自転車
「だめだわ……」
私は、自分の勉強机の上に突っ伏した。
お花見まで、1ヶ月ちょっと。それまでに自転車に乗れるようにならないといけないなんて。無謀にもほどがあるよ……。
そのまま、どうやったら自転車に乗れるようになるかを考えていたら、下からお母さんに呼ばれた。
「さくらー! 夏海ちゃんから電話よ」
「は、はーい!」
受話器を取ったら、夏海が笑いを含んだ声でからかってきた。
<自転車乗れるんですかぁ〜?>
「乗れないに決まってるじゃない〜」
<練習するの?>
「そのつもりだけど……」
<仕方ないから付き合ってあげてもいいけど?>
まじで!?やったね!私は嬉しくなって、
「いいの!?ほんとに!ありがとう」
と、即答した。こうやって、私は、夏海に付き合ってもらいながら、毎朝自転車の練習をすることになったのだ。
しかし。
「なんで!? なんでこんなに乗れないの!?」
「ひーん……。ごめんなさい……」
朝に練習を始めて5日。私はこけてばかりで前進が全くできていない状態だった。部活のない朝方から、夏海は練習に付き合ってくれているのだが、本当に嘘みたいに乗ることができなかった。
「もう一回!」
スパルタ夏海先生の声が公園に響く。夏海が自転車の後ろを持ってくれて、また私はゆっくりとこぎだした。
恐る恐るペダルを踏み、ゆっくりと回す。
「もっと早く回さないとバランス取れないでしょーが!おそい!」
言われた通り、もう少し早くこぐ。
「前見て、足元ばっかり見ない」
「は、離さないでね」
私が夏海の方を見たとき、バランスを崩した。
「いったーい」
夏海も一緒にこける。
「ごめん……」
「前見てって言ったのに……」
結局この日も乗れないままだった。
「よし! だいぶ進めるようになってきたね」
私は、二週間とちょっとかけてようやく少し進めるようになった。だんだん春が来て、暖かくなり過ごしやすくなってきた。
私は、もう少し長く走れるように、公園の外の道路で練習していた。夏海には本当に感謝している。よく、こんな運動神経皆無な私に教えてくれたよな……。
慣れてきて、だんだん距離が長くなるにつれ、私はすこし余裕になっていた。それが、間違いだった。
「桜!みぞ!」
「え!?」
ドンガラガッシャーン!!
何が起きたのか、一瞬わからなくて、腕に激痛が走った。
「いっつ……」
「桜!? 大丈夫? 出れる?」
「出れる」と聞かれて、私はあたりをみた。道路が目線の高さまで来ている。そうか、自転車ごとみぞに落ちちゃったのか。
私は、みぞの淵に手をかけて、みぞから出ようとしたけれど、腕がジンジンして力が入らなかった。
「もしかして、腕やっちゃったの?」
夏海が、青くなって言った。
「そうっぽい……」
なんとか、夏海に助けてもらって脱出できたものの、やっぱり腕には力が入らなくて、夏海に付き添われながら家に帰った。
「せっかく練習に付き合ってもらったのに、ほんとにごめん。ありがとね」
「いいのよ、腕、ひどくないといいね」
病院に行くと、骨折だと診断された。小さい頃からよくこけている私が、腕を骨折したのはこれが初めてではなかった。
これで、お花見に行けなくなってしまった。片手で自転車に乗れない。私は大きくため息をついた。




