直、その言葉に一番ほっとする。なにせ、これが失敗して永遠に追われる身になれば今この場で瞬殺されてもおかしくないし。
フレイヤは相変わらすラストをのあちこちを眺めている。そんなフレイヤにラストはい心地悪そうに身じろぎするのだった。
「ふむ、では宴の続きをするか」
その言葉にガイの仲間達が「おぉー!」っと叫ぶ、こんなハプニングがありながらも平然と宴を続けられるのはさすが魔族といったところか。