表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/29

教訓その八〜『離れても、お前達は俺の生徒だ!』


「ジン、大丈夫か?」


『えぇ、気分は大分良くなりました』


「そうか。じゃあ先生、お願いします」



クラス昇格を賭けたソフトボール決勝戦。そこで俺は『ヒナ親衛隊』の奴らに渡された薬が入ったジュースを飲んでしまい、目がぼやけた事から試合は放棄されてしまった。


強制的に救急車で病院まで運ばれた時は、さすがに危機感を覚えた。


病院までもが学校の敷地内にあるのには驚きだ。しかも、ヤス先生いわく、医者は皆一流のドクターばかりだとか…。


今更ながら、このヤクザの学校には驚かされる。


一体、どこまでが敷地なのだろうか…。

だってこのレベルはもはや『街』ですよ?


そして手際良い対応と治療を受けた俺だったが、それからが大変だった。せいぜい一日二日で回復するだろうと思っていたのが間違いだった。


一日でも早く学校に戻り、オタク共にこの失態を血で精算させようと考えていたのだが……。


めまいはするわ、吐き気はするわでズタボロ状態。


どうやらオタク共は容赦ないくらいの量をブッ込んでくれたみたい♪




そしてあれから一週間。俺は今、目に包帯を巻いている。まるで季節違いのスイカ割りみたいな格好だ。



そろそろ視力も回復しただろうと、今から包帯を外す訳だ。


ぶっちゃけ、めちゃくちゃ恐いですよ。もし何も見えなかったらどうしようとか、悪い考えが頭を過ぎる。


心配してくれて駆け付けてくれたダーッと行ってワーの皆と、担任のヤス先生。



そして、医者が包帯を外していく。




恐る恐る目を開けている。




『……一葵』



最初に目に映ったのは、不安そうな顔の一葵だった。


「ジン、良かった。見えるか?」


『あぁ、見えるよ。ヒナ、レイナ、マヤ、ヤス先生。皆、ありがとう』


皆の顔の表情が和らいだのが分かった。


久しぶりだ。太陽の光がこんなに眩しく感じるのは。


そして、太陽の光よりも眩しい皆の笑顔が、ここにあった。


『…でも、ゴメン』


「…は?」


『俺のせいで昇格が…。俺は馬鹿だ。普通は気付くだろ。少なくとも違和感ぐらい感じるはずだ。なのに、俺が馬鹿だから、何も考えずに……あいつらイィ奴だなぁ。とか思ってジュース飲んじまって…』



「はい死ね。そんな事考えてるジン死ね。んでもってジンの状態に気付かない俺死ね。役に立たない能力自慢してた俺死ね!」


…一葵。


「ジンくんのせいじゃありません。私も、もう少し早く気付けば良かったですよね…ゴメンなさい」


…レイナ。


「ホントにゴメンね。アタシがあの人達に強く言えないせいで、ジンくんを辛い目にあわせちゃって…」


…ヒナ。



「心配すんな、ジン。オタク共はアタイが黙らせておいたから。あ、これ、ジンに」


…マヤ。


渡された紙に震えた字で『ゴメンなさいジン様。もうヒナちゃんをしつこく追い回しません。』と、書かれていた。



「本来ならこれは犯罪だ。ジンが望むなら、ペナルティー以外にも奴らを豚箱にブチ込む事だってできるぞ?」


…ヤス先生。

素で恐い事をサラっと言わないで下さい。



『奴らはペナルティーを受けたんですよね? ならこれ以外の罰は必要ないと思います。……そんな事よりも』


「何だ? 俺にできる事なら何でも言ってみろ?」


『俺は構いませんから…その……皆は昇格できないでしょうか?』


「……駄目だな。その意見を認める訳にはいかん」


『お願いします!』


「駄目だ!」


『そ、そんな…』


「貴様一人だけがCクラスに残るなんて、許されると思っているのか?」


『…………え?』


「さっき校長から連絡が入った。会議の結果、特別にダーッと行ってワー『全員』の昇格を認める!」



…………マジ?




『マジでぇーー!?』


「おめでとう、おまえ達」


そう言って、ヤス先生は笑った。そういえば、ここに来てからヤス先生の笑顔を見るのは初めてだ。


「うひょー、やったぜ、ジン!」


一葵が飛び付いてくる。

俺はベットに寝ている体制なので、馬乗りの状態だ。


「おまえ達には何もしてやれなかったな。新しいクラスでも頑張れよ」


そうか…クラスが変われば担任も変わってしまうんだ。


ヤス先生の生徒じゃなくなる……のか。

なんか、寂しいな。



「ヤス先生、俺達は先生に大切な事をしてもらいましたよ」


一葵がベットから降り、ヤス先生の手を握る。



「嘘が下手ですね。俺達の昇格を無理矢理頼み込んだ張本人さん」


ヤス先生は、バレたか…と、照れ臭そうにしている。

一葵に嘘は通用しない…か。




「フッ、半年でも早く卒業できる事を祈ってるぞ、『俺の』生徒達。これは俺からの内緒のお祝いだ。今晩はバレないように勝手に騒げ」



ヤス先生は袋いっぱいの酒とタバコを渡してきた。

うっひゃー、こりゃ今宵はお祭りですな。


「ありがとうございます、ヤス先生!」



そしてヤス先生の車に乗って、学校まで帰って行った。


もちろん俺達は、ヤス先生が言った俺の生徒という言葉の、『俺の』を強調されていた事を聞き逃しはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ