勝手
「やっと、俺を忘れた」
明希はふっと笑った。
「いや、もう桜ちゃんは俺のことなんかとっくに忘れてたかもしれないけど」
自意識過剰だよなー、と明希が笑う。
「こんなに悔しいなんて」
明希は泣いていた。明希が泣いているところは、初めて見た。
「あき」
「バカだ、俺はバカだった」
「あき!」
「お前には分からないだろうな」
「あき……」
僕はあきの背中をさすろうとした手を止めた。その手をどこにやっていいのか分からないまま、僕の手は中途半端な位置で止まった。
明希が僕を見ないで言う。
「お前は、お前はちゃんと伝えた。羨ましいよ、羨ましい」
違うと思った。明希は過去を盾にして、桜ちゃんに何も伝えなかった。そして、自分の心に蓋をした。
ずるい。
そんな僕の心を見透かしたように、明希は言った。
「そうだよ、ずるい。自分のためにお前を利用して、お前と桜ちゃん、両方傷つけて、一生懸命告白してくれた桜ちゃん振って傷つけて、今度は桜ちゃんと付き合って幸せそうにしている奏が羨ましくて。本当に勝手だ」
「うん」
「その上、まだこんなに桜ちゃんのことが好きだなんて……」
弱々しくつぶやく明希に無性に腹が立った。
そんなに好きなら、ぶつければいいのに。
「じゃあ伝えればいいじゃん。僕に言ってもなんにも変わんないよ、明希。明希のそういうとこ、嫌だ。自分で檻をつくって、そこから出られなくなってるんだ。それを、僕が羨ましいとかぐちぐち言うのは違うと思う」
明希はうつむいたままだった。
「帰る、ありがとう、お邪魔しました」
僕はそのまま、明希の元をあとにした。




