出会い
「ごめん、さくらちゃんのことは、妹にしか見れないんだ」
卒業式の花束を持った先輩が、私に恋の終わりを告げた。桜咲く季節に私の初恋は儚く散った。
それから2ヶ月。私は、部室である音楽室にいた。
「ついに進路調査だよーー! どこに行きたいのか全然決まってないのに! 部活だってまだまだなのにーー!」
同じパートの夏海がバンバン机を叩く。
「仕方がないでしょう、もう3年生なんだから。去年先輩たちもこんな気持ちだったんじゃないのかな……」
そう言った私を夏海はニヤニヤしながら見つめた。
「なんなのよ」と私が怪訝な顔をすると、夏海は更に口角を上げながらしながらこう言った。
「先輩のこと、思い出してんの?」
「そんなんじゃないし!」
夏海の言ったことは図星だった。二ヶ月経った今も,全然吹っ切れてない。
「そういえばさーー、今の一年に先輩の弟さんいるんでしょーー? 彼、結構イケメンらしいよ。山野辺奏音くんだってさ! ちょっとアタックしてみればいいじゃない!」
夏海はミーハーなところがある。おまけにあまり外聞を気にしないタイプなのだ。
「バカなこと言わないでよ、だいたい年下はタイプじゃないの! ほら、練習始まっちゃうよーー!」
奏音くん。名前は聞いたことがあった。なんの接点もないし、先輩のことがあるからなんとなく避けてしまいそうだし,話すなんて一生ないような気がする。
そんなことを考えながら、私はケースからトロンボーンを出して、いつもの練習を始めたのだった。
その日の夕方。練習が終わって、先生が部員全員を集めた。
「突然ですが、新入部員を紹介します! ほら、女子ばっかりだけど恥ずかしがらなくていいのよ」
みんながざわつくなか、先生の合図で入ってきたのは――
一目でわかった。
私は金縛りにあったように、その男の子に釘付けになった。
「山野辺です。去年まで兄がお世話になってました! 兄が楽器を吹く姿をみてやっぱりこの部活には入りたいと思い、合唱部から転部することにしました。よろしくお願いします」
ざわつく音楽室で、私はなにも言えずにいた。