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教訓その四〜麻薬には手を出すな!


『一葵!遅刻するー!マジ早く起きろって!』


「今の俺を起こすとね……サターンが降りてくるぞ?」


どんな言い訳だよ!



なぜ朝からこんなに慌てているかと言うと、ご覧の通り、相部屋の一葵が起きずに遅刻しそうだからだ。


かと言ってコイツを放置して俺だけ教室に行く訳にもいかんしな…。


完全寮制だから、教室までは歩いて10分の距離だ。


だから朝起きる時間は普通の高校生に比べればかなりゆっくりした方だ。


まぁコイツは朝食の時間も睡眠に使っているから現在八時半…。そろそろ起きていただきたいね。


…と、言う俺も朝食の時間に間に合わなかったが…。


「…あ!今何時だ!?」


やっと起きたかカス。


『あと五分でHR開始』


「起こせよバカ野郎ー!」


さんざん起こしたっつうの…。



やっと覚醒した一葵は速攻で用意し、俺達は教室までダッシュした甲斐あって、ギリギリセーフだった。


「おはよう、ジンくん、一葵」

「おはようございます」


『おはよう、ヒナ、レイナ』


う〜ん、朝から二人を見てるとなんつうか心が癒されるね。


ヒナとレイナに挨拶を交し席に座る。


あ、ついでに後ろの席の奴にも挨拶しとくか…。



『…おはよう、マヤ』


「…ふん」


相変わらず無愛想な奴だ。


そんな感じで今日も一日始まるわけだ。


「あぁ〜おはよう、皆。今回の昇格のための競技が決まった。よく聞け」


担任のヤス先生が入ってくるなり、いきなり話題を持ち掛けてきた。


昇格という言葉を聞き、生徒達は黙っていられない。あちこちで競技は何だなどザワザワしている。


「今回は…ソフトボールだ」


ソフトボール!?

意表を突かれた俺だったが、ソフトボールで勝てば卒業への道が前進すると分かれば、たいした事じゃない。


むしろ、もっと過酷な物を想像していたために、どこか拍子抜けでもある。


「ルールは普通のと変わらん。投手は下手投げ。競技に使う道具も同じだ。ただし、五人一組でやる」


五人? ソフトボールは九人でやるものじゃないのか!?


五人となれば守備の配置など、結構ハードなんじゃないのか?


何せ一人で二人分の動きをしないといけないわけだ。チーム内に足を引っ張られては困る。


「このクラス内なら誰と組んでも構わん。一週間以内にメンバーを組み、紙に書いて提出しろ。提出書に名前がないものは不参加と見なし、もちろん昇格はありえない。…じゃあ出席とるぞー」


出席が終わり、朝のHRは終了した。


それと同時にクラスは賑わう。


誰と組めば有利か、必死で考え、勧誘しているのだ。


中でも目立つのが、やはりヒナ。


彼女の運動能力は半端ではなく凄い。それは誰もが認めている事だ。


男女問わず勧誘されまくるヒナ。


「ヒナさん、私と組みましょ!」

「いや、ヒナちゃん。どうか僕と…!」


人気者だねぇ〜。…と、のんびりしてる場合じゃねぇ!


俺もどこかのチームに入れてもらわなくちゃ!


「アハハハ、私はレイナと組むから。残りは考えとくね?」


そう言ってヒナはレイナを連れて教室を出ていった。


俺もできるならヒナと組みてぇ…。


「ジン…組もうぜ!」


はい、やっぱり一葵から誘われました。


だが、ここは当然…


『もちオッケー!』


何せ、俺は一葵以外の男とはユキの件以来から怨まれてるし、女もマヤと敵対してる俺には関わらないだろう。


…と、すると組む人いなくね?


「なに、心配すんなって!競技がソフトボールで良かったって事だ!」


一葵はやたら自信満々だ。誰かと組む約束でもしてるのだろうか?


『んな事言ったって…誰誘うよ?』


「誘う?そんな必要ねぇよ」


「一葵くん、もう誰かと組んじゃった?」


「いや、ジンだけ」


「じゃあ組みましょ!」


…マジ? ヒナから誘って来てくれた…?


『え…何で?』


「運動が得意なのは俺もだ。特に、野球、ソフトボールは…な」


頼もしい我が親友よ!


そんな訳で俺、一葵、ヒナ、レイナと、考えられる限りで最高なメンバーを組む事ができた。


残りはあと一人…か。


「ヒナ、チームは決まったのか?」


「うん、ここの皆と、マヤちゃんで五人!」


え…最後の一人はマヤ?


「冗談じゃねぇ。女にコビ売るカスと組めるか。てめぇ外れろ」


マヤは凄みを効かせて俺を睨んでくる。


『ざけんな。てめぇとチームワークはゴメンだ。抜けんならてめぇだろ』


「アタイは毎回ヒナと組んでんだ。新人がでかい顔すんな」


『てめぇだってヒナにコビ売ってんじゃねぇか』


「なんだとコラァ!」


「辞めろって!」


また組み合いになった俺達を一葵が必死に阻止する。


…ったく、何でマヤはあんな意地っ張りなんだよ。


もっと素直になれってんだ…!




「マヤが気になる様だね、ジンくん」


でたぁ…一葵。


『まぁ…な』


「マヤがこの学校に来た理由は、ヒナやレイナとは違う。つまり悪事を犯したんだわな」


まぁ…この学校にいる生徒は全員そうゆう奴らだからな。


それにマヤの見た目と性格を考えたら、女暴走族とかやってそうだし…。


「麻薬だよ。マヤが…マヤく…。はい、滑りましたぁ!ツルッツルでございます」


『良いから続き…』


「ちぇ…。でな、麻薬の売人どころか、マヤ自身も麻薬を打ってたらしいぜ。だから、マヤには関わるな」


マヤが…薬をねぇ…。



まぁ、あんな奴どうでも良いさ。


俺達で、あと一人メンバーを見つけてマヤを追い出してやる!


『一葵、手分けして勧誘に行こう!』


「あいよ!」


こうして俺は一葵と別れ、あと一人をチームに誘うべくプラプラ歩いていた。


色々聞いてみたが、やはり食堂での雪の件もあってか、どうも俺とは関わりたくない的な視線を浴びまくった。


それでも諦めずに俺は勧誘を続けた。



ーーーーーー


すっかり日は傾き、そろそろ夕食の時間だ。


結局誰一人OKをもらえず、トボトボと部屋に戻ろうとした時だ…!


寮の裏にある花壇にマヤがいた。


まぁ別に居たから何だって訳じゃないが、少し悪いけど隠れて見させてもらう事にした。


なんと、あのマヤが花壇の花に水と肥料をあげているではないか。


小さくしゃがみこんで一輪の花を見つめるマヤの背中は、教室で見る威張りくさったマヤとは雰囲気が大違いで、思わず健気に思えてくる。


『…マヤ』


後ろから話かけると、マヤは一瞬ビクッと体を反応させ、こちらを睨んだ。


「てめぇ…見てたのかよ」


もういつものマヤである。その事に何故か少し安心してしまった俺がいる。


『優しいじゃんよ。花に餌やるなんて』


「餌っつうな!植物だって生きてる」


意外だよ。本当に意外。

マヤが花を大切にするって事よりも、なんつーか…生を大切にしているからだ。


どことなくマヤは《命》を軽く考えている様なイメージがあった。


しかし、どうやらそれは俺の勘違いだったようだ。



『今のお前、メッチャ可愛いな』


「……なっ!」


おっと、思わず声に出ちまったか…。


マヤも、らしくなく照れているようだ。



「ふん!ユキの次はアタイかい?男は女に求めるものっつったら体しかねぇくせに…偉そうな事言うな!」


『おい、別にユキとは友達なだけだ。…って、体ってお前』



「アタイは信じてた男に裏切られたんだよ!?もう男なんて信じられっかよ!」


マヤは言い終えると荒い息をしながら俺を睨みつけた。


その目からは悲しみが伺える。


『何があったんだよ…』


「アタイはね…不感症なんだよ…笑えるだろ?」


不感症…性行為の時に感じないというやつか。


「もともと体目的だったらしいけどさ。アタイが不感症なのを知った彼は…媚薬を使いやがったんだ」



『媚薬?』


「麻薬の一種さ。理性がぶっ飛ぶ程感じるらしい。そいつを打たれて…アタイがどんな目にあった事か…」


そういやマヤがこの学校に来た理由は麻薬を打ったからだと一葵が言ってたな。


マヤは自分の意思で麻薬に手を伸ばした訳じゃなかったのか。


「タバコ…吸ってるだろ?」


『あぁ』


「禁煙した事あるか?」


『ある。一日もたなかったけど』


「麻薬の中毒性はタバコなんかとは比べ物にならないんだ。薬を打ったアタイは彼なしじゃ生きて行けない体にされちまってね。彼は麻薬取引きで捕まったんだが、それがなかったら危うくアタイは廃人になるとこだったよ」



なぜだ…なぜそんな事を俺に言う。


教室内で一番の敵対関係だっただろ、俺達は。


マヤから真相を聞かされた俺は今までのマヤの行動も仕方ない事か…と思ってしまった。



「…ふ、アタイと同じチームにはなるんじゃないよ」


『は?今更何言って…』


「アタイはこの学校を卒業する気なんてないのさ」


『なんでだよ?』


「卒業したって、待っているのは刑務所暮らし。今頃、元彼もアタイを庇うどころかチクってるからな。罪は消えないんだよ。


前回のマラソンの件なんだが、ヒナとレイナには悪いと思ってる。最初は断ったんだが、しつこくてな…。でも、それが嬉しかったんだ。

だが今回はアタイはチームから抜けることに…」



「それは違う」


マヤがまだ話しの途中だと言うのに、割って入ってきたのはユキだった。


「この学校を卒業できれば、普通の生活ができる事が約束されている」


『マジかよユキ!じゃあマヤが卒業できれば…』


「もちろん」


と、言う事は罪が消えるって事か。


でも、そんな事許されるのだろうか?


いかに校長が元ヤクザだったとしても…いや、元ヤクザだからこそできる事なのかもしれない。


「なんだい…って事はアタイは皆に迷惑かけっぱなしじゃないか」


『ヒナもレイナも気にしてねぇよ。やっぱりこの五人で組もう!』


「いいの…か?こんなアタイを」


『らしくねぇって!それとも自信ねぇのか?』


どうもテンションの低いマヤとは絡みにくいから、挑発っぽい口調で言ってみた。


「ふん、てめぇこそ足引っ張るんじゃねぇぞ」


ほら、いつものマヤだ。


俺は仲直りとこれからもヨロシクの意味を込めて、握手を求めた。


マヤは、やはり男に抵抗があるのだろうか、最初は拒んだが、ガッチリ俺の手を握ってきた。


「…あったかい。それに大きくて力強くて…頼もしい…」


『ん?なんか言った?』


「な…何でもねぇよ!」


?? さっきマヤが何か言ってた気がしたんだが…まぁ良いか。


『それより、なんでユキがここに?』


「マヤだったんだね」


答えになってなーい…。


ユキは花を眺めている。


「この花は私が植えたの。今までありがとう。」


「あ、水と肥料の事?知ってたんだ」


「うん」


あ、今気付いたけど、さっきユキはマヤの事を名前で呼んでたな。


ユキが人を《あなた》ではなく《名前》で呼ぶって事は、少なくとも好意を寄せている証拠だ。


『そろそろ飯の時間だな。ユキ、マヤ、食堂行こうぜ』



その日、皆で食べた晩御飯は、今までになく美味かった。


周りの連中は、昨日まで敵対の関係にあった俺とマヤとユキが、仲良く飯を食っているのを見て、不思議な顔をしていたのが面白かった。

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