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さくらの季節   作者: 木内杏子
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打ち上げ(2)

 締めの言葉が終わって、私たちはお店の外に出た。

 夏なのに、星がキラキラ光っている。私は、自転車置き場に向かった先輩たちと芳佳ちゃんにさようならと挨拶して、自分の家の方向に歩き出した。ショッピングセンターと家は35分。まだ8時だし大丈夫だろう。そんなことを考えながら、私は平面駐車場の出入り口から出てしばらく歩いた。


 今日は明希先輩とたくさん話せてよかったなと、1人でニヤついていたら、後ろから自転車の音がした。

まさか。と振り返ると、やっぱり。


「桜ちゃん! 1人は危ないで。家まで送って行ったろ。今日は歩こ。よー考えたら二人乗りは交通違反やし、校則違反や」


「はい、ありがとうございます」


 道路には、一台、二台車が走っていくだけで、8時過ぎにしてはとても静かだった。自分の心臓の音だけが響いているのではないかと私はさらにドキドキした。


 沈黙が続く。


 突然、明希先輩が口を開いた。


「思ったんやけどさ、なんで桜ちゃん、自転車乗らんの?」


 私はびくっとした。ここですごく恥ずかしい告白をすると、私は自転車に乗れない。7歳の時、練習をしたのだが、全く乗れなかった。私は、それを言うのが恥ずかしくて、また嘘をついてしまった。


「自転車が壊れてて、母は車に乗れない人で自転車を使うし、姉も通学で自転車使ってるので、誰のも借りれないし、買わないしでそのままなんです」


「そうなん? はよ自転車買ってもらいな、不便やろ」


「買う時間がなくて……」


 自分でもうまく嘘がつけたと思う。私、嘘の才能があるかもしれない。なんて、そのときは思った。


 先輩と私はまた黙ってしまった。

私は沈黙に耐えられなくなってこう言った。


「……ほ、星が綺麗ですね……」



「……。」


 先輩が何も言わないので、私は恐る恐る先輩の方を見た。先輩は目をまん丸にして私を見つめていた。


 そして、吹き出した。


「ぶっ、はははははははは! あっはははははひはひは!!ふははひはは!」


 私は意味がわからなかった。星綺麗じゃん、上見てよ、先輩。


 私がキョトンとしていると、先輩はまだ笑いながら、苦しそうに言った。


「さ、はっはっは……桜ちゃん、その言葉の意味……ふふふふ……知ってて言ってるん?」


「……へ?」


「それな、ふふふ、あなたは私の想いを知らないでしょうね、ってことやで」


最初は笑っていた先輩が、途中から真顔になったので、私はドキドキした。そして、その言葉の意味を理解するのに、長い時間がかかった。


「そそそそそ、そうなんですか!? え、本当に!! 全然知りませんでした!!」


私は、慌てて全否定してしまった。


 あとで、この話を芳佳ちゃんにすると、そこは知ってましたって言ってたほうがよかったらしいけれど。


「ああ、知らんかったんやな。じゃないと、大胆すぎるよな、桜ちゃんにしては」


そう言われて、私はまた赤くなってしまう。


「桜ちゃんは、恥ずかしがりやからな!」


先輩は私の耳たぶをそっと引っ張った。

 だめだ、こんなことされたら、勘違いしちゃいそうだ。


 そんなことを言ってるうちに、そろそろ先輩の家だ。もうちょっと何か話せればよかったのにな……。


「あ、もうすぐ、俺の家やけど、桜ちゃんちまで送ってくわ、危ないし、怖いやろ?」


私は驚きとともに、嬉しさがこみ上げてきた。


「いいんですか!? ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」


即答で言ってしまった。


「気にせんといて〜。食べ過ぎてちょっと、歩きたかったし」


 そして、私たちは先輩の家を通り過ぎた。


「マーチングって難しいですか」


私は唐突にこんなことを聞いた。


「うーん……。基本は簡単やで。ライトフェースライトとかの動きを覚えたらいいだけやし……。5メートルをな、基本は8歩であるかなあかんねん、まあ先輩いっぱいおるし、大丈夫やで」


私は、理解が追いつかなかったが、ありがとうございます、と返事をしておいた。


「なんでも相談しておいでな」


 先輩は自転車を止めた。そして、私の方に向いて、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


 今日だけでどれくらい幸せなんだろう……


 私は顔が赤くなるのと、ニヤニヤするのをどうにかしようとした。


「家、ついたで」


 先輩が自転車を止めたのはそのせいだったのか。私は先輩と離れるのが少し残念に思いながら、お礼を言った。


「今日は本当にありがとうございました! 正直夜道は怖かったんで助かりました!」


 先輩はにっこり笑った。ああ、この笑顔が私は世界で一番好きだ……。今考えると恥ずかしい思考である。それだけ、私にとって、先輩の笑顔は特別だった。


 先輩は、じゃあ、と言ってまた元来た道を自転車に乗って帰って行った。

 その後ろ姿を私は、見えなくなっても見送っていた。


最近、どきどきとかの感覚が分からなくなってきた作者です……。

漫画読んで勉強します。


打ち上げの夜はみんなが私服でとても新鮮だったのを、書きながら思い出してしまいました。そんな描写も書けばよかったか……。と今さらながら思う私です。

もう制服なんて着ることがないので盲点でした(笑)


とにかく、読んでくださってありがとうございます。

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