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どんな表情で
「僕は、母のことを嫌いにもなれないし、すきにもなれないんですよね……。すみません、急にこんな話をして」
奏音くんは、ははっと乾いた笑い声を出した。
「ううん。奏音くんのことがちょっと知れた気がする。わたしばっかり話してたから、奏音くんがどう思ってるかとか、うーん、うまく言えないけど、奏音くんの話も聞きたいと思ってた」
さっきまであんなに明るかったのに、もう赤い夕日が半分以上隠れてしまった。そろそろ帰らないと、お母さんが心配するだろうな。
「聞いてくれて、ありがとうございました。家まで送ります。あの……」
奏音くんが立ち上がって、砂を払った。わたしも慌てて立ち上がる。
「よかったら、自転車の後ろもう一回乗りますか?」
奏音くんの表情は暗くてよく見えない。今、どんな気持ちでどんな顔をしているの。
お母さんを好きになれないと言ったときの自嘲気味の彼の顔が目に焼き付いて離れなかった。
「先輩? 乗ってください」
「あ、は、はい!」
わたしは、自転車の後ろで揺られながらなんとも言えない気持ちだった。
すみません、短いです。




