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さくらの季節   作者: 木内杏子
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夏祭りの後に

家に着いた私は、自室に行って浴衣を脱ぎ、パジャマに着替えた後、ベットに突っ伏した。血が出た足の親指と人差し指の間は、まだ少し痛かったが、布団に入って考えたくなったのだ。


「あーー……」


意味もない声を発して、ゴロンと転がり天井を見つめる。ふと、天井に奏音くんの微笑が浮かんだようで、私は頭を振ってかき消そうとした。頭がぼーっとしてしまって、そればかり浮かんで、私は一体どうしてしまったのだろう。


次は横向きに転がってみる。脱ぎ捨てた浴衣が目に入って、のろのろと起き上がってたたみ始めた。夏海はいらないといったけど、人から貰ったものは大切に扱わなければならない。


浴衣に残る、夏祭りの余韻に私は、今日の出来事を思い出すとともに、こんな過去のことを思い出していた。


◆◆◆


それは、2年生の夏。今日のような夏祭りは毎年開かれていて、その年も私は夏祭りに出かけていた。そういえば、去年も自分から行こうなんて微塵も思っていなくて、夏海に誘われるがまま、Tシャツと短パンにサンダルというラフすぎる格好で出かけていたっけ。


夏海は浴衣を着ていて、綺麗だった。

去年も今年と同じように、いろんな屋台か並んでいて、小学生たちがくじの大当たりを狙って何回も引いていたり、わたあめがぐちゃぐちゃになっちゃっている子がいたり。



そんな中に、偶然、明希先輩がいた。

「あれ、明希先輩だ」

「え、本当だ! 桜、行って来なよ。ちょっと喋ってきたらいいじゃん」

夏海は私の背中をいつも押してくれる。


「えーー、でもこんな格好だし」

「気にすることないよ〜」


そうしていると、明希先輩の元に、1人の女の子が来たんだ。明希先輩は手を上げて挨拶をして、その人と歩き出した。


2人がこちらへ向かってくると、その女の子が誰なのか、すぐにわかった。


「あれ、沙耶先輩じゃない?」

私は、一瞬真っ白になってしまった。だって、あんなに楽しそうに、明希先輩が沙耶先輩と話してる。悲しいのか、悔しいのか、なんなのか。私はぐちゃぐちゃになって、2人から逃げるように歩き出して、こういった。


「……うん。向こう行こ」


夏海は黙って付いてきてくれた。もう、2人を見ていないはずなのに、鮮明に2人の様子が私の目の前に映るようだった。


白地に朝顔。普段1つに結んでいる髪を、少し凝ったようにアレンジした綺麗な髪。その髪に光る、銀色のかんざし。


それに比べて私はなんなんだ。


なんのアレンジもされていない、といただけの髪。Tシャツに短パン、薄汚れたサンダル。近所のスーパーに行くような格好で。


自分がどんどん惨めになっていくようで、歯を食いしばった記憶がある。



泣きそうになって、でも泣いたらもっと悲しくなるような気がして、りんご飴を買って、夢中で食べた。いつもより、口数が多くなって、夏海に心配されたけれど、私はそうするしかなかったのだ。


◆◆◆


私はため息をついて、部屋の明かりを消して、布団に潜り込んだ。その時の気持ちを思い出して、鼻がツンとした。


布団の中で目を瞑っても、まだ奏音くんの微笑と、思い出してしまった、明希先輩と沙耶先輩の姿がちらついていた。

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