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さくらの季節   作者: 木内杏子
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恋話(2) -自転車-

 骨折だと思っていた足は、酷い捻挫だったことが判明した。しかし、大事をとってその日はクラスに行かず、お母さんに車で迎えに来てもらうことになった。


 そのまま次の日も休んだ私は、足を引きずりながら、翌々日から登校した。

初日にグループには入り損ねた私は、ぽつんと1人でお弁当を食べたり、教室移動の時も常に1人で過ごしていた。


 ハブられてるわけじゃない。今ならグループに入れると思ったが、内気な私には何もできずに、部活体験ウィークが始まった。

友達もいないので、私は気ままに見学したい部活を回ることが出来た。


 まず、美術部、それから茶道部、と回ったが、どれもおしとやかそうで気が引けた。

 どうしようかとゆっくり考えながら下校していた時、またあの先輩に会った。


「しんたにさん! また会ったな!」


 颯爽と自転車に乗って先輩が現れた。


「せ、先日はありがとうございました! 骨折じゃなくて捻挫でした!」


 私が深々と頭をさげると、先輩は照れくさそうな声で、「気にせんといて」と言った。


「それで、しんたにさん、吹奏楽部に見学にくるって言っとったやん。いつ来てくれるん、待っとるんやで」


 正直なところ、吹奏楽部のことは頭から飛んでいた。ここ数日、緊張しっぱなしで決意はどこかに薄れていたようだ。


「すみません、明日いきます! それで、しんたに、じゃなくて、かみや、です」


 私がちょっと訂正すると、先輩は驚いた顔になった。


「ごめんやでー! いやな、前におった学校で神谷って書いてしんたにって読むやつがおったんや」


 私はふふっと笑ってしまった。関東なのに関西弁でしゃべる先輩になのか、何に笑えたのかはあまり分からなかったけれど。


「もう日も暮れる。神谷さん歩いて学校行っとんやろ、うしろ乗り」


 私は、戸惑った。でも同時に助かったという感情もあった。足はまだ痛む。このまま歩いて帰ったらもうすっかり夜になりそうだった。私は緊張しながらも、荷台に腰掛けた。


「本当にお世話になっちゃって。ありがとうございます」


「こんなイケメンの自転車に乗れるやなんて幸せもんやで」


 おどけて言う先輩に、私は思わず、顔を凝視してしまっていた。


 私があんまり顔を凝視するものだから、とうとう先輩が言った。


「冗談やて! ほらしっかりつかまっといて、俺、運転荒いからな」


 私はお言葉に甘えて先輩のブレザーを掴んだ。それと同時に自転車は動き出した。


 心臓がドキドキする。


 初めての胸の高鳴りに私は顔を真っ赤にしながら、このまま時が過ぎなければいいのになんて思っていた。



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