朝のひと時
ピピピピピ……。
「朝か」
私は、眠い目をこすりながら起き上がった。寝汗をかいていて、気持ち悪い。私は、急いで着替えて、部活に行く用意をし始めた。
背の低いタンスの上の浴衣は、昨日の夏祭りがもうとっくの昔のようにぽつんとそこにあった。
階下に下りると、適当に朝ごはんを食べて、お母さんが作ってくれているお弁当をカバンにしまった。
午前8時20分、私は家を出た。
朝なのにもう日差しが強く、セミの声がふりしきっていた。
暑いな〜〜。
それしか考えずに、ひたすら35分間の道のりを行く。
「おはようございます」
誰かに声をかけられるなんて微塵も思っていなかった私は、びっくりしてうつむいていた顔をあげた。
「奏音くんか……。おはよう」
「……」
このまま一緒に行かないのも、流れ的におかしいので、そのまま2人で歩くことにした。
「足、大丈夫ですか」
「うん……。まあ、ね」
たどたどしい会話が続く。いつものように他愛もないことを……。いや、私たちはまだまともな会話をしたことがない。私が一方的に明希先輩の話をしているだけで、普通に会話することなんて、あまりない。
昨日のことを思い出して、奏音くんの今日の顔に、昨日の顔が浮かぶ。
何を喋ればいいんだろう。
「そういえば……」
「はい!」
「桜先輩って誕生日四月なんですか?もう15歳ですか」
奏音くんが話題を振ってくれるようなので、乗るしかない。
「ううん。11月なの」
奏音くんはキョトンとした顔で、私を見た。
「桜なのに?」
なんだか、呼び捨てで呼ばれたみたいで、私は不覚にもドキドキしてしまった。
「な、なんでなんだろうね、お母さんが桜が好きだからとか、昔言ってたけど」
「そうなんですか。ふーん……」
また、会話が止まる。何か言わなくちゃ。
「奏音くんって名前素敵だよね、明希先輩もだけど。由来とかってあるの?」
精一杯考えて、これだ。私たちは初対面かっていうほどの話題のレベル。
「あーー……。母がずっと女の子が欲しかったみたいで。子供が男の子だってわかった後も、女の子を諦めきれなくて、名前が女の子っぽくなったらしいです。明希ちゃんもいけるし、奏音は、もし万が一女の子が生まれても、かのんって読めるでしょ?
」
「なるほど!」
「まあ、こっちは小さい頃苦労しましたね。よくからかわれたり、先生が読めなかったりしたので」
「そっか。確かに珍しい名前だもんね」
「次は母、お嫁さんが来るのを楽しみにしているんですよ。小さくて可愛い子がいいってずっと言ってる」
私はふふふっと笑ってしまった。
「山野辺家に行ける女子は幸せだな〜」
「母、桜先輩だったら喜んで迎えてくれると思いますよ」
「え……」
突然、奏音くんの声のトーンが落ちた。顔は俯いていて見えない。お世辞なのか、真顔で言ってるのか、茶化しているのか分からなくて、なんと返していいのか分からなくなってしまった。
「うーーん……。まあ私は振られてるし」
聞こえるか聞こえないかの声で行った時、ちょうど学校の前に着いた。
「おはよう」
夏海の声にかき消されて、その言葉はなかったことになった。私はほっとして、校舎の中に入った。
更新遅くてごめんなさい。




