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さくらの季節   作者: 木内杏子
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決意の日

新学期に入ってからも、ときどき部長といる奏音くんを見かけた。今まで気づかなかっただけかもしれないけれど、2人は最近よく一緒にいる。そして、楽しそうだ。



「桜先輩、浦川っていうひととは結局どうなったんですか?」


9月に入ってまた一緒に下校し始めた私たちの会話は、もっぱら私の恋話だった。私はそれを少し残念に思いながら、その話を続けた。


◆◆◆


浦川先輩は新学年が始まってから、私の教室へちょくちょく来るようになって、私たちは芸能ニュース、昨日見たテレビとかを話せるようになっていった。

その時間は普通に楽しかったし、先輩が来ない日は今日はなんで来ないのかなとも考えたりした。でも、一方で、部活で明希先輩と会うたびに緊張してしまう自分がいたり、ますます自分の気持ちがわからなくなってしまった。



そんなある日。


「桜ちゃーん!」


部活が終わって、いつものように下校しようと靴を履き替えていると、浦川先輩が私を呼んでいた。


「はい!」

「一緒に帰らない?」

「あ、はい」


私は夏海たちにことわって、先輩の横で歩いて帰ることにした。先輩は私を歩道の内側にそれとなく誘導して、その気遣いがわたしは嬉しかった。


「桜ちゃん、今度映画行かない? 僕の好きな漫画が映画化されたやつなんだけど、アクションとかじゃなくて、恋愛もの」


「はい……。私なんかと言っていいんですか?」


「うん!もちろん。桜ちゃんと行きたいんだよ」


今までこんなに大事にしてくれる男子がいたかな。先輩のにこにこした顔をぼんやりと見つめながら私はぼやっと考えていた。


そして、私は決意した。


「あ、あの、前の返事をしたいのですが……」


「は、はい!」


先輩はびくっと肩を震わせて立ち止まった。後ろを歩いていた生徒たちがどんどん私たちをぬいて帰っていく。

私は息を吸い込んで、先輩の目を見た。先輩の顔はほんのりと赤く染まって、私を見つめ返してくる。


「……お願いします」


「……え!? 付き合ってもいいの?」


「はい!」


私の選択は間違ってない。正しい。これで明希先輩のことは忘れられるはず。きっとそうだ。これから、浦川先輩に大切にしてもらえて、明希先輩を見ても何も思わなくなって……。片思いを止められる。


私はにっこりと浦川先輩に微笑んだ。


「じゃあ、浦川先輩、じゃなくて祐介って呼んでくれないかな?」


「よ、呼び捨ては恐れ多いというか、なんというか……。祐介さんでいいですか?」


「やった!嬉しいよ、桜ちゃん。ありがとう。これからよろしくね」


先輩はそう言って、私に手を差し出した。私がカバンを持ちにくそうにしていると、先輩は私のカバンを軽々と持ってくれて、それに遠慮なく甘えた。私はその手を握り返して、2人で手をつないで、生徒がまばらになった通学路を歩き出した。



◆◆◆


「えええ!! 付き合ったんですか? 」


奏音くんはとても驚いていて、私はそれがおかしくてクスクス笑った。

「うん、まあそうなんだけどね」


奏音くんの家まではまだ少しある。


「あ、そういえば、お兄ちゃん、体育祭行くって言ってました。」


それを聞いて、私は一瞬、背中が凍りついた。

「そ、そうなんだ」





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