初めての感情
その日の夕方。私はのろのろと下校していた。明希先輩と沙耶先輩のキスが脳内でエンドレスで流れた。やめて。止まれ。私は泣きそうだった。こんなに苦しいのは初めてだった。
下を向いて歩いていると、後ろから声をかけられた。
「神谷さん。」
この声は……沙耶先輩だ。私は怖くなった。これ以上、事実を知るのは嫌だったし、見たことを訊かれるのも嫌だった。でも、彼女は先輩だ。無視するわけにはいかない。
「はい。」
私は恐る恐る振り向いた。
沙耶先輩が隣まで小走りで近づいてくる。
「部活、楽しい?」
この女 は何を白々しく聞いてきたのだろう。そんなことを言うためにわざわざ走ってきたのだろうか。いや、そうじゃない。
私はこう思っている自分に驚いた。
あなたのせいで楽しくなくなったなんて言えない。私は嫉妬を押し殺しながら、にっこりと笑ったつもりで、
「はい」
と答えた。
「ふーん。だといいけど」
沙耶先輩はべつに興味ないけどみたいに言う。じゃあ聞かなくていいじゃんなんて、また意地悪な感情が芽生える。
この人、嫌いだ。
今まで、苦手なひとは何人かいたけれど、こんなにはっきりと嫌いだなんて思ったことなんてなかったのに。
沙耶先輩は言った。
「知ってると思うけど、あたし、明希と付き合ってるからね。邪魔しないでよね」
「べつに、私、明希先輩のことなんとも思ってません。なんで邪魔なんかしなきゃなんないのですか」
つい口をついて出たのは、私の精一杯の強がりだった。
沙耶先輩はこの言葉を聞いて満足そうだった。そして、じゃあね、と言ってまた小走りで私から離れていった。
私はこの日、嫉妬と他人に対する嫌悪感を初めて覚えた。
ドロドロ回になってしまいました…
甘酸っぱい感期待してた方ごめんなさい。。
これが現実です…