忘却魔法のかけ方
私は部活おわりに、学校の図書室にいた。奏音くんに昨日、模試の結果があまりよくなかった話をしたら、明日図書室に来てくださいと言われて、ここで待っているというわけである。
奏音くんは一体、図書室で何をする気なのだろう。私に勉強を教えると言っても、彼はまだ一年生だ。
机に座ってじっと待っていると、奏音くんが入ってきて、こっちに手を振った。その仕草は兄弟そっくりだ。だめだ、また明希先輩のことを思い出している。
「お待たせしました! 今から一緒に勉強しましょう!」
「う、うん」
なるほど。一緒に勉強するのね。たしかに、私は最近全く勉強に集中できてなくて、ちゃんとするのは塾ぐらい。
奏音くんがこそこそと話す。
「本当は休みの日にどこか一緒に行けたらいいなと思ったんですけど、先輩受験生ですし。それで、一緒にいれる方法は、一緒に勉強することかなって」
「お……うん」
気遣ってくれてるんだな。
それから、私たちは黙々と勉強をした。塾の宿題、学校の宿題。気づけば時計の針は6時を指していた。
私たちは勉強を切り上げて、図書室をあとにした。
「今日はありがとう、こんなに集中したの、久しぶりだった」
「今日だけじゃなくて、部活が半日練の時はまたやりますから。それに……」
「ん?」
「いや、何もないです」
何だろ、何を言いかけたのかな。
「じゃあ帰りましょう!」
帰り道は、いつもと違った。
「先輩、何か面白い話してくださいよ」
「えー! そういう話の振り方よくないよ〜」
「じゃーそうだな。先輩の好きな食べ物は何ですか?」
初歩的な質問から、少しずつ私たちの距離が縮められている気がした。
「お味噌汁!」
「味噌汁なんですか?わかめとか好きなんですか?」
「わかめ美味しいよ!」
「いや、わかめはまずいですよ〜。味噌汁の具だったら玉ねぎが好きです」
こんな会話とか。
「昨日、テレビ見た?ドラマとか」
「みましたよ。主人公めっちゃ今かわいそうじゃないですか?あのライバルめっちゃ手ごわいですね!」
「そうよね!でも、あのシュウヘイめっちゃかっこよくない?」
「いやー……チャラすぎますよ、タイチのほうがよっぽど男らしいです。一途ですし……」
「どっち派?サナとハル、わたしはサナに憧れるな〜。好きな人を勝ち取るためには何でもするっていうあの精神」
「僕は、ハルですね。地味だけど、優しいし、騙されやすいし〜めっちゃかわいいじゃないですか」
「オドオドしすぎてやだー!」
「えー!桜先輩と似てると思って見てたんだけどな〜!!」
どき。急に心拍数が上がった気がした。それだけで顔がほてるなんて、どうかしてる。
別れ際、奏音くんはニヤッと笑って言った。
「他の人の魔法にはかからないでくださいね」
魔法……なんだか甘い響きに、わたしはクラクラしてしまった。




