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さくらの季節   作者: 木内杏子
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 ここまで、4、5日間に渡って、わたしは山野辺くんに明希先輩の中学生時代を話してきた。ほとんどわたしの恋話と化していたが。


 山野辺くんも真剣に話を聞いてくれるので、わたしはついつい沙耶先輩にむかついたことも話してしまう。彼は明希先輩のようにいつも笑顔なわけではなく、どちらかというと無愛想だけど、彼といると落ち着いてしまう。なぜだろう。


 こんなことを悶々と考えていたら、おかあさんがわたしを呼んだ。


「ちょっとー! さくら、じゃがいも買ってきてくれない? 切らしちゃったわ〜今日はカレーなのよ」


 めんどくさいな〜と思いながら、髪をとかして、カバンの中に財布を入れた。


「何個買ってきたらいいの?」


「んーとね、五個ぐらいかな」


「はいはい、わかった。いってきます」


 わたしは歩いて坂を下って行った。スーパーまでは往復で30分。


じゃがいも五個のためにこの時間。まあいい運動だしちょうどいいかな。


 わたしはスーパーに着くと、入り口の横にある雑誌コーナーに目も向けず、さっさとじゃがいもだけ買って、また家まで歩き出した。



 坂を上りかけた時、後ろから声をかけられた。


「桜ちゃん?」


 聞き覚えのある声。低くて優しい声。


「明希先輩!」


 そこには自転車に乗った明希先輩がいた。


 告白して以来だ。急に心拍数が上がる。


「じゃがいも買ったの?」


「そうです! 今日はカレーなんで!」


 いつもより声が高くなる。


「そっか。俺の弟、吹部入ったでしょ? お世話になりますねぇ〜」


 ふざけた調子で明希先輩が言うが、わたしは違和感を覚えた。


 関西弁じゃない。標準語だ。


 わたしの知ってる先輩じゃない。咄嗟にそう思った。


「後ろ乗って。送っていくよ、こっからじゃ15分くらいかかるんじゃない?」


 先輩が、何も話さないわたしに向かってこう言う。なんだろう、先輩は、どこがどうとか分かんないけど変わった。


「乗って」


 先輩が急かした時、


「あーきぃー!!」


 後ろから耳慣れない声が聞こえた。振り向くと、金髪に染めた女子高生だった。


「かれん!? お前、なんでここにいんの?」


「明希の後ろこっそりついてきちゃったぁ〜! あれ、妹?」


 かれん、と呼ばれたその女子高生はわたしに気づいた。


「ちげーよ、中学の時の後輩。ま、妹みたいなもんだけど。あ、桜ちゃん。こいつ俺の彼女」


「こいつってなんなの?! さくらちゃん、っていうんだ。初めまして、中山かれんでーす!」


 そっか。もう彼女がいるんだ。そうだよね。先輩はモテるんだもん。


「初めまして。神谷桜です。じゃあ先輩、お邪魔になってもいけないのでわたしは1人で帰りますね!それでは」


 わたしはそれでは、という前にもう歩き出していた。彼女がいたことがショックだったわけじゃない。それより先輩はわたしのこと、少しも恋愛対象として見ていなかったことの方が辛かった。妹という言葉が胸に刺さって取れない。


 先輩はこんな帰り方をしたから驚いただろうか。いや、別にわたしがこうやって帰ったからといってなにも思わないだろうな。だって恋愛対象じゃない。女子としてみてない。妹だから。ただの。


 中1だった時が懐かしい。こんな気持ち知らなかった、あの頃。いつか振り向いてくれるだろうとばかみたいに期待していた頃にもう一度もどりたい。



 もうこんな恋、忘れてしまいたい。





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