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教訓その七〜アドリブが効かない奴は勝てない!



「ヘーイ、ジンじゃないか。久しぶりだね」


『オーウ、イッパーツ! 元気してたかい?』


「オイオーイ、俺の名前はイッパツじゃないぜ。一葵、か・ず・き・だ。何度言ったら分かるんだい?」


『アハー。うっかり読み間違いしそうな名前だな!』


「それよりジンくん。今、俺達、波に乗ってるぜヘイヘーイ!」


『そーなんだよ! ソフトボールで勝ち進んでるんだぜ! しかも、優勝候補を破ってな!』


「きっとジンのおかげさー! 君のホームランに、観客のハニー達は皆、目がハートになってたぜ!」


『辞めてくれよー。俺の恋のストライクゾーンは、一葵と違って狭いんだからさ!』


「オイオーイ、それは一体どういう意味だい? 場合によっちゃ、俺も怒るぜ?」


『言葉の通り、君のストライクゾーンは広いって事さー』


「オーウ待ちたまえ、それじゃまるで、俺が誰でも良いみたいな感じじゃないか?」


『この前だって、あー…あの………よく肥えたピッグな子いただろ? その子に言い寄られてたじゃないか』


「あー、キャサリンの事かい? 激しい夜だったぜ。…おっと、今のはカトリーヌには内緒にしてくれよな」


『ハッハー! やっぱりストライクゾーンは、広いじゃないか!』


「どんな子にでも、バットは振っちゃうってか! 参ったなこりゃ!」




『どうだ、一葵。俺達のアメリカンジョーク、通用してるか?』


「分からん…打ち合わせ無しのアドリブじゃ、今のが限界だぞ?」


「ジン…只野仁。許さない、許さない…許さない」


駄目だー! 通用してねー!


なぜ俺達が出だしからこんなに必死なのかと言うと、背後から殺気大オーラを感じるからだ。


その正体は毎日毎日飽きもせずにヒナを見にわざわざ教室まで訪れる奴らだ。


ザッと十数人。しかも全員《ヒナ親衛隊》と書かれたハチマキを頭に巻いている。


そもそもの原因は、ヒナが俺に抱き着いた事にある。


身の危険を感じた俺は場を和ませようと、恥を承知で一葵とアメリカンジョークを言ったんだが、どうやら効果はなかったようだ。




どうも俺は変な奴に目を付けられる体質らしいな。


あぁゆう奴らって…なんて言うか…ヤバイよね。

将来はストーカーだよ、絶対。もしくはアニメ見てハァハァ言う人達だよ、うん。


『皆、体育館に勝利の報告しに行こうぜ』


「そうだな。ってか、早くこの場を離れた方が良いぞ、ジン」


よし、体育館行こう。すぐ行こう。


そそくさと逃げる俺だったが、なんか見られてるよ絶対。



「ふん、ジン。これで分かっただろ? ヒナにはライバルが多いんだからお前じゃ無理だって」


マヤ、俺は別にヒナ狙いとかそういうんじゃないんだが…。



何はともあれ、二回戦も突破。しかも優勝候補のグローリーを倒してだ。

俺達のテンションも上がる。


だいぶ数も絞られてきて、残るチームはあと八チーム。


あと三回勝てば昇格ですやん。



その後、二ノ宮の球を体験している俺達にとっては、他の投手が投げる球は遅く感じた。


その事が功を征し、無事に決勝戦まで昇り詰めたのである。



決勝戦ともなれば、全生徒が見に来る。時間も30分などケチな事を言わずに、九回表裏みっちり試合をして勝敗を決める。


決勝戦は2時から。


その前にお昼タイムだ♪


緊張して食が進まないが、大事な場面で空腹で力が出なくては困るので、無理にでも胃に流し込んだ。


……そして、気のせいではない。誰かに見られているような……。


バッと後ろを振り返ると、やっぱり居ましたヒナ親衛隊の皆さん。


ウザイんだけど、殴って良いかな?



だが、今回の親衛隊はなぜか全員ニコニコしている。


そして俺の所まで来て…


「いやー、さっきは悪かったね。どう? 君も親衛隊に入るかい?」


勧誘キターー!


『い、いや。俺はいいです、はい』


「そっか、残念だな。じゃあ決勝戦、頑張ってくれたまえ。これはお詫びの印」


そう言って親衛隊の奴が、俺にジュースをくれた。


何だ、実は良い奴らじゃないか。



「ジン、そろそろ準備しに行くぞー」

『おーう』


一葵に呼ばれグラウンドに向かった。




「では、決勝戦を開始する。礼!」

「お願いしゃあっすー!」


ついに始まったぜ、決勝戦。対戦相手はAクラスの奴らだ。


Aクラスの奴らは、この試合に勝てば卒業試験を受ける権利が与えられるらしい。さすがに気合いが違う。


しかも、隙がない。


今までの奴らは、俺達の体格や、Cクラスなんかに負ける訳がないなどの勝手な判断で油断している部分があった。


だがコイツらはさすがである。誰一人として気が緩んでるやつがいない。


だが、それは俺達もそうだ。あっさり決勝にきたからといって、簡単に勝てると思った試合は一度もなかった。


そうゆう気の緩みがミスに繋がるからだ。



《ダーッと行ってワー》バンプの最終戦が始まった。


俺達は後攻なので、それぞれ所定の守備についた。



ヒナの第一球目…今までの奴らはかすりもしなかった球を難無くミートした。


打球は鋭い。だが、運良く一葵の正面へ。


「しゃあぁ!」


それはグローブには納まらなかったものの、体で止めた。


素早く球を拾い上げ、その隙にファーストについた俺に送球。


よし、これでワンアウトだ…!




………………!!



な、なんだ……




目が霞む………?




球がぼやけ……て






〜スカ〜






一葵の球を取りそこねた。俺の後方に転がっていく。


「ジン! てめぇ何やってんだ!」


マヤから罵声がとぶ。

慌ててボールを取りに行くが、打者は既に二塁にいた。


一度タイムをとり、マウンドに集まる。


「ジンくん。緊張しなくてもいいよ」


ヒナは明るく微笑んでくれた。本来、一番ショックなのはヒナ本人のはずなのに。


投手にとって打ち取った打球がヒットになるのは精神的に辛いのだ。


それを、あろうことか俺のエラーで…。


目が霞んだとは言い訳にすぎない。


『ごめん、みんな』


ここは素直に謝っておこう。


「俺の球が速過ぎたか…ふ、罪だぜ」


くそ、調子にのった一葵を怒る事もできん。



「………………」


レイナが真剣な目付きで俺の目を見てくる。


やばい、怒ってる…?


『あ、あの。レイナ、その…ごめん。ホントに…』


「………あ! いえ、私の配球が甘かったから打たれたんです。気にしないで下さい」


うぅ、この子達は良い子だなぁ〜。

でもその優しさが逆に傷付く。マヤみたいに怒鳴ってもらった方が気が楽だ。


こいつらの為にも、もうエラーはしねぇ。


俺は守備位置に戻った。


「レイナ、ジンの奴…」


「いえ、まだ何とも言えないわ。一葵くん、次はジンくんの体に当たらないように送球してみて」


「あぁ、分かってる」



「なになに? 一葵、レイナ、お前ら何の話だよ?」


「アハハ、マヤちゃん。心配いらないよ♪ 一葵くんも気付くなんてさすがだね」


「ふん、俺を誰だと思ってんだよ」




気を取り直して試合が再開した。二番バッターが打席に入る。


やべぇ……また目が…



(ヒナ、内角低めで)

(オッケー♪)


ヒナが投げた球を、またしても難無く打ち返すバッター。


打球はボテボテのサードゴロ。


一葵がそれを捕球し、俺に送球。


………今度こそ…!


〜スカ〜


…え? また?


「審判! この試合、放棄します! だから早くジンくんを病院に!」


レイナ…何言って…ん


「どういう意味だ? 試合放棄って、いいのか?」


審判の先生もレイナの発言に戸惑っている。


「いいから早く!」


訳も分からない内に、試合は終わり、俺は先生に運ばれて行った。



グラウンドに救急車が登場し、担架に乗せられる。


一葵とレイナが同行してくれ、救急車に乗りながら俺は訳の分からない治療を受けている。


『ちょっと待ってくれよ。試合…俺のせいで皆の昇格を…』


「いいの、ジンくん」


『何でだよ、レイナ!』


「あなた、目が霞むでしょ?」


『あ、あぁ。でも、これくらいで…!』


「試合前に何か変な事なかった?」


変な事…? 特に何もない気が…。


「視覚麻痺症状が出てるわ。瞳に視点が定まってないわ」


…何ですか、それ?


「ジン、ヒナ親衛隊からもらったジュース。あれじゃないか?」


「たぶんそれね。飲み物に溶けやすく無味無臭の薬品。だとしたらまずいわね。致死量を知らない素人が扱えば、最悪失明の可能性まであるの…」


えぇー!? ちょ…何だよそれ?


「よかったな、ジン。レイナが薬品関係に詳しくて」


「い、いえ、そんな。一葵くんこそ《表情》で気付いたじゃないですか」


…表情?


『何だ、表情って?』


「一葵くんは、《心理思考看破能力》を持っているんですよ」


「辞めろよレイナー。照れるだろー」


とか言っている割には嬉しそうな表情の一葵だ。


しかし、何だよ。その思考……何とか能力ってのは。


「ま、そんな大袈裟な事じゃねぇけどな。ただ、人の表情を見ると、そいつの心境が解るんだ。


例えば、目の動きなんかでも嘘か本当かくらいは分かったりする。」


だから俺の表情を見て異変に気付いた…のか。


一葵にそんな才能があったなんて驚きだぜ。




「間違いなく犯人はヒナ親衛隊の奴らだな。ジンに怨みを持ってジュースに薬を入れたに違いない…。くそ、後でぶっ飛ばしてやる…!」


『一葵、気持ちは嬉しいが…それだけは辞めてくれ』


「な、何でだよ。ジンだって暴力はーーー」


『それは俺が俺の為に自己責任でやったから良いんだ。でも、一葵が俺の為にしてくれても、俺は喜ばんぞ』


「……だってよ…悔しいじゃんか」



駄目なんだよ、一葵。暴力だけは…。



俺も前に、友達ーーいや、親友と呼べる奴が因縁つけられて集団にリンチされているのを知った。


もちろん、ブチ切れたさ。


そして、こっちも数人連れて仕返しに行ったんだ。



だが、通報されたのか何なのかは分からないが、現場に警察登場。


あえなく全員捕まった。



あきらかに悪いのは向こうだ。先に暴力を振ったのも…全部向こうが悪い。


でも、罪は同罪。


『先に手ぇ出したのは向こうだろうがぁ!』


「結果的に暴力を振った事に変わりはない。罪は同じだ」



警察はその一点張り。じゃあ俺達はどうすればいいんだ? 大人しくしてろってのか?


ふざけんな…腐ってやがる、こんな世の中。


…と、まぁ俺がグレた理由の一つがこれなんだ。



だから、一葵には俺の為に無理をしないでほしいんだ。


『そんな悔しがるなよ、一葵』


「でもよぉ…」


『バッカ野郎、俺がこのまま大人しくしてると思うか?』


「………は?」



あぁー! もうこっちは完全にブチ切れてますよ。

何あのオタクども調子こいちゃってんの? 俺を誰だと思ってんの?



ふふふ、怪我が治るのが楽しみだなー♪



この失態は血で精算してもらうからね♪ 覚悟してろよオタクども…

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