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さくらの季節   作者: 木内杏子
26/61

朝のひと時

ピピピピピ……。


「朝か」


私は、眠い目をこすりながら起き上がった。寝汗をかいていて、気持ち悪い。私は、急いで着替えて、部活に行く用意をし始めた。


背の低いタンスの上の浴衣は、昨日の夏祭りがもうとっくの昔のようにぽつんとそこにあった。



階下に下りると、適当に朝ごはんを食べて、お母さんが作ってくれているお弁当をカバンにしまった。


午前8時20分、私は家を出た。

朝なのにもう日差しが強く、セミの声がふりしきっていた。


暑いな〜〜。


それしか考えずに、ひたすら35分間の道のりを行く。


「おはようございます」


誰かに声をかけられるなんて微塵も思っていなかった私は、びっくりしてうつむいていた顔をあげた。


「奏音くんか……。おはよう」


「……」


このまま一緒に行かないのも、流れ的におかしいので、そのまま2人で歩くことにした。


「足、大丈夫ですか」


「うん……。まあ、ね」


たどたどしい会話が続く。いつものように他愛もないことを……。いや、私たちはまだまともな会話をしたことがない。私が一方的に明希先輩の話をしているだけで、普通に会話することなんて、あまりない。

昨日のことを思い出して、奏音くんの今日の顔に、昨日の顔が浮かぶ。


何を喋ればいいんだろう。


「そういえば……」


「はい!」


「桜先輩って誕生日四月なんですか?もう15歳ですか」


奏音くんが話題を振ってくれるようなので、乗るしかない。


「ううん。11月なの」


奏音くんはキョトンとした顔で、私を見た。


「桜なのに?」


なんだか、呼び捨てで呼ばれたみたいで、私は不覚にもドキドキしてしまった。


「な、なんでなんだろうね、お母さんが桜が好きだからとか、昔言ってたけど」


「そうなんですか。ふーん……」


また、会話が止まる。何か言わなくちゃ。


「奏音くんって名前素敵だよね、明希先輩もだけど。由来とかってあるの?」


精一杯考えて、これだ。私たちは初対面かっていうほどの話題のレベル。


「あーー……。母がずっと女の子が欲しかったみたいで。子供が男の子だってわかった後も、女の子を諦めきれなくて、名前が女の子っぽくなったらしいです。明希ちゃんもいけるし、奏音は、もし万が一女の子が生まれても、かのんって読めるでしょ?


「なるほど!」


「まあ、こっちは小さい頃苦労しましたね。よくからかわれたり、先生が読めなかったりしたので」


「そっか。確かに珍しい名前だもんね」


「次は母、お嫁さんが来るのを楽しみにしているんですよ。小さくて可愛い子がいいってずっと言ってる」


私はふふふっと笑ってしまった。


「山野辺家に行ける女子は幸せだな〜」


「母、桜先輩だったら喜んで迎えてくれると思いますよ」


「え……」


突然、奏音くんの声のトーンが落ちた。顔は俯いていて見えない。お世辞なのか、真顔で言ってるのか、茶化しているのか分からなくて、なんと返していいのか分からなくなってしまった。


「うーーん……。まあ私は振られてるし」


聞こえるか聞こえないかの声で行った時、ちょうど学校の前に着いた。


「おはよう」


夏海の声にかき消されて、その言葉はなかったことになった。私はほっとして、校舎の中に入った。

更新遅くてごめんなさい。

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