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さくらの季節   作者: 木内杏子
15/61

打ち上げ(1)

一週間ぶりの投稿です。とても長くなってしまいました。

 下校の時間。いつものように夏海と別れた私は、山野辺くんと合流した。私は、今日の山野辺くんの様子がなんだかおかしいことに気がついた。いつも陰気な雰囲気は醸し出しているのだが、いつにもまして暗い。私は気になって尋ねた。

「どうしたの? 山野辺くん」

 山野辺くんは返事をしない。聞こえていないのかな……。

「山野辺くん!」

 山野辺くんがびくっと反応した。

「は、はい! ぼーっとしてました」

 私が何かあったのかと聞いても、彼は何もないですと、話してくれなかった。気にはなったが、私は別のことで頭がいっぱいだった。

 もうすぐ期末テスト。私は受験生ということもあって、少し焦っていた。夏休みに入ると、すぐ吹奏楽コンクールの地区大会がある。そして夏休みは練習が終わったら塾に行くことにしている。その延長で秋も冬も、塾に通わなければならない。山野辺くんとの下校の時間も夏休みまでとなる。そう思うと、時間ないな……。ということは超特急で2年生の終わりまでの話を進めなきゃいけないことになる。私はぎょっとして、事情を山野辺くんに話した。そうしたら、彼はくすくすっと笑ってこう言った。

「その塾、僕も秋から通うんですよ。成績がひどいので。帰り送っていくので、またお話し聞かせてください」

まじですか!私は驚いた。山野辺くんはなぜか赤くなっている。

「早く聞かせてください」

少し私より背の低い山野辺くんが、私を下から覗き込んだ。ちょっと、反則だよ。無意識でやってるんだったら危険だ。

「わーーかったっ」

 私は、ちょっと急ぎ気味で話し始めた。



 コンクールのことは少し飛ばすことにしよう。私のお守りや千羽鶴の甲斐なく、銀賞で終わったとだけ伝えておこう。

 コンクールが終わったが、まだ三年生は引退しない。10月の初めの定期演奏会を地元のホールで行い、これが最後の舞台となる。とにかく、コンクールが終わって、二日間の休みがもらえた。これから少しは休めるだろうと私たちはわくわくしていた。



「とりあえず、コンクールお疲れさまでした!」

パートリーダーの佳奈先輩がオレンジジュースが入ったグラスを片手に乾杯の音頭をとった。銀賞と聞いたときはあんなに号泣していた先輩だったが、とても晴れやかな顔だった。

 ここは、某ショッピングセンターの飲食店街のジャパンビッフェ。要するに食べ放題のお店である。ここで、トロンボーンパートだけのコンクールの打ち上げが行われていた。沙耶先輩がいないことをいいことに、私は芳佳ちゃんの後押しもあって、明希先輩のとなりに座って、ちびちびとリンゴジュースを飲んでいた。私は緊張して食べ物もろくに取りに行けなかった。

「桜ちゃん? 何か取ってこよか? ピザ好き?」

明希先輩にこう言われて、おどおどしている私をみて、芳佳ちゃんは軽くため息をついて助け舟を出してくれた。

「桜なんにも取れてないじゃない。もしかして食べ放題はじめて?」

 芳佳ちゃんははじめてといいなさいと目で訴えてきた。これはせっかく芳佳ちゃんがくれたチャンスだと思って、初めてじゃなかったけど、

「そうなの」

とウソをついた。芳佳ちゃんは満足そうにうなずくと、明希先輩に言った。

「すみませんが、先輩、桜についてひととおり教えていただけませんか? ちょうど先輩のお皿も空ですし!」

さすがにそれは強引だよと、私は思ったけれど、先輩はにっこり笑って、

「ええで」

と快諾してくれた。私は芳佳ちゃんに目でお礼を言って、食べ物コーナーに向かう先輩のあとをついていった。本当に先輩は優しい人だ。そしてすごく鈍感……。

 私は先輩に言われるとおり食べ物をとったので取りすぎてしまった。私が赤くなっていると、先輩が、

「さくらちゃんは細いからそんくらい食べとき。なんでも食べる子のほうが可愛いんやで」

と言うもんだから、私はますます赤くなってしまった。

 私たちはまた自分の席に戻って、食べ始めた。前よりか、会話が弾む。私はとても嬉しかった。最近、と言ってももう春ごろの話だが、最近見た映画とか。たしか先輩はサバンナーズとか言ってたかな。サバンナーズは、サバンナに生きる動物たちを最新の技術を駆使して撮影し、編集した映画である。私も見たが、ライオンがド迫力で良い映画だった。

 そうこうしているうちにお開きとなり、佳奈先輩は締めにこう言った。

「さて、コンクールは無事終わりましたが、次は体育祭にむけてマーチングの練習が始まります。たくさん水分をもってくるように。じゃないと倒れちゃうからね! それでは、かいっさん!」

 芳佳ちゃんと私は苦笑いを浮かべた。一年生の夏は私たちにとって、これまでの人生のなかでいちばんきつかったのではないかと思う。







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