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さくらの季節   作者: 木内杏子
27/61

恋人同士

 その日の塾の帰りも、私は奏音くんと一緒に帰っていると、可愛い女の子に声をかけられた。

「あのぉ〜、失礼何ですけどぉ〜。先輩は山野辺くんと付き合ってるんですかぁ?」

 私は、話し方にイラっとしたけれど、我慢した。

「失礼じゃない?君誰?」

奏音くんも、ちょっとイラっとしたようで、声を低くした。

「聞いてることには答えてくれないのねぇ」


 付き合ってない。付き合ってないけど、その一言がなぜか言えずに、私はその子を睨んでいた。

「桜ちゃん、久しぶりね。ごめんなさいね、その子、私の妹の沙羅」

 聞き覚えのある声がして、女の子の後ろに目をやると、沙耶先輩が立っていた。

「……!沙耶先輩、こんばんは」

そして、沙羅ちゃんという、女の子をまた見た。確かに、目の当たりはそっくりだ。

「桜ちゃん、答えられないってことはまさか、明希の弟と付き合ってるわけ?明希に振られたら次は弟と?ふーーん。そうなんだ」


 沙耶先輩は昔と変わらない口調で、じりじりと寄ってくる。

「明希の弟……。よく似てるけどね」

「ここには、何の用事で来られたんですか」

「沙羅のお迎えだけど。夜遅いからってパパがうるさいのよ。じゃあね、忙しいから。あ、本当に付き合ってるの?」

「いいえ」


 きっぱりと奏音くんが否定して、あっそ、と沙耶先輩はいっただけで沙羅と帰って行った。

「ありがとう、奏音くん」


 そういったのはいいけれど、私はなんだか悲しい気持ちになっていた。きっぱり否定されちゃったから?どうなんだろう。


 「気になってたんですけど、結局沙耶先輩とお兄ちゃんって本当に付き合ってたんですか?……その。……きす……もしてたみたいですけど」

奏音くんが顔を真っ赤にしていうから、私はくすくす笑ってしまった。


「まあ、これも色々あったんだけど」


◆◆◆



 三年生が引退し、安東先輩がパートリーダーになって、その後夏海が入ってきたり、クリスマスに演奏会をしたりと、いろいろなことがあったが、明希先輩と私は特に進展はせず、距離が開く一方だった。体育祭が終わってから、明希先輩は部活を休みがちになり、授業が終わったらすぐ自転車に乗って帰っていたことは覚えているが、具体的に何があったか、私は知らなかった。



 年が明けて2ヶ月経ったある日。


「沙耶」

「明希、今日は平気なの?お父さんは?」

「うん、だいぶ落ち着いた。何?こんなところに呼び出したりして」


 私の目線の先には、明希先輩と沙耶先輩がいた。音楽室から出入りできるバルコニーで、2人は待ち合わせをしていたらしい。明希先輩にリズムを聞きにきた私は、固まってしまって、その場でしゃがんで隠れることしか頭が回らなかった。


 「もう、キスするのはやめよう」


『!?!?』


 濃い話しだな、と心で突っ込みながら、私は聞き耳を立てていた。キスをするのをやめる?2人はどんな関係なの……。私は今度は叫んでしまわないように、口を押さえた。


「わたしは、明希のことが好きだよ。明希は、わたしのことが好きでキスしてるの?」


「……」


「ただの友達って思ってる?昔から遊び半分でしてるから?」


 沙耶先輩が問い詰める。遊び半分でキスをするなんて、常識の範疇はとっくに超えているが、なんとか声を抑えながら次の言葉を待つ。


「違う」


「じゃあ、これ、受け取ってくれる?」

ガサ……っと、紙袋のような音が聞こえた。わたしは嫌な予感がした。


「ええの?」

まだ固い声の明希先輩が言う。


「頑張って作ったの。チョコ、苦手じゃなかったよね?」

照れを含んで、いつもより高い声の沙耶先輩が囁くように言った。

「うん、嬉しい。ありがとうな、沙耶」


「じゃあ、告白して?」


 暫くの沈黙が続いた後、明希先輩はとうとう言ってしまった。


「沙耶、付き合ってください」


「はい!」

沙耶先輩の嬉しそうな声が聞こえた。


 私は、その場を早足で去った。頭が混乱して、涙も出ない。私の恋は終わった。明希先輩は沙耶先輩に告白して、2人は付き合った。だから、私の恋は終わったのだ。


今日はバレンタインだった。


「桜〜〜?リズム聞けたの?」


 芳佳ちゃんと廊下ですれ違って声をかけられて、私は泣いてしまった。

「芳佳ちゃん、終わっちゃったよ。明希先輩と沙耶先輩が付き合っちゃった。つらいよ……」

芳佳ちゃんはびっくりして、私を抱きしめてくれた。

「そうか、つらかったね」




 その日から、明希先輩と沙耶先輩が一緒にいるのをよく見かけた。パートは同じなのに、また、明希先輩と距離が開いてしまって、胸が痛かった。明希先輩はそれからも時々早退して、練習に来ている時も、パート練習以外はユーフォニアムのところに行ってしまっていた。安東先輩も何も言わないし、明希先輩はますますトロンボーンパートから離れていった。



「安東ちゃん、申し訳ないんだけど、山野辺をトロンボーンパートに帰らせてくれないかな、沙耶も全然集中できてないみたいだし」


 こう言って、やってきたのは沙耶先輩が属しているバスパートのパートリーダー、新谷先輩だった。


「そうね〜、こっちもそろそろ注意しないとと思ってた」


「やっぱり? 安東ちゃんもそう思ってた?」


数分後、明希先輩が連れてこられて、不機嫌そうに私を見た。もしかして、覗いてたことばれてたのかな……。そう思った私は、サッと目線を外した。


パート内に気まずい雰囲気が漂ってしまった。



それから三週間くらい経ったある日。

突然、いつも無口な鹿島先輩が言った。


「花見いかない?三月の終わりあたり」


突然の提案に、パート全員が別の意味で言葉を失った。


「そ、そうね、鹿島!いい提案だわ。さざなみ公園とかどう?」

安東先輩が慌てて賛成して、ここ三週間、あまり口を開かなかった明希先輩もニカッと笑った。


「じゃあ、チャリで行こか。あっこ、電車もないから不便やねんな〜」


まじか……。自転車か……。乗れない!!どうしよう。私は助け舟を求めるように、夏海を見た。夏海は、私が自転車に乗れないことを知っていた。

でも夏海は、ニヤッと笑って何も言わなかった。


「どうしよ……」


「どーした?桜」

芳佳ちゃんが小声で話しかけてくれたけど、私は首を横に振った。


「じゃあ、きまり!楽しみ!」


今更、自転車乗れないなんて言えない。

やっと長い?のがかけました。


可愛い沙耶が書きたかったんです……。

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