嵐のあとで
何も変われなかった。
先輩はそういった。でも、違う、そうじゃないと私は思う。そもそも先輩は変わる必要などなかったのだ。先輩はいつも人一倍優しくて、だれにでも穏やかに接していた。
「先輩……。先輩は変わらなくていいんですよ。そのままでいいんです。先輩にはいいところいっぱいあります。わたしはよく知ってます。先輩のいいとこ」
先輩は静かに泣いていた。
「だって、先輩が好きだったんですから」
もう一度、この言葉をいうなんて、あの頃は想像もしなかった。でも、この感情が、体にしみわたって、先輩がますます愛しくなる。
「桜ちゃん……」
「なんですか?」
先輩は、私から頭を離して、そしてまっすぐに見た。
「俺、桜ちゃんのこと、本当に好きだ。ずっとそうだったのに、君のことを傷つけてしまった……。もう、
遅いよね、ごめん」
こんなに赤くなっている先輩は初めてみて、わたしの心は切なくなって、どうしようもなかった。
「桜、お兄ちゃんと僕、どっちが好き? 僕、桜がお兄ちゃんのこと好きなら……」
背後から、奏音くんの声が聞こえた。私は、迷いはなかったはずだった。
私は、奏音くんのことが、すきだったはずだった。でも。
「ごめんなさい、奏音くん。本当に、ごめんなさい」
「いいんだ、僕、分かってたから。お兄ちゃんが本当の気持ちを言えば、桜はきっとお兄ちゃんのほうにいってしまう。いいんだよ」
背がのびた彼の言葉は大人で、ずっしりと重かった。
「でも、しばらくは好きでいさせてね。当分桜のことが忘れられないだろうから」
そういって、奏音くんは下に降りて行った。
しばらく沈黙が流れたあと、私たちは、無言で磁石のように抱きしめあった。




