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さくらの季節   作者: 木内杏子
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あの日 side,祐介

 僕は明希の家から自転車を押しながら、歩いて自宅へと帰ろうとした。その道すがら、僕は桜ちゃんと別れた日を思い出していた。


○○


 抱きしめようとして拒まれたあの日。僕は桜ちゃんに別れを告げた。僕は察してしまったのだ。桜ちゃんは僕を好きになる気なんてなくて、ただ明希への気持ちをごまかすために僕と付き合ってくれていたことに。

 本当は付き合って一か月くらいの時にうすうす気が付いた。彼女が僕の教室のある三階に来たとき、いつも明希を目で探していたんだ。でも、僕は知らないふりをして、隣で笑ってくれる桜ちゃんが愛おしくて、ずるずると三か月も彼女の気持ちを考えなかった。

 そして、あの日、賭けに出た。もしかしたら受け入れてくれるかもしれない。そんな淡い期待はすぐにかきけされて、僕は別れを告げたのだ。



 僕は別れたことを放課後、明希に報告した。仲を取り持ってくれたのは明希だったから。そうしたら、明希は僕の胸ぐらをつかんだ。温厚な明希のあんなに怒った顔は今まで見たことがなくてすくんだ。だけど、明希と同じくらい僕はイライラしていた。


「お前やったら、桜ちゃんを大事にしてくれると思ったのに!」


「桜ちゃんにはちゃんと好きな人がいるんだ。それなのに、僕が付き合っていたらダメだと思ったんだけど。いくら可愛い後輩だったとしても、そこまで明希に言われる筋合いはないと思う」


 僕が言い返すと、明希は手を放してうなだれた。


「知っとる。桜ちゃんは俺のことが好きなんや」

 予想外の言葉に、僕はよけいにいらだった。


「知ってて、僕が桜ちゃんと付き合うように取り持ったの? 最低じゃん」


「桜ちゃんには、俺なんか思ってほしくないんや。俺と付き合ったら不幸になるから。俺はほんまに好きな人と付き合ったらあかんのや。親父みたいになりたない。お前には分からん。とりあえずどっか行って」


○○


 僕は親友だったのに、明希の家庭の事情はよく知らなかった。ただ、親父みたいになりたくないという言葉の意味は分かった。彼がまだ小学生の時、突然「お母さんがお父さんに殴られていた」と独り言のようにつぶやくことがあったから。それを、僕は母に相談したけど、いろいろな家族があって、話したくないことがあることもあるんだ、となだめられて詳しく聞くことをしなかった。やがて、明希がそうやってつぶやくこともなくなっていったのだ。


 一回、明希の話を聞けばよかったと思う。でも、そんなことでは、明希の「好きな人と付き合う」ということの恐怖を取り除くことはできなかったと思う。

 それから、僕は明希に違和感を感じることがあった。彼は、好きでもない相手と平気で付き合うことができる。それはその子を大切に思っていないからであって、その子に対しては「親父のようになったってかまわない」と思っているのかもしれない。僕はそんな彼が怖かった。


 僕が明希に対して思うことはこれだけだ。あんなに馬鹿やって、笑って遊んだのに、僕が明希に持てる感情はこれだけだった。


 僕は桜ちゃんに報われてほしい一心で行動をしているのだ。僕のためでもある。

 かれんさんはいつも二人のために行動していた。優しい人だと思う。

 


 






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