表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくらの季節   作者: 木内杏子
33/61

晴れない心

夏休みももうあと3日。今日は部活で宿題点検の日である。


「宿題やってますか?パートリーダーはパートの宿題状況をみてくださーい」


部長が笑顔でパート名簿を配り、一年生は悲鳴をあげた。


宿題が出来ていたら、普通に三日間部活をすることができる。でも1ページでもやってなかったら……


「はい、遥斗くん明日部活来ないでねー」


芳佳ちゃんが名簿にばつ印を入れた。出来てなかった部員は部活に来てはいけなくなり、終わったのを先生に診てもらってから参加することになる。


「桜はちゃんとやったの?」

芳佳ちゃんがにやにやしながら寄ってくる。

「うん!もちろんさ!」


私は例年通り丸つけまでしたワークを点検してもらって、カバンにしまった。


今年は、私達のパートでは遥斗くんだけがひっかかったようだ。


私は、ふいに奏音くんに目をやった。彼は、夏休みのワークを一週間で終わらせたそうだ。成績がやばいと言っていたけど、嘘なんじゃないかな。そして気づかれないように、少し観察するようにみる。すこし微笑んでいるようにも見える奏音くんの目線の先を辿ってみた。


『お……』


奏音くんが見つめている先は……。


部長!?


うそ!奏音くん、部長が好きなの?まじですか。私はすぐに奏音くんから目線を外した。


ま、まさかね。見てただけだし、本人に聞かないとわかんないし。いや、でも聞ける?聞いて、そうですよ、とか言われたらどうするよ、私!!いや、どうもしないけど!!


「桜?どうしたの、楽器出すよ」

夏海に声をかけられて、やっと私は我に返った。

「う、うん」


なんだか、とんでもない事に気付いちゃったのかな?


とりあえず、夏休み最後のマーチングのグラウンド練習にはいった。


今日は、基礎ではなく演技の練習なので、先生直々に指導が行われた。私たちは最初から楽器を持って、それぞれのポイントに着いた。


「じゃあ最初から一回通すよ」

「「はい」」


元気の良い返事がとんで、先生が最初だけ指揮をする。


尺が伸びた事もあって、今年はマーチングの大会の規定通りの構成となっている。たくさんの決まりがあり、ポイント内でぐるっと一回りするというのも、それの1つ。歩きやすいように、マーチの曲を選び、そのあともう一曲、マーチとは別のゆったりした曲でマーチングする事になっている。


最初の一周は基礎ができていないと列が揃わず、素人から見ても分かってしまうので、特に先生はその一周に力を注いでいる。トロンボーンパートはスライドの関係で先頭に並んでいる。バストロンボーンの夏海が一番端で大回りする。ポイントの角を美しく回る様子はどこかかっこいい。


「そこ、飯田。回り方を変えようと思います」


先生がその場で2パターンの回り方をやって、夏海は1人でそれぞれのパターンで回る。

先生がうーんと首をひねり、どっちがいいかしらと呟いた。



「じゃあ、変更後の回り方で、最初から」


ワンッツ。また最初から演奏と動きが始まった。外周はまあまあできているが、問題はゆったりした曲になってからの動きだった。まだ一年生はコンテを覚えていないのか、おろおろして適当に動き回る。


「神谷、ちゃんと一年生に指導したんですか? 」

「すみません!」


一年生のミスは先輩のミス。そして、マーチングリーダーの私のミスでもある。

「一年生、一回抜けてコンテ確認して。二、三年でやるよ。神谷と部長は一年生について行って分からないところを教えてあげなさい」


「はい!」


その言葉で、私と部長と一年生が足早にグラウンドを去った。


「そんな事言われても、わかんないしな〜」

一年生はコンテとにらめっこしながら口々につぶやいた。でも、私たちには聞いてこない。こういう時ってどうすればいいの?私たちから声をかけるべきなの?うざいって思われないかな。そう考えているうちに、部長こと、柏木聖花ちゃんが、つかつかと1人の一年生に歩み寄った。


「山野辺くん、どこがわからない?他の子たちも、こっちに来て!みんなでやりましょ!」


奏音くんの隣でにこっと笑って一年生を集める柏木さんは、やっぱり部長だなって思いながら、同時に私は嫉妬する。


マーチングリーダーは、私なのに……。


むかむかするけど、とりあえず柏木さんの方に向かう。


「先輩、ここがわからないんです」

「私も、」


それをきっかけに、一年生たちは次々と自分の分からないところを聞いてきた。私は一人一人丁寧に教えながら、柏木さんを見た。柏木さんは、まだ、奏音くんの隣でコンテを眺めていた。


分からないところがあったんなら、同じパートだし頼ってくれても良かったのに。柏木さんも、奏音くんのほかにもいっぱい一年生がいるのに、どうしてずっとそこにいるの。



そうやって思っているうちに、理解した一年生はグラウンドに戻って行った。そして、そこには私と柏木さんだけが残った。


「じゃ、戻ろうか、神谷さん」

「……うん」


そして、私たちも練習に戻って、また先生の熱い指導を受けた。


「一年生、よくなってるわ。リーダー、部長、お疲れ」

先生にそうやって褒められることはほぼないのに、私は気分が晴れないままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ