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さくらの季節   作者: 木内杏子
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デート 後半

告白を受けた後、しばらくどぎまぎしている私を連れて、先輩は水族館に入った。


「ごゆっくりお楽しみください」

受付のお姉さんににっこり微笑まれて私の緊張はようやくとけた。それからは水中を優雅に泳ぐ魚たちを見ることに集中して、なるべく2人の先輩のことは考えないようにすることにした。


大水槽をしばらく眺めた後、ヒトデが触れるコーナーに行った。ヒトデが裏返ってモニョモニョ動く姿は可愛かった。浦川先輩も楽しそうに目を細めている。


「動物とか好きなんですか?」


「うん。動物……というか、カメがすごい好き。家でも飼ってるんだ。ぴーちゃんっていうんだけど」


ぴーちゃん、かあ……。浦川先輩、意外と可愛いな。


「ほら、これがぴーちゃん。この足とかほんと可愛い」


写真を見せて得意げな先輩がとても幼く見えて、なんだか暖かい気持ちになった。


「私も、魚とか爬虫類とか好きです。メダカを小学校で飼ってたんですけど、休み時間話しかけてましたね」


「そうなの?僕たち、気があうかもしれないね」


そうなのかもしれない。気があうのかもしれない。もしかしたら、明希先輩より浦川先輩と付き合えた方が幸せかもしれない。なんだかもやもやする。私って実は惚れやすいの?


「そうですね」


わからなくなってしまった。それからイルカのショーに向かって、私たちは客席の中段あたりに腰掛けた。


「時間たつの早いな」

浦川先輩が夕日に照らされて、とても美しかった。

「そうですね」


イルカがプールから跳ねるたびに、水しぶきがきらきらと輝く。夕方だからか、子供は少なめで、ちらほらカップルがいるだけであたりはそれほどうるさくない。


「今日はありがとう、さくらちゃん。携帯、持ってないんだっけ?」


「持ってないんです」


「じゃあ、またさくらちゃんの教室に行くよ。また、一緒に出かけてくれる?」


さらっとかっこよく次のデートに誘ってくれる浦川先輩はすごく素敵に見える。でも……。


私は曖昧に微笑んで、またイルカを見るふりをした。イルカがどんな演技をしているかなんて見ていない。私がどうしたいのか、それをずっと考えていた。




「今日はありがとう」


「こちらこそ、楽しかったです」


またね、と浦川先輩とは駅でわかれた。明希先輩なら、送ってくれるだろうか。送ってくれたとしても、それは家が同じ方向からなのかもしれない。夕日はすでに地平線に消えようとしていて、街灯がついていた。


私は家へと続く坂をのぼり始めた。

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