お守りの効果
そして、季節は夏本番になった。先輩たちのコンクールはあと一週間後にせまってきていた。私たち一年生はひそかに千羽鶴を作っていた。
「だれか紫色の折り紙持ってないーー? あと赤の鶴足りないからもっと折ってね」
一年生の中でもリーダー格の柏木聖花ちゃんはとてもはりきって仕切っていた。
実は私は、千羽鶴とは別にお守りを作っていた。さすがに先輩全員には作れないが、トロンボーンパートの二、三年生に。それぞれの好きな色はリサーチ済み。そんなにお裁縫が得意ではないのだが、小六のときにリカちゃん人形のウエディングドレスを学校の課題でつくってから、お裁縫にはまってしまったのだ。
一針一針心を込めて縫う。私は夜遅くまでお守りづくりに没頭した。
そして、コンクール三日前。部活終わりの点呼で、聖花ちゃんが部長に千羽鶴を渡した。先輩たちはとても喜んでいた。その千羽鶴は音楽室の黒板のはしっこに飾られた。
さあ、私も先輩たちに渡さなきゃ。私は点呼と顧問の先生の話が終わったあと、ひとりひとりの声をかけてお守りを渡した。佳奈先輩は、渡した瞬間に、私を抱きしめてくれた。
「ありがとう! がんばるね」
「はい!影ながら応援しています」
安東先輩はクールに、でも笑顔になってくれた。鹿原先輩は驚きながら受け取ってくれた。ちなみに鹿原先輩と話したのは、自己紹介以来だった。
あとは……明希先輩。私は、門の方に向かう、明希先輩を見つけた。はやくしないと、自転車に乗っていってしまう
「明希先輩! 」
こっちにすぐ気づいてくれた。足をとめてくれる。私は思わず顔がほころんでしまった。
「どうしたん?さくらちゃん」
私は先輩のもとへ小走りに近づいた。足は完全に治っていた。
「あの……これ。」
私はおずおずとお守りをわたした。
「コンクール頑張ってくださいね」
「え! くれるん? しかも手作りやん。器用やねんなーー! ありがとう」
先輩は驚いたみたいだったけれど、受け取ってくれた。
「あーきいー」
後ろから、明希先輩を呼ぶ沙耶先輩の声がした。
また沙耶先輩に問いただされるのも嫌なので、私は、明希先輩から離れようとした。
「では、また明日。さようなら。」
明希先輩が何かいう前に私は、先輩に背を向けた。
でも
「さくらちゃん!」
私は、明希先輩に呼ばれてふりむいた。
何が起きたか、私はすぐに理解できなかった。先輩の大きく優しい手が頭の上にそっとおかれた。
「ほんまに、ありがとう。めっちゃうれしいわ」
ぽんぽんと頭をそっとなでられたのか。私はやっと理解したその状況に顔が真っ赤になった。
そして気が付いたときには、先輩はもう歩き出していた。私は、恥ずかしさと嬉しさで、そのままさらにぼーーっとしていたが、我に返って、
ずるいです、先輩。
と心の中でつぶやいて、家までの道を並んであるく明希先輩と沙耶先輩を後ろからみながら、歩き出した。




